32.神の盾
共通暦938年夏。膠着した戦線を突破すべくドイチュラント軍は新たな作戦を練っていた。
それは戦線の南端に広がる強固な地下要塞及び魔導砲トーチカ群を超える計画である。現在に至るまで魔導船による爆撃や戦車による突破が図られたものの、さほど損害を与えることが出来ずにいた。
これに対抗する為に、新技術として研究されていた対魔力装甲に目が付けらた。これは前戦争後期に研究が始められ、戦間期の不景気などもあり中断されていたのをSPRが再開させたものである。
原理としては装甲表面に魔力を放出させることで、高圧で放出された魔力を装甲に平行な向きに誘導させ、受け流すものである。これによってほぼ魔導砲の攻撃を無力化する事が出来るという正に時代を変える技術であった。
しかし勿論多くの欠点がある。
1つ目は全面に施すと非常に高出力な魔導炉が求められるという事だ。通常小型魔導炉はさほど出力を上げる事は出来ず、魔導工学の技術力が一般レベルな共和国同盟の戦車は魔導砲より威力の低い実弾砲しか積んでいない。また技術力が非常に高いドイチュラント国、バイエルン王国さえも魔導砲がギリギリ積めるほどの出力しか有していないのだ。
2つ目は費用対効果が低めな点である。
そもそも対魔力装甲は実弾には全く効果が無く、殆どが魔導砲で構成されたバイエルン王国軍ならともかく、せいぜい要塞砲や魔導船の主砲程度にしか使われていない共和国同盟軍に対してはさほど意味を持たないのだ。
そして3つ目として、信頼性が高くないという事である。これは未だ開発途中の技術であるため仕方ないのだが、信頼性の低い兵器を出すことは兵を無駄死にさせる可能性を上げるという事である。
主に以上3つのデメリットから、軍では長らく採用を踏みとどまっていた。しかし魔導砲トーチカを突破する、その点に関すれば非常に有効な兵器と成り得るので937年の12月頃に最初の試作機が作成された。
試作機は3ゾル魔導砲を搭載した現行のドイチュラント軍主力戦車Pz.kpfw IVをベースとし、前面にのみ対魔力装甲を施したものであった。これを用いて3か月に渡り試験、調整が繰り返された。
そして共通暦938年3月22日、試作機が遂にトーチカ群に配備されている5ゾル魔導砲を無効化する事に成功する。
この実験の成功により軍は対魔力装甲を持つ戦車を量産する事を決定、938年4月の終わりより、試作機を元にした前面にのみ対魔力装甲が用いられた先行量産型の量産が始まった。
そして8月、この先行量産型が配備された機甲師団、後に「神の盾」と呼ばれるこの師団が慣熟訓練を終え戦線南方へ到着した。
更に爆装に重点を置いた大型魔導船で編成された爆撃艦隊、及び機動攻撃で味方魔導船を護衛する小型魔導船により編成された護衛艦隊が集結、1か月後に行われる予定であるクシェピツェ要塞突破作戦、通称「神の盾作戦」へ向けて最終調整を行っていた。
「へーっ、これが魔導砲を弾くと噂の新型戦車か……見た目は普通だが」
「ええ、見た目は普通ですがちゃんとついてるんですよ。……ところであなたは誰ですか?この辺りじゃ見かけない顔ですし、着ているその服はどう見ても軍服じゃありません。……拘束させていただきますね?」
謎の男は銃を突き付けられつつ焦りながら身分証を見せる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は爆撃艦隊の者だよ、こんな格好でも!ほら、ここに書いてあるだろ?」
「ええと、ロートマン軍曹ですか。頼みますよ、きちんと軍服位着てください。それに許可なく陸軍の管轄区に入ってこないでください、と言うかどうやってゲートを突破したんですか?」
「いやぁ、上官に付いてきたから簡単に入れましたよ」
「その上官は誰ですか?」
「私だよ」
ふと横から長身の男に声を掛けられる。階級章から大佐という事が分かる。
「エルンスト・ルィンデルマン大佐だ、爆撃艦隊旗艦ヴィスマルクの艦長をしている。部下が迷惑を掛けて済まなかったな」
「いえいえ、お気になさらず。そこまで迷惑は掛かっていませんから。それにしてもお二人はどのようなご関係で?」
「ああ、こいつはうちの艦の爆撃名人なんだよ。でもって頭も周るのでな、秘書代わりに使っているのだよ。……まあそれ以外は壊滅的なんだが」
「ああ、そうなんですか。では小官は失礼致します」
「じゃあな、お堅い陸軍の少尉さん」
その言葉に苦笑いしつつ、彼はその場を去る。
「貴様ももう少し言動を考えたまえ、では用事も済んだし戻るぞ」
「了解しましたよっと」
もう少しで戦争が大きく動きます
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