20.娼婦ミリア、党の指導者になる
娼婦ミリアは積極的に党運動に参加し、その弁でどんどんと人を惹きつけていった。
時には多くの党が集まる集会で弁を行い、千人近い聴衆を驚かせた。
敗戦後の酷い経済の下で苦しんでいた彼らにとって、小難しい話をする政治家かぶれよりも素人だが単純な事を分かりやすく、そして印象に残るように話すミリアの方が圧倒的に心を惹きつけられたのだ。
たった40人程であったAPの党員も半年後の917年11月頃には300人近くまで増え、ミリアは最早実質的な党首になっていた。
この頃になると、ミリアの考えに魅了されていた党員はより多くの人々に、より広範に訴える為に党の名称を改称してはどうかと提案がなされるようになった。
こうして共同設立者カール、アントン、そしてミリアによって党の新たな名称が考えられた。
それは社会革命党(Sozialistisch revolutionäre Partei)、略してSRPであった。
新党首ミリアの元、SRPは再スタートを切ったのであった。
党首となったミリアはまず党綱領を制定した。これには反ブルジョア、反バイエルン民族、労働者の保護、企業の国有化などの内容が含まれていた。
次に、ミリアは党の運動を拡大させるためにマスコミを利用することにした。たまたま安値で売られていた週刊誌を買い取り、党の機関紙とした。
この頃にはミリアは娼婦を辞め党首の仕事に専念することを決意し、貯金ほとんどを使い切り自分を買い戻した。
ミリアに心酔する党員にはカールだけではなく軍とのパイプを持つ尉官も含まれていたため、ミリアの党内での勢力は確実に拡大していた。ミリアは党で一番人気の弁士でもあり、演説をすれば数千人の聴衆を集めることが出来るため、党の財政上でもミリアは欠かせない存在となっていた。
そして遂に共通暦919年1月、ミリアの勢力を弱めようとする他の党内の勢力に対し、自らを絶対かつ唯一の指導者とする指導者原理を要求した。当然のように反発はあったものの、ミリアが離党をちらつかせると簡単に屈した。
こうしてミリアは正式に党内会議の議長となった。
絶対的な党の指導者となったミリアはいつしか支持者から指導者を意味する「Führer(総統)」と呼ばれるようになり、段々と党内に定着していった。
人々が寝静まり返った頃、ベルンのとある一軒家にて、一人の女がワインを飲んでいる。
「まったく、私がここまで駆け上ることが出来るとは、2年前の私には想像も付かないわね」
そう言いつつ、少しずつグラスから喉へと流し込む。
「……少しだけ自分を怖く感じるわ。一体私は何を目指し、何処へ行くのか分からなくなる時がある」
言葉を返す者などいない。
女は、少しばかり寂しそうにまたワインを飲む。
この頃、ドイチュラントでは多くの政治団体が乱立し、他の同種団体の会合を武装して襲撃するという事が頻繁に起きていた。このため、ミリアは他党との市街戦の主力となる「Sturmabteilung」、略してSAを設立し、かつて帝国軍人であった者たちが設立したドイチュラント義勇軍の一部の師団よりSAの幹部を招いた。
またほぼ時を同じくして、党勢の拡大を見た実業家からの寄付が相次ぎ、党の勢力は更なる拡大を見せた。919年に3000人程の党員が1年後の920年には6000人にまで拡大し、他党の合流もあってますますの拡大を見せた。
こうして921年ごろには党員数35000人を突破、ポツダムやベルンがあるブランデンブルク地方でも有数の政党になっていた。
とある冬の夜、演説会を終えたミリアはカールと夜道を歩いてた。
「総統、今回の演説も素晴らしかったよ」
「カール、別にあなたまで総統と呼ぶ必要は無いわ、普通にミリアと呼んでくれればいいのに……私と貴方の仲でしょ?」
「君はいいのかもしれないが他の党員への面子というものがあってね、仕方ないのさ」
「今は二人っきりだから……ね?」
「……分かったよ、ミリア。それにしても随分と冷え込んできたね」
「もう冬だもの、それにしても10年前、絶望の底に沈んでいた私は今の私を見てどう思うのでしょうね?」
「そりゃあ、幸せに感じるんじゃないか?自由な身で党を率いる君じゃないか」
「……でもね、党首という責任を背負っているとあのどん底、何も考えなくていい場所に戻りたくなる時があるわ。……隣の芝は青い、ね」
「まあ仕方ないさ、でも確実に君は前に進んでいるんだ。それを忘れなければ、本当にどん底に戻るという事は無いさ。それに僕もいる、辛いときは頼ってくれ」
「ありがとう、カール。貴方は何時でも優しいわ」
「君だってその体でよくあそこまでの責任を負うとは、尊敬に値するよ」
また、1日が終わっていく。
ミリアはそんな時を楽しんでいた。
魔導工学から離れている上にセウトな内容だけど気にしない!
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