42.帰還
「Halt!(停止!)」
急停止により車体が揺れる。
「Feuer!(撃て!)」
瞬間轟音が轟き砲口から光の筋が放たれる。
それは遥か遠くの的を射抜いた。
「この急制動の中命中させるとは……やはり素晴らしい腕だな、アウレール」
「光栄であります!」
「それにクラインも指示を出した瞬間反応できている、素晴らしい」
「ありがとうございます」
「フェラーもかなり装填が早くなってきたな、よく訓練した」
「あ、ありがとうございますっ!」
「ハンスは……」
「仕方ないですよ、単独訓練だと僕の出番は無いですからね……」
エルンストがダス・ライヒ師団に異動してから早1ヶ月、彼らは第2中隊随一と言えるほどの強さを見せていた。やはりかの戦車殺しの部下となるだけあり彼らの能力はかなり高く、連携が取れるようになった今では彼らに敵う戦車は駐屯地に存在しなくなっていたのだ。
そして遂にダス・ライヒ師団は再編を終え、前線へと投入される事となったのだった。
駐屯地を離れる前日の夜、エルンストは戦車の上でアウレールと話していた。
「明日は戦車長として初の実戦だな……大丈夫だろうか」
「弱気とは……少尉にしては珍しいですね」、
「そんな事はないさ」
「少尉なら大丈夫ですよ、小隊の訓練でもきちんと指揮を取れていたじゃないですか」
「それはそうなのだが……やはり緊張するものは緊張する。初の実戦を思い出すな」
「少尉の実戦はどんな感じだったんですか……?」
「……そうだな、小隊の足を引っ張ってばかりだったよ。今じゃ戦車殺しと呼ばれるけどさ」
「意外ですね……少尉にもそんな時期があったんですか」
「当り前さ、強い奴は最初から強いというわけでは無い。何かしらのアクションがあって初めて強くなるんだ。自分だと戦車殺しとして名が広まった例の戦いだな」
「戦車を生身で10両近く撃破したあれですか?」
「そうだ、あの時僕は初めて命の危機を本気で感じて……吹っ切れたんだな、恐怖という感情が」
アウレールは無言で頷く。
「戦車を見ても全く恐怖を感じなくなったんだ。だからこそあそこまで無茶できたんだ。簡単な話アウレールでも可能な事なのさ」
「いえいえ、私には到底真似出来ませんよ……しかし貴重な事を聞けました。ありがとうございます」
「そこまでの事じゃないさ……話が逸れてしまったな。まあやるしか無いんだ。死なない事を祈っておこう」
「そうですね……生き残りましょう」
2人は目の前に浮かぶ満月を見ながら、決意した。
翌日、ダス・ライヒ師団はモントーバン駐屯地を出発した。
共通暦939年9月12日の事である。
戦場には秋が訪れていた。
「この風……この肌触り……戦場に帰って来たな」
エルンストは上部ハッチから半身を出し呟いた。
辺りには幾つもの煙が立ち上り、風に流されて仄かに硝煙の匂いがする。
そして時々白い光の筋や爆発が見られる。
そんな地獄の中をエルンストの戦車は進んでいき、遭遇した敵を瞬時に消し去っていく。
乱れ無く前進するその姿はまるで死神のようであったという。
こうして彼は戦場へ帰ってきたのだった。
死神降臨!
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