13.見習い女王ミリア、帝国に奇襲す
1か月ほどたったある日の夜。
ミュンヘンの第1師団本部横の倉庫にある兵器が持ち込まれた。
それは鋼の体を持ち、中に魔導炉を秘めた巨大なナニか。
ひっそりと、それでも確実にそれは目を覚ましつつあった。
神聖帝国とバイエルン王国の国境。
既に底には帝国軍と王国軍の姿があった。
バイエルン王国と名乗っているが実質的には帝国と戦争をしているダンツィヒ残党であるからだ。
とは言え王国とは正式には戦争をしておらず、共和国同盟との戦いで手一杯な神聖帝国にバイエルン王国へ手を出す余裕もなかったため、特に武力行使はされていない。
両軍とも塹壕を築いたまま、ただ互いを見張るだけであった。
しかしバイエルン王国成立から4年目のある日、事件は起きた。
帝国軍のとある兵士は星空を見ながら見張りの任に就いていた。
「今日も星がきれいだなぁ……帝都で見る夜空なんかとは比べ物にならない」
塹壕に寝転がりつつ、彼はそう呟く。
どれほどの時間が経っただろうか。兵士は妙な音に気付く。
「なんだ……この低い音は。それに微かに感じる振動。……まさか魔導船かっ?」
急いで空を見回す。がそこには先程と変わらず星空が広がるだけであった。
気のせいか、そう思い兵士はまた寝転がろうとするがさらに音と振動は大きくなっていく。
「なんて音だ、何かは分からんが本部へ報告せねば」
そう言って無線機を取り出して男は立つ。
そこで彼の意識は途絶える。
鉄の塊に轢き殺されたのだった。
帝国軍バイエルン方面軍司令部は大混乱に陥っていた。
本国からバイエルン王国より宣戦布告を受けたとの情報が入ってきたのだ。
「急いで前線に情報を送れっ!」
「前線の隊と連絡が取れませんっ!既に敵と戦闘あるいは殲滅された可能性があります」
「いそいで兵を送れっ、訓練が不十分な隊?なんでもいいからとにかく送るんだ!」
「なんでこのタイミングなんだ……卑怯者め」
司令部からは怒号や嘆く声が絶えず聞こえてくる。
この瞬間、彼らの未来から勝利の二文字は消し去られたのであった。
バイエルン王国の新兵器「戦車」は無限軌道で地を駆け塹壕を越え、搭載した巨大な魔導砲で敵兵を吹き飛ばし、一気に敵の防衛線に穴を開けた。そこに大量の兵を乗せたこれまた新兵器「魔力車」、馬の代わりに小型魔導炉を用いた馬車のようなものだ、が次々と突入していく。空からは大量の小型魔導船が爆弾を落とし魔導砲を撃つなどして、戦車が撃破し損ねた敵を駆逐していく。
防衛線を突破した勢力は二手に分かれ、次々と敵前線の兵を包囲していく。
混乱する指揮系統でまともな指示が出せるはずも無く、無様に帝国軍は包囲されてしまった。そこからはただの殺戮である。
四方から撃ち込まれる魔導砲が帝国兵を消し飛ばしてく。空からは爆弾の雨が降り、周りには死体しかない。そんな地獄が作られた。
ミュンヘンのとある部屋で、満足そうな女が一人、月明かりに照らされている。
「陛下の考えられた新兵器、見事に活躍したそうですね。私も一度見ましたがあそこまで効果があるとは思いもしませんでした」
横に立つ男が話す。
「やはり私は間違っていなかった。あれこそが膠着する戦線の突破方法だ。……しかしここまで活躍するとは思わなかったよ、君と同じだ」
「いえいえ、陛下。私のような者が陛下と同列とは……」
「よく言うな、いつも夜じゃ私をリードする癖に。それに君は私以上に素晴らしい人だ。君がいなければ私の意見なんて下には届かない」
女が少し顔を赤らめ言う
「お褒め頂き恐縮です、でも陛下も素晴らしいですよ……色々な意味で」
「き、君という奴は。今夜は寝かせてやらないぞ!」
「結局そう言って私の言いなりになるのは誰ですかね?」
2人の影は1つに重なる。
今日も変わらず、ミュンヘンの夜は更けていく。
どんどんと文字量が少なくなっていく・・・
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