29.命令は死より重い
「ヴォルクマン上等兵、ただいま復帰しました!」
「おかえり、それにおめでとう、ヴォルクマン上等兵。いや今は違うか、ヴォルクマン兵長。昇進だ」
前線へと帰ったエルンストを待っていたのは書類を握りしめニヤリと笑った小隊長であった。
「え、本当ですか?」
「前々から言われていただろ、今回の戦傷が決め手となっただけだ。それと、お前は戦傷章も授与されるとさ。荷物を置いたら中隊長に受け取りに行くんだぞ」
「了解です!」
「はぁ……病院にまだいたかったな……」
「ヴォルクマン兵長、泣き言を言っている暇があったらさっさと機関銃を運べ!」
昇進で喜んでいたエルンストだったが、二日もすればそんな気分は吹き飛んでいた。また地獄へ戻ってきたのだから。
今日もまた、彼は必死に生き延びていく。
3か月ほどたち、戦場に初めての春が訪れる。
とはいえ前線は膠着状態であるため、地には砲弾による幾つもの穴が開き、木は枯れ、花など咲いているはずも無い。
曇り空の下、エルンストの小隊は泥水が溜まる塹壕の中で機関銃を構える。
「……交代はまだかな、温かい料理を食べたいな」
「ヴォルクマン兵長、妄想をしても何も変わらんぞ」
「小隊長殿……そりゃ僕だって分かっていますよ。でも」
「分かっているならしっかりと前を見る。いつ敵が来るか分からないんだからな」
「……了解しました」
またいつも通り地獄の一日が続く。
……とはいえ今日は地獄以上の日となったのだが。
昼飯の黒パンを齧りつつ、エルンストは見張りを続けていた。
「もう黒パンは嫌だ……せめて口の中の水分を奪わないパンにしてくれ」
「そのための豆スープだろうが、ほら」
小隊長がエルンストに冷め切ったスープを渡す。
「それにそんな上等なパンは将校しか食えないさ、食いたいならもっと昇進する事だな、ヴォルクマン“兵長”」
そんないつものやり取りをしていると、小隊の一人があることに気が付いた。
「ねえ小隊長殿、なんか地面から音がしません?」
「そうか?……ヴォルクマン兵長、何か見えるか?」
「えーと……何か物が動いてますね。小隊長殿、双眼鏡を貸してくれませんか?」
「ほらよっと、で何が動いてるんだ?」
「あれは……まずいっ、戦車です!」
「なんだと、司令部からはまだ何もっ」
その瞬間、中隊指揮所の無線が鳴った。
『敵襲、敵襲。敵装甲部隊が接近しつつあり。第7中隊及び第9中隊は戦闘態勢に入れ。なお増援として第3戦車中隊をを送る。30分後の到着までその場を死守せよ』
その命令は一瞬で各小隊に伝えられる。
「嘘だろう……いくら対戦車砲があるとは言え30分も持ちこたえれるのか?」
「出来るか否かでは無く命令をやり切るのが軍人だぞ、ヴォルクマン兵長。たとえ死ぬとしてもな」
小隊長が無慈悲に告げる。
「分かっています……こうなったら意地でも抗いましょうっ!」
その言葉に、エルンストは弱音を捨てて覚悟を決めるのであった。
タイトル詐欺の上に短くてすみません<(_ _)>
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