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30.臆病な飼い犬は死神へと変わる

「どうやら敵は歩兵しかいないようですね。それにどうやら戦車砲も不足しているらしい。これは簡単に突破できそうですね、戦車長」

ポーレン共和国軍のとある戦車の中で、双眼鏡で敵陣地を見る乗員がやや興奮気味に話す。

「そうだな、とはいえこの後には必ず敵戦車と遭遇するだろう。気を引き締めるのだぞ」

「分かってますよ、さあて女主人に飼いならされた忠犬共を狩りにいきますかねっと」

「よし、戦車前進!」

鋼鉄の馬が唸りを上げ、前進を開始する。


飼いならされた犬に狩られるとも知らずに。



「くそっ、奴ら前進を再開しましたよっ!」

「とは言っても機関銃じゃ随伴歩兵位しか奴らを攻撃できないからな。ヴォルクマン兵長、無駄打ちはするな。戦車を狙うなら旧式の側面を狙うんだぞ」

「そうですね、出来る限りやりますよ。とは言っても暫く出番は無いようですが」

「とりあえずは砲兵に頑張ってもらわないとな、ここで殆ど減らせないとどう足掻いても突破されてしまう」

「せめて魔導砲が配備されてたら良かったんですけどね。あれなら直線上にしか打てない代わりに戦車なんて簡単に貫きますからね」

「どうやって此処まで持ってくるつもりだ、兵長。現実逃避するんじゃない。それに奴さんの戦車だって実弾砲しか積んでいないからお相子だ」

「どこがです……まあ幸運を祈りますよ、小隊長殿」

エルンストの小隊は塹壕内で待機しつつ、味方砲兵の活躍を祈るのであった。



辺りに砲撃音が鳴り響く。

「くそっ、殆ど減ってないじゃないか……」

「仕方ない、もうそろそろ出番だ。小隊は所定位置につけ」

「了解しましたっ」

塹壕の中に幾つもの声が響く。

ある声は興奮しきったもの、ある声は焦った声、それに泣きそうな声など色々な声が響く。その中、エルンストは落ち着いていた。

「果たして生きて帰れるかな」

「ヴォルクマン、生きようと思わねば生き残れんぞ」

「そうですね、小隊長殿。生き延びて酒でも呑みましょう」

「そうだな、奢ってやるぞ」

二人は僅かに笑いつつ、機関銃へと向かう。



「くそっ、もう此処は突破される、さがれ…グフッ」

また一人、戦車の機銃の前に倒れる。

撃たれた事に気付いた頃には、ソレは穴だらけの布切れの様に見える。

そんな地獄以下の状況で、多くの兵士は気が狂って無意味に突撃したり地面に転がり回ったりして布切れへと変えられつつある。

「不味いな……もうこの陣地は突破される。如何に奴らに損害を与えるか……」

そんな中、エルンストは正気を保つどころか、冷静であった。……いや、ある意味正気では無かったのかもしれない。最早彼は臆病者では無かった。



最初の1両が塹壕を越えた瞬間、エルンストは塹壕の中から戦車に向かって手榴弾を投げる。

戦車のすぐ傍で爆発が起きる。しかし履帯が切れただけで戦車そのものにはそこまでの被害は与えていなかった。だが、エルンストはこれを狙っていたのだった。

彼は塹壕から飛び出して戦車に取りつく。敵戦車も必死に砲塔を回転させ必死に振りほどこうとするも、エルンストは戦車の上面へとたどり着く。

「これでも食らいやがれっ!共和国の腰抜けどもがっ!」

彼は上面ハッチに機関銃の銃口を押し付け、引き金を思い切り引いた。

刹那爆裂音、それに鋼を貫く音がいくつも連続して鳴る。

鋼を貫いた弾は戦車の中で何度も跳ね返り、そのたびに乗員の肉を裂く。

5秒程なった後、機関銃の弾倉が空になる。

戦車の中には最早人と言えるものは無く、ただ肉片が転がっているだけである。


エルンストは戦車から飛び降り、塹壕の中へと戻る。そして次の獲物へと走ってゆく。

手榴弾で履帯を切り、上面のハッチから中の乗員を殺す。

機関銃の弾が切れると、その辺りに転がっている歩兵から新たな弾を拝借し、また突撃していく。

手榴弾が切れたのなら、前線に落ちていた酒瓶の内無事な物に布を突っ込み、火を付けて戦車へと投げる。そして混乱している内に、乗員を始末する。

たまたま無傷な対戦車砲を見つければ、敵へ砲身が焼けるまで何度も無慈悲に撃つ。

そうしてエルンストは1両、また1両と敵の戦車を無力化していく。



10両程無力化したころだろうか、味方戦車が戦場へと到着する。

もう敵の戦車も一桁程しか残っていない。

エルンストはまるで味方に獲物を取られまいと敵戦車へと再び突撃していく。

そして5分も経たぬうちに、彼は最後の一両を撃破する。

が、彼は大きな過ちを犯してしまった。

気を抜いたせいで横に潜んでいた敵歩兵に気が付かなかったのだ。

敵は血まみれで息も絶え絶えであり、もう数分の内に死ぬのだろう。が、鹵獲した機関銃をその兵士は持っていた。生身の人間なら簡単にゴミへと変えてしまう機関銃を。


兵士は最後の力を振り絞り叫びながら、機関銃をエルンストへと連射する。

そして困憊しきった上に奇襲を受けた彼は左足にその弾を幾つも食らう。そして彼の左足は一瞬にしてぼろきれへと変わる。


「あれっ……」

彼はそう呟くと、痛みや衝撃、疲労などが混ざる中で意識を手放した。


少しだけ臆病者に頑張らせてみた(´・ω・`)

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