17.見習い女王ミリア、お忍びで市場を訪れる
バイエルン王国女王ミリアはかつてよく国内の見物をしていた。
しかし治安の低下がみられるこの頃、それは困難な事となっていた。
とある日の朝。彼女はいつも通りエーミールと執務室で仕事をしていた。
「最近は中々外に出れなくて辛いわ、仕事はどんどん増えていくのに。エーミール、君が何とかしてくれないかしら」
「そう言われましても……いくら陛下の願いでも女王の身を危険にさらす真似は出来ません」
「そこを何とか、君にならどうにか出来るでしょ?」
「……分かりました。お忍びで、護衛を複数付ける事を条件にするのならば半日程なら何とかします。あと貧民街には必ず行かないで下さいね」
「ありがとう、エーミール。君も来る?」
「私まで出ていってしまったら仕事が進みませんよ……残念ですけど留守番させて頂きます」
ミリアは正午の少し前に少数の護衛と城を出た。ミリアの服装はそこそこ裕福な町人の娘をイメージしたものである。護衛は全員が王国親衛隊所属の精鋭で、最新型の小型拳銃で武装している。
ミリアはまず城から少し離れた中央市場へ向かう。ここは国内外から集められた様々な種類の品物が売っていて、ミュンヘンで最も栄えている場所である。
「前に来た時と比べて随分賑やかね……これも私の治政が上手くいっている証拠かしら?」
そう呟きつつ、ミリアは食べ物の店へと向かう。
ミリアはとある店で壺に入った何かの卵を見つけた。
「あら、これは何かしら?」
「お嬢ちゃん、これは東方の海で獲れたカビアで、シュトゥーギオンという魚の卵の塩漬けさ。中々この辺りでは手に入れる事が出来なかったが、この頃この街にも入るようになってきたんだよ」
「ふむふむ、噂には聞いたことあるわ。で、やっぱり美味しいの?」
「勿論さ、ただちょっと値が張るぞ?1ウンツェで40マルクだぞ」
「あら、じゃあ2ウンツェ分頂こうかしら」
店主は少しだけ驚く。
「お嬢ちゃん、お金は大丈夫かい?」
「勿論よ、はいどうぞ」
そう言って80マルク分の銀貨を渡す。
「おう、お嬢ちゃん、他のものも見るか?」
「じゃあお願いしようかしら」
そう言ってミリアは店の奥へと入っていった。
「結構沢山の食べ物が変えたわね……一度城に戻ろうかしら」
そう言って市場から出ようとして男とすれ違う。
刹那、男が至近距離からミリアへと切りかかった。
瞬間、護衛が男を撃ち、男は倒れる。しかし時すでに遅し、ミリアは左手を切られていた。買ったものがミリアの手を離れ地面に散乱する。ミリアはふっと意識を失う。護衛は急いでミリアに止血処置を行ったが、なかなか血が止まらない。護衛は急いでミリアを城へ運んだ。
城の医師によって、何とかミリアは一命を取り留めた。後もう少しで出血多量で死ぬ所だったという。しかし、ミリアの左手の神経は傷つけられ、自由に動かすことが出来なくなってしまった。
知らせを聞いたエーミールは非常に後悔した。私が許可を出してしまったから彼女が……そう思えば思うほど胸が痛くなるのであった。
事件から2日後、ミリアは目を覚ます。
エーミールは急いで面会に行った。
「大丈夫ですかっ、陛下!」
「少しだけ怠い気分だけど大丈夫よ、エーミール」
「私がもっと護衛を、いや外出許可を出さなければ……こんな事には」
「私が我儘を言ったからよ、自業自得だわ。あなたが気負う必要は何処にもない」
「ですがっ!」
「もういいのよ、エーミール。あなたの気持ちは十分わかったから。私は大丈夫だから、仕事に戻りなさい。」
「……分かりました、陛下」
後ろ髪を引かれる思いでエーミールは部屋を去っていった。
1マルクは大体58円、1ウンツェは大体28gです。
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