幕間1.彼女たちの日常
921年、冬。
後もう少しで年が変わろうとする頃。
31歳になったバイエルン王国女王ミリア1世は一人、ミュンヘン城の自室にて本を読んでいた。
外では雪が降り、窓からは白色に染まった城下町を見ることが出来た。
30代になり体力も徐々に衰えてきたミリアは、仕事の一部を部下に任せ自分は重要な仕事や署名だけをこなすようにし、一日の半分近くを読書で費やした。
とはいえ未だにその美しさは衰えておらず、多くの男を魅了した。
20代後半には多数の貴族から求婚されたものの、自分は国家と結婚したのだと全ての話を断り今に至る。……まあ実際にはエーミールという男が実質的な夫であるのだが。
ふと、部屋のドアがノックされる。
「はい、ご用は何かしら?」
ミリアはドアの外の人物へと尋ねた。
「僕だよ、エーミールさ。少しばかりコーヒーとクッキーを持ってきたのさ。」
「あら、頂こうかしら。中に入っていいわよ」
部屋の中にエーミールが入ってくる。途端にそこは甘い空間へと変わる。
エーミールはミリアのすぐ隣へ座る。同時にミリアは彼へともたれ掛かる。
二人はくっ付きながらクッキーを互いに食べさせ合った。いわゆる「あーん」である。
「ほら、あーん。実は今日のこのクッキーは僕が焼いてきたんだ」
「ありがとう……しかし貴方にそんな暇あったの?はいお返し」
「どうもっと……今日は仕事が意外に早く終わってね、少し作りたくなったんだ。生地には少しだけコーヒー粉を混ぜてみたんだけどどうかな?」
「ほろ苦くて美味しいわ、貴方にしては上出来ね。ほら、口開けなさい」
「まだ続けるのかい?……んぐっ、口に詰め込まないでくれよ。しかし陛下にお褒めいただけるとは、光栄でありますっ!」
「陛下禁止!二人の時はちゃんと名前で呼びなさい。ね、エーミール?」
「……わかったよ、ミリア。しかし君ももう30代なんだ、自重した方が……んぐっ!」
「女性に年齢の事は言っちゃダメだって教わらなかった?それに私だって見た目は少女でしょ?」
「いてて、いきなり殴ることは無いじゃないか!それに少女と言うのはちょっと無理が……いえ何でもないですから拳を下ろしてください」
「分かったらよろしい!ほらあーん!」
「結局続けるのか……まあいいけど」
30代のカップルにしては痛々しいほど甘い二人であった。
同じ頃、ベルンにて。
娼婦ミリアの自宅には一人の男の姿があった。
彼の名はカール。ミリアの旧友かつ、最も親しい人物であった。
「それで今日は家にまで呼び出してどうしたのさ、ミリア」
「いや、暇だったから酒の呑み相手にならないかなと思ったのよ」
「まだ3時過ぎだぞ……ってもう飲んでるのかい?」
「当り前じゃない、一人で飲むのにも飽きてきたから君を呼び出したのだ」
「それでわざわざ党の電話にかけてくるかな普通……まあ来てしまったものだし、飲むとしようか。それで君は何を飲んでいるのかい?」
「このワインよ、支援者のある資産家からプレゼントされたのよ」
「これはブルタニア王国のワインじゃないか……それも30年物。これだけで何マルクすることか……」
「別にいいわよ、貰い物だし。それに今まで何度もお客さんに贈られたこともあったしね。じゃあ早くグラスに注いで」
「君はもう少し金銭感覚を治すべきだよ……はい、乾杯」
「乾杯」
ミリアは一気に喉に流し込む。
芳醇なワインの香りがミリアの喉に広がる。
「やっぱり美味しいわね……もう一杯頂こうかしら」
「君という人は……はい、どうぞ」
その後も恐ろしい速さでワインを飲んでゆき、30分も経たずにボトルを空けてしまった。
「君にはいつも色々と驚かされるよ……で次はこのワインを飲むのかい」
「そうよ、それも貰った物だわ。遠慮せず飲んでね」
「これも相当高いワインじゃないか……味わって飲むよ」
「はい、私にも注いでね」
そう言ってグラスを差し出す。
「分かっているさ、どうぞ」
3時間ほどが過ぎただろうか。
日はとっくに暮れ、街は眠り始める頃だ。
「ほら、カール。起きなさいよ、まだまだワインは残ってるわよ」
「……もう飲めない、勘弁してくれ」
カールはついどんどんと飲んでいくミリアのペースに合わせてしまい、あっという間に限界を超えてしまったようだ。
「総統命令よ、飲みなさいっ!」
「君も酔いすぎだよ……」
いくら酒に強いミリアと言っても、流石に酔いが回ってきたようである。
結局、この後もミリアはワインを飲みつつカールに飲ませようと奮闘し続け、それは彼女が寝てしまうまで続いたのであった。
翌日、朝。
酷い気分の中、カールは目を覚ます。
窓からは白い光が差し込み、まだ少しだけ幼さを残すミリアの顔を照らしていた。
「そういえば君はまだ20代になったばかりだったな……この小さな体でよく頑張るものだ」
カールは誰に向けてでもなく呟く。
彼は少しだけミリアの頭を撫でてから、彼女を起こしにかかるのであった。
自分でも痛々しく感じるほど甘くなりました。ええ、壁を殴りながら書きましたよ。
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