21.総統ミリア、襲撃される
922年、春。
バイエルン王国は新たな艦隊計画を打ち出した。
それは超巨大魔導船を建造するという内容であった。
全長は現在最大の魔導船のおよそ2倍の444ホフにも及び、既存の魔導船に1個取り付けられる魔導炉を8つ搭載した、化け物と言う他ないものであった。
また既存の魔導船の1.5倍ほどの口径を誇る4連20ゾル魔導砲を6基搭載し、史上最大の火力を誇る予定である。
ここまでなら一般的な魔導船を拡大しただけなのだが、一つだけ革新的な点がある。
それはバイエルン王国軍主力魔導船であるブリュンヒルド級、つまり小型魔導船の空中港としても運用できる点である。これによってバイエルン王国軍の主力艦隊は大幅に航続距離を伸ばす事が出来るようになる。
この魔導船はブリュンヒルド級の生みの親であるミリア1世によって考案されたものであり、10年程かけ建造する予定である。
勿論、国内からは不要な投資では無いのか?との声も上がった。しかしミリア1世はこう返した。
「20年以内に前戦争よりも大規模な戦争が必ず起きます。これはその戦争から国民を守るために必要不可欠なのです!」
英雄である彼女にここまで言われて言い返す者は、バイエルン王国には誰もいなかった。
この判断が歴史の分岐点になるとはミリアとエーミール以外、誰も予想だにしなかった。
少し時は戻る。
922年の1月。事件は突如起こった。
ある日、いつも通りに指導者ミリアは演説を行っていた。
演説会はかなりの賑わいを見せており、彼女がいかに人を惹きつけるかをよく表していた。
丁度演説が半ばに差し掛かった頃であろうか、急に一人の男が壇上へ上がる。
異変を察知したSAの隊員が急いで取り押さえようとした瞬間。
銃撃音が会場に響き渡った。
辺りに悲鳴が沸き起こる。同時に幾つもの銃声が鳴り、男は崩れ落ちる。だが時既に遅し、ミリアは肩を撃たれ、その場でしゃがみ込んでいた。
「大丈夫ですか!」
「総統っ!」
「誰か早く医者を呼べっ!」
怒号の中、彼女の意識は段々と薄れていった。
ミリアを襲撃したのはバイエルン民族の男であった。反バイエルン民族のSRPによって多くの同胞が何らかの被害を受けたことが動機だったという。
指導者が意識不明の中、彼女を心酔していた党員の一部は復讐を行うべきだとの主張を始めた。勿論カールを始めとする多くの幹部は一蹴したのだが、悲劇は起こった。一人のSA幹部が襲撃から3日後、独断で行動を起こしたのだ。彼はSAの隊員の一部を率い、バイエルン系の移住地へと向かった。そしてあろうことか火を放ったのだ。
そしてさらに彼らはバイエルン資本の商店などを襲い始めた。これには反資本的な他党も参加し、最終的にはバイエルン以外の商店まで襲撃に遭い、略奪され、時には火を付けられた。暴徒は3万人に達していた。
このように、ベルン及びその近郊都市は恐怖の底に落とされたのであった。
これに対しドイチュラント政府は非常事態宣言を行い、事態の鎮静化の為に軍を3師団ほど派遣した。ろくな武装をしていない暴徒が正規軍に敵うわけもなく、1週間ほどで彼らは鎮圧されていった。こうして残り数十人程となり軍によって包囲されたSA幹部は自ら頭に銃を撃ち、自決した。
政府はミリアに同情的だったためSPRでは無くSAに責任があるとしてSRPにSAの解散を命じ、SPRもこれを認めたためSAは解散された。
しかし、事態はまだ終わっていなかった。
当然ながら同胞の多くを殺され金銭的な損害も受けたバイエルン王国がドイチュラント政府に対し遺憾の意を示し、ある条件を求めてきた。
それはSPRの解散及びミリアを始めとする幹部の身柄の引き渡しであった。
遅い&短くてすみません<(_ _)>
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