39.死神は甦る
「くそっ、いくら倒しても敵の数が減らない」
「弱音を吐かないで撃ち続けるんだ!大丈夫だ、奴らとて不死身じゃない」
「流石、戦車殺しの小隊長殿は言うことが違いますね」
「そんな大層な者じゃないさ。さあまた敵が来たぞ」
「分かってますよっ……!」
エルンスト・ヴォルクマン少尉は現在、SPRSS第3大隊第9中隊所属の小隊長であった。対共和国同盟戦線にて生身で多数の戦車を撃破したことから戦車殺しの異名で知られる人物である。左足を失い以前のような動きは難しくなったものの、義足をつけ小隊の指揮を行っているのであった。
現在、SPRSS第3大隊はバイエルン王国軍の激しい攻撃を受けていた。辺りには砲撃の音が鳴り響き、頭上を無数の弾丸が飛び交う。
塹壕の中、兵士は相手の命と引き換えに1日、また1日と生き延びていくのであった。
「しかし予想以上にバイエルン王国軍は強いな……制空権を取り返すことは未だ出来ずにいる。今のところ数で敵の突破は防げているものの、このままじゃあ時間の問題だろうな」
「ヴォルクマン小隊長殿、大隊本部より指令が届きました」
「なんだ?」
「現在我が隊を攻撃しているバイエルン王国軍の大隊に戦車大隊が増援に向かっている模様。我が大隊と後3時間程で接敵すると思われます。友軍戦車大隊が到着する5時間後までその場を死守せよとのことです」
「遅すぎるだろう!なぜ戦車大隊はすぐに動かない!」
「それが、現在私達第16軍の最東部に展開する部隊が激しい攻撃を受けたそうで……そちらに装甲戦力を大急ぎで回してしまったそうです」
「それは陽動であったという事か……くそっ、何故確認してから動かない、無能どもめっ……過ぎてしまったことは仕方がない。死守するほか無いな」
「……そうですね」
不条理な空気が、地獄を満たした。
「前方に敵戦車発見、奴ら来ましたよ!」
「遂にか……腹をくくらなければ。対戦車砲準備せよ!」
3時間後、第3大隊は遂に戦車大隊と接敵する。
そして死神は再び戦場に現れた。
「もっと弾を!」
「は、はい!小隊長殿!」
「ちっ……!手榴弾をくれ!」
「りょ、了解です」
エルンストは機関銃を片手に塹壕を駆け回っていた。
次々と押し寄せる戦車の動きを手榴弾で止め、不完全な足で飛び乗り中の乗員を殺していく。そして又次の戦車へと走っていく。これを繰り返しながら、何とか敵の戦車を無効化していった。
後に、彼の部下はこう語った。
“その時の小隊長の姿は、まさに戦車殺しの噂そのものでした。普段の姿からは想像できない、あの姿は戦場にいる私たちを大きく勇気づけてくれました。……ですが今思い出すと彼が恐ろしくてたまりません。特に、走り回っていた時の彼の横顔は……いえ、この話は止めましょう”
彼は死神となりながらも、狂気の渦に溺れていたのだった。
結局、第3大隊は戦線の防衛に成功する。
そしてエルンストは前回に比べると軽いものの再び負傷、後方の病院へと送られることとなったのであった。
またもや短くてすみません......
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