35.聖なる光
「もっと撃ちまくるのだ!爆撃艦隊に近づけるなっ!」
「やってます!」
「第3砲塔被弾、現在炎上中です!」
「早く消火班を向かわせろ!手の空いているものは区画の封鎖を行えっ!」
「敵戦艦環境に命中!……あっ、敵魔導船爆発しました」
「いいぞ、爆撃艦に近づく奴らをヴァルハラ送りにしてや…」
刹那指令室を白い光が満たす。
その清らかな光の中で全ては無に帰る。
戦場に幾つもの白い光の筋が交錯する。
その無慈悲な光によって幾つもの魔導船が落とされていく。
一度光が現れる、それだけで多くの命の灯りが吹き消される。
そんな美しくも儚い光景を、ルンディルマンは己の艦の指令室から見ていた。
幾つもの悲鳴や怒号が飛ぶ中、彼はただじっと黙り込んでその光景を見る。
そして彼は一言、「済まない」と呟くのであった。
空戦が開始すると火力で劣るウカイネ軍艦隊はドイチュラント軍艦隊に圧倒されていた。
しかしウカイネ側も確かにドイチュラント軍魔導船を撃破しており、両者はじわじわと魔導船の数を減らしていった。
空戦が始まり3時間ほど経っただろうか、両軍の戦力は半分近くにまで減少していた。とその時、ドイチュラント側の魔導船が離脱を始めた。港に帰ることが出来なくなるからである。これに対しウカイネ側は残存艦艇の内、航行に問題が無い魔導船を引き抜いて追撃を開始する。勿論撤退中のドイチュラント艦隊もただでやられる訳が無く、反撃を行う。
ある艦は戦功を焦るあまり突出して十字砲火を浴び爆散し、ある艦は燃料が尽きて海面に着水、バラバラになった。
こうして両軍の魔導船は次々と数を減らしてゆき、ウカイネ艦隊が航続距離の限界から追撃を中止する頃にはドイチュラント軍は総艦艇の実に3/4を失う事となった。その代償として、ウカイネ軍も総艦艇の2/3を失う事となり、今後両軍とも大規模な空戦は不可能となったのだった。
この戦いによって、ドイチュラント国はウカイネ艦隊の交戦能力を奪う事に成功するが、自軍も大きな損害を被ったことでウカイネ本土への上陸作戦は中止となる。
ウカイネ共和国の勝利である。
「くそっ、勝てる戦いでは無かったのか!私を失望させたな、ゲーリング元帥」
「申し訳ございません、総統」
「……敗因を述べよ」
「初期に予想に反して火力で圧倒しきれなかった点です。諜報部の情報に比べてかなり強力な艦をウカイネは持っていました。申し訳ございません」
「……情報とのズレがあったこともある、今回は貴様を許そう。だが次は無いぞ」
「あ、ありがとうございますっ!次こそは期待に応えることの出来るよう、日々奮闘いたします!」
結局、無能な元帥はその地位を変える事無く居座り続ける。
そしてそのせいで、また多くの兵が死ぬこととなる。
「もう駄目かも知れぬな」
ゲーリング元帥の継続の知らせを聞いたルンディルマンは、こう述べたという。
そしてそれは現実となるのであった。
ウカイネへの侵攻が事実上不可能になったドイチュラント国が次に目を付けたのは、勿論バイエルン王国であった。
現在不可侵条約を結んでいるものの、両者は今でも緊張した関係である。そもそも、ドイチュラント国の政権SPRは反バイエルン民族であるため、共存できる訳が無いのである。
ドイチュラント軍主力はバイエルン王国との国境に移され、侵攻計画の実行に向けて着実に準備が進められていくのであった。
短い&ボリューム不足ですみません・・・
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