37.御前会議 2
深夜、会議が終了する頃。ミリアは語りかけた。
「正直、戦争に勝てると思う?」
「我らが負けることなどあり得ません!」
「本当に?負けたら貴方が責任とれるかしら?」
「……正直私にも分かりません。敵の力は未知数です。ただ共和国同盟を大陸から追い出す力は確実に有しています。私たちが彼らを防ぎきることが出来るかは、実際にしてからではないと分かりません」
「そうでしょうね、意地悪な質問をしてごめんなさい。でも戦争が始まったら何人が死んでしまうのでしょうね……」
「……女王、戦争が始まれば少なくない数の国民が犠牲になるでしょう。しかし国家を守るためには必要な犠牲なのです」
「分かっています。ですがやはり国民が犠牲になると思うと心が痛いのです」
「女王、堪えてください。彼らを死地に向かわせて国を守る、それがあなたの使命です」
「……そうですね。私としたことが見苦しい姿を見せてしまうとは、すまないわ」
「いえいえ、私達にも女王のお気持ち、よく分かります」
「励ましてくれてありがとう。会議は解散よ」
「承知しました」
閣僚らがミリアを気遣いつつ、部屋を出ていく。
そして部屋にはエーミールとミリアだけが残った。
「ミリア、大丈夫かい」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
「今だけの話じゃないさ。一昨日だって過労で倒れただろう?」
「仕方ないじゃない、今働かなくていつ働くのよ」
「……君はもう少し自分の体を大切にした方がいい。もう若くは無いんだ」
「だから歳の話をするなと……」
「誤魔化さないでくれ。本当に心配しているんだ」
「……分かったわよ。明日はゆっくり休むわ」
「是非そうしてくれ、君には長く生きてほしいんだ。……もうそろそろ僕も行かなきゃね。じゃあ、また」
「ええ、さようなら」
エーミールが部屋の外に出る。
「はぁ……」
ミリアは重く深いため息をつき、だらりと椅子の背へもたれ掛かった。
翌日、ミリアはゆったりとした朝を迎えた。
いつもより一時間ほど遅く起きた彼女は、少しだけ遅めの朝食を食べながらお気に入りの小説を読んでのんびりとした時間を過ごした。
朝食後、彼女は
「エーミールと約束したからしょうがないわね」
と呟いて、そのままベッドへと向かって二度寝を始める。
大分疲れが溜まっていたのだろう、少しだけ寝るつもりがミリアが目覚めたときには既に午後4時をまわった所であった。
「あらあら、こんなに寝てしまうとは。いつぶりかしら」
そう言いつつ彼女はゆっくりと起きると、お付きの使用人にコーヒーとクッキーを用意させ、書斎へと向かう。そしていつも読んでいるためになる本ではなく、十年以上前に読んだ物語を読み直し始めた。
「ミリア、調子はどうだい?」
陽が沈んだ頃、エーミールが書斎を訪れた。
「ええ、すこぶる好調よ。おかげさまでね」
「それは良かった。……おお、今日は懐かしい本を読んでいるんだね」
「書斎の隅に残していたのよ。もうこの本を買ったのも十年前になるかしらね」
「そうだね……時が経つのは早いな。もう十年とは」
「仕方ないわよ。歳なんだから」
「君と出会ったのももう40年近く前だね……あの頃僕はただの兵士で君は将来有望な技術士官だったっけ?」
「ええ、まだ成りたてだったけれども。懐かしいわ」
寄り合う二人を月明かりが照らしていた。
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あと今日の深夜に新作上げるかもです




