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28.悲しき出会い

「んんっ……ふぅ……」

とある病室で青年が寝ている。外は赤く染まりつつあり、窓からは涼しげな風が流れ込んでいる。


「……おろ」

ふと、青年が目を覚ます。

「……あれ、ここは何処だろう」

彼は見慣れない光景に違和感を感じつつ、寝ぼけた頭で考えていた。

「僕は草原を歩いてて……敵襲にあったんだっ!僕はおそらく砲撃に吹き飛ばされたのだろう。小隊長殿は大丈夫なのか!?」

彼の突然の叫び声で驚いた看護婦が慌てて駆けつけてくる。

「あら、ヴォルクマンさん。お目覚めになったのですね、良かったわ。貴方2週間近く眠っていたのよ」

「それよりもここは何処ですかっ!小隊長殿はっ!……おっと」

勢いよく立ち上がったエルンストは立ち眩みでよろける。

「ほらほら、落ち着いてください。まだ目が覚めたばかりなんですから安静に。ここはフランクフルト郊外の病院ですよ。それに、貴方のその小隊長さんは無事と聞いています」

「それはよかった……いつ戦場に戻れますかね?」

「少なくとも後1週間は安静になさい。まあ戦場の疲れを落とすつもりで休みなさいね」

「まあ……そうさせて頂きます」

少しばかり穏やかな表情で彼は答えた。



エルンストはクリスマスを病院で迎えることになった。小隊の皆と迎えることが出来ず少しばかり残念な気持ちになりつつも、こんなクリスマスもありかなと思っていた。


「それでは、Prost!(乾杯!)」

「Prost!」

病院では25日の夜、小さなパーティーが開かれた。負傷した兵士や看護婦、医師らが参加し、大いに盛り上がっていた。そんな中、すこし臆病なエルンストは端でワインを啜りつつ、楽しそうに会話している兵士や看護婦を見ていた。

「ヴォルクマンさんも参加しましょうよ!」

ふとある若い看護婦から声を掛けられる。

「僕はいいんですよ、エミーリアさんは楽しんでください」

彼女、エミーリアはエルンストの担当看護婦である。まだ16歳であるが、戦争勃発時に志願して臨時看護婦となったのだ。

「あなたが参加してくれないと私がつまらないんですよーっ。ね?参加しましょ!」

少しばかり強引な彼女に気負けした彼は手を取られ、会場の中心へと連れてかれたのであった。



「ね?いろんな人とお話した方が楽しいでしょ?それに可愛い子とも話せるし」

「まあ、楽しめましたよ……ちょっと疲れましたけど」

パーティーが終わった後、二人は病室で話していた。外からは虫の音が聞こえ、大きな月の光が窓から彼らを照らしている。

「一言余計ですよっ!……まあ私も楽しかったです。今日はありがとうございました」

「君が礼をいう事じゃないさ、それは僕の台詞だ。今日は本当にありがとう」

独特の空気の中、二人は少し照れあう。

クリスマスの夜が更けてゆく。



「これで母さんへの手紙も書けたし、出発の準備も終わった。……短い間だったけど、やっぱり寂しさを感じるな」

クリスマスから二日後、彼の出発の時が迫っていた。

「ヴォルクマン上等兵、時間だ」

「はい、分かりました。すぐ行きます」

迎えの兵士に声を掛けられ、彼は急いでトランクを運び出す。

急いで病院の皆に挨拶を済ませ、外に出た彼を一人の少女が待っていた。

「ヴォルクマンさん、もうお別れですね」

「仕方ないさ、僕は兵士だからね」

エルンストは少し涙目の彼女の頭を撫でる。

「きゅ、急に何するんですかっ!」

「いや、こうすれば幾分か気持ちが楽になるかと思ってね」

「……あなたにしてはやけに積極的ですね。まあ嫌じゃないですけど」


「しかし……さよならだな」

少し寂しそうに彼は呟く。

「……手紙、出してくださいね」

「ん?何て?」

「手紙ですよ手紙っ!ぜっーたい出してくださいね!」

「分かってるよ、勿論出すさ。……さて、もうそろそろ行くよ」

「......お元気で」

「君こそ、元気でね」


二人は離れる。

そして二度と彼らが触れ合うことは無いのだろう。


最早タイトル詐欺ですが気にしたら負けと思っている(´・ω・`)

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