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19.娼婦ミリア、会合に参加する

2日後、日曜日。

昼下がり、娼婦ミリアは汽車に乗り隣町へと向かった。

いくら首都とはいえ、20分も走れば窓の外に一面畑が広がっている。

ベルン中央駅からおよそ40分ほどで隣街、ポツダムに着く。ここは神聖帝国時代、皇帝一家が住む宮殿があった場所である。今でもいくつかの宮殿が残っており、前大戦でもここのとある宮殿にて条約が結ばれた。

とはいえ、辺りには農村地帯が広がっている。

ミリアは駅から10分程歩いたところにある小さな酒場へと向かった。



中では10数名が話し合いをしていた。ミリアはその中に見知った顔を見つける。

「カール、来たわよ」

「ああ、ミリア。よく来てくれた。……ええっと、みんな、こちらが昨日話したミリアだ」

「よろしく」

ミリアは一人ずつ握手を求める。

APのメンバーはそれに応え、握手を返しつつ名乗った。


「さてミリア、せっかくだし何か語っていかないか?君の専門ではないだろうけど」

「それもそうね……じゃあ思っていることをぶちまけていきましょうか」

ミリアは皆の方を向き、少しだけ黙る。

メンバーは沈黙の中、ミリアを見つめる。

そしてミリアは語りだした。


ミリアが話したこと、それは前組織にも通じるバイエルン民族排除である。彼らが自分たちに比べて如何に文化が遅れているか、そしてベルンでの虐殺を例に彼らの残虐さを伝えた。さらにはバイエルンの資本がドイチュラント共和国に入り込み、かつて世界の最先端をいっていた優等民族である我らを今この瞬間にも支配しようとしている事を訴えた。


おそらくミリアには弁の才能があったのだろう。拙い言葉ではあったが、それはAPのメンバーの心を響かせるものであった。僅か20分ほどの短い弁で、彼女は確実にメンバーを魅了していたのである。


「以上が私の考えよ。聞いてくれてありがとう」

彼女が弁を終えた瞬間、小さな酒場に拍手の音が響き渡る。

酒場には興奮した空気が詰まっていている。

「素晴らしい弁だったよ、ミリア。君には才能があるね」

「そうかしら?私はただ上手く演説をする人を真似ただけよ、例えば復讐者の会長とか」

「確かにあの人も演説は上手かった。でも彼はかなりの努力の上であそこまでの演説を行うことが出来たのさ。君は初めてでここまでの弁をやってのけた。間違いなく才能があるよ」

「ありがとう、カール。……さて、私もビールを頂こうかしら」

ミリアは未だ覚めぬ興奮した熱気を感じつつ、ビールを喉に流し込んだ。


陽が沈み夜が始まるころ、ミリアは帰ることにした。

「カール、今日は楽しかったわ。来週も来るわね」

「それは良かった、ミリア。それはそうとさ、君はうちの党の弁士にならないか?」

「あら、私はまだ新入党員よ、いいの?」

「君は弁の才能があるからね、それに前の組織からの付き合いだからね、信用も置ける」

「光栄な事ね。分かったわ、弁士になりましょう」

「それは良かった。じゃあミリア、来週も待っているよ」

「じゃあね、カール。また会いましょう」


ミリアは酒場から出る。春とはいえ、この時間は冷える。

「早く家に帰りましょうか」

ミリアは駅へと急いだ。


共通暦917年5月12日の事であった。



丁度同じ頃、バイエルン城の一室で女王は悩んでいた。

それは国民の対ドイチュラント系移民への感情を如何に改善するかである。

少し前の演説でほとんど悪感情は消えた。しかし、それは表向きに限ることをミリアは確信していた。いくら女王の影響が強いとはいえ、心に深く刻まれた悪感情を消すことは出来ない。それは未だに帝国を心の隅で恨み続けるミリアだからこそ、よく分かるのだ。


「陛下、何か悩んでおられますか?」

ふと、副官に声を掛けられる。

「心配してくれてありがとう、エーミール。でも特に悩み事は無い」

「……分かりました、でも本当に悩んだときは私に言ってくださいね」

「勿論よ」

「では、陛下ももうそろそろおやすみになって下さい。すっかり夜も暮れましたよ」

「そうだな、この書類が終わったら寝ようか」

「分かりました、では私も手伝います」

そう言ってエーミールはミリアのすぐ隣に座る。


また、ミュンヘンの夜は更けていく。


セウトな内容が続きます<(_ _)>

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