2. 見習い技師ミリア、常識破りの魔導船を考え付く
ダンツィヒ防衛艦隊は山の中での運用を想定しているため、小回りの効く高速小型魔導船で構成されている。
しかし近頃、魔導船がどんどんと大型化されるに従って、搭載される魔導砲の数や火力がどんどんと増大していった。そのため現在の主力小型魔導船では火力不足になりつつある。
そこで、小型ながらも高火力の魔導船を開発することになったのだ。今回のミリアの仕事は、その魔導船の設計であった。
ミリアは考える。
小型ながらも高火力、というのは矛盾した性能要求である。大型であればあるほど、火力が増大するというのが魔導船の常識だからだ。
いかにその矛盾を解消するか、ミリアは自分の知識で必死に考える。しかしそんな簡単に思いつくはずもなく、初日から躓いてしまうのであった。
翌日。
ミリアはダンツィヒの中央市場に買い物に出かけていた。しばらく工房で寝泊まりすることになるので、食料を買いに来たのだ。
「おじさん、バケットを1つください」
「はいよ、お嬢ちゃん。本当は20コルだけと可愛いから18コルにまけとくよ!」
「いつもありがとう、おじさん」
いつも通りにミリアは買い物を済ませる。
工房へ向かい歩いているとふととある言葉を思い出した。
「数を撃てば当たる」
昔から船乗りに伝わる格言の内の一つだ。船がまだ海の上を駆けていたころ、砲の命中率は低かった。そのためにより多くの砲を積み、命中力つまりは火力を上げようとしていたのだ。
しかし魔導砲は非常に精度が良い。重力にも影響されず、一定方向に直線で飛ぶからだ。
ミリアは思いつく。別に多くの砲を積む必要はないのでは無いかと。数によって火力を上げるのではなく、少数の大きな砲を積めばよいのでは無いかと。
ミリアは急いで工房へと帰った。
「師匠!相談したいことがあります」
「なんだ、ミリア。急に慌ててどうした?」
ミリアは先程考え付いた事を話す。
「確かに良いアイデアだな、常識外れだが理にかなっている。しかし問題点が一つ。魔導砲の射角は限られているのから少数で全方位を狙えない」
しまった……魔導砲はとても重いためほとんど方向を固定して使うんだ。
急に思いついたアイデアだったから急いで誰かに伝えたくてよく考えていなかった。
ミリアは深く落ち込んだ。
「だがそこさえ対処策を思いついたのならこれは素晴らしいアイデアになる。頑張れ、ミリア!」
師匠の励ましの言葉に、ミリアの心一転、燃え上がる。
絶対、このアイデアをモノにするぞ!
そう思っていた時期が私にもありました。
あれから早一週間、私は何のアイデアを出すことが出来ず、街をさまよっていた。
どうしようか……重圧が半端ない。
うう……私の心の癒しよ、魔導機械よ。
思わず機関庫の魔導汽車を見に来てしまった。
多くの魔導汽車が扇形の建物に停まっている。
丁度扇の中心部では、入庫して来たばかりの魔導汽車が転回台で回っていた。
……うん?転回台!?
私はアイデアを思いつき、物凄い勢いで工房へと走った。
ミリアが思いついたアイデア。それは砲を回せないのなら土台ごと回せばいいじゃないか、というものであった。
砲を土台ごと回すことで、射角を広めることが出来る。
ミリアは急いで師匠に伝える。
「なるほど、砲の土台ごと動かす、か。私には思いつきもしなかったな。いいぞミリア、やってみろ」
師匠からのお許しを頂いたミリアは喜び、そしてすぐに設計図を書き始めた。
ミリアは魔導砲付近の構造を以下のように設計した。
まず円筒を真ん中で2つに分け、上部を砲設置部、下部を魔導砲を使うために必要になる魔石を貯蔵する場所とした。
次に甲板上に先程の円筒の下部がちょうど入るように円筒状の穴をあけ、そこに弱い出力の浮遊魔法をかける。
最後にその穴に円筒を差し込む。
これによって僅かな力で回転させることのできる、砲の完成である。
シンプルな構造ではあるが、画期的な物である。
ミリアは早速砲構造の設計図を師匠に見せた。
「いいじゃないか、最高だ!ミリア、よくやったぞ!」
「ありがとうございます!師匠!」
ミリアは師匠に褒められ天にも昇りそうな気分になる。
「だがこれからが重要だ。いくら画期的なアイデアとはいえ船体がまともなものでなければまったく意味は無いからな。出来上がり、楽しみにしているぞ」
「はい、師匠。頑張ります」
ミリアはウキウキ気分で、魔導船の設計を再開した。
仕事を受注してからはや一か月。魔導船の設計図が完成した。魔導船は小型の船体に魔導砲構造物を艦橋の前後に2門配置した、シンプルな設計だ。
ここからは実際に船を組み上げ、細かなテストをし問題点があれば改善していくのだ。
組み上げの指示は師匠が行う事になっている。ミリアの仕事は一旦ここで終わりだ。
「久しぶりの空だ!」
工房から一歩も出ずに設計していたミリアにとって、空を見るのはほぼ3週間ぶりの事であった。
ミリアは食事の材料を買いに中央市場へと向かった。
中央市場はほぼいつもと変わらず賑わっていた。しかし一部の商品の量、具体的には食料品が少なくなっていると感じた。ミリアはいつものパン屋へと向かう。
「ひさしぶり、おじさん。バケットを1つください」
「いつものお嬢ちゃんじゃないか、20コルだよ。……と言いたいのだが実は小麦が高騰していてね、35コルなんだ。すまないな、お嬢ちゃん。代わりと言っては何だが、たまたま友人から貰った果物をお嬢ちゃんにあげよう」
「いいんですか?おじさん」
小麦が高騰しているという事は食料品が全般的に高騰しているはずである。
「勿論よ、お嬢ちゃんは大切な常連さんだからな」
「ありがとう、おじさん!これからもよろしくね!」
ミリアは幸せな気分でパン屋を去った。しかし何故急に食料品が高騰したのかな、とミリアは不思議に思った。といってもそこまで珍しい事ではない。たまに輸送魔導船が落ちると、値段が上がるからだ。彼女は深く考えることなく、買い物を続けるのであった。
砲塔辺りのお話は史実とは大きく異なりますので、その点はご了承ください。
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