11.見習い女王ミリア、復讐の準備を整える
バイエルン王国成立後早2年、王国は戦争特需で潤っていた。
二大国の戦争による軍需物資の不足から、魔導技術を持つバイエルン王国に大量の注文が届いたからだ。勿論、ミリアは共和国同盟からの注文にのみ兵器を売却した。
これにより共和国同盟軍の魔導船総数が神聖帝国軍の総数に追いつき始め、戦争開始から2年、バイエルン王国成立から1年半後遂に同盟軍が総数を上回った。これにより帝国軍は徐々に制空権を失い、また同盟軍の反抗作戦もあり徐々に戦線を後退させていった。しかしいまだ帝国軍の経戦能力は十分に残っており、戦争は終わらないのであった。
ミリアは戦争特需で得た金で多くの事を行った。
まずは国内の度量衡の統一である。都市国家が点在していた時代、それぞれの都市で度量衡がそれぞれ違っていた。このままではまともに工業化できないと考えたミリアは、ダンツィヒの規格を基準にし、度量衡を統一させた。
次に言語の統一である。
同じ系列の言語であるものの各都市によって微妙に異なっていたため、標準語としてバイエルン標準語を制定した。これにより国内間での意思疎通の向上がなされ、例えば軍隊などでは命令伝達能力が向上した。
そして最も重要なのはバイエルン国内の工業化である。
これは作れば作る程売れるという戦争特需があったからこそ成せたことである。
バイエルン王国の成立前、都市国家の産業は9割以上が農業であった。そのため輸出は無いに等しく、また工業品は他国からの輸入に頼っていた。その状況を改善すべく、ミリアはダンツィヒが保有する技術を用い工業化に乗り出した。
まず王都に制定されたミュンヘン郊外にて大規模な工場群が形成された。
これらはすべて兵器工場であり、共和国同盟への輸出品を製造する目的で形成された。
ここでは熟練の技術者が1つ1つ銃や砲を作っていくのではなく、1工程だけを覚えた労働者を何人も並べ、それぞれが少しずつ作るという方法、いわゆる流れ作業方式で大量の兵器が作られた。これは神聖帝国や共和国同盟にて用いられている方式で、個人が作るより大量の製品が製造できる。
これらの工場群で得た金を元に、他の地域を工業化し、それで得た金を……といったループでバイエルン王国は国内の工業化に成功した。
そして最後に、バイエルン王国軍の近代化及び魔導船の生産である。
成立当初、軍の8割近くが併合当時のままの装備であり、二大国に比べ30年近く遅れていた。そのため国内に建設された工場を用いて魔導小銃等の魔導兵器を大量に生産、軍に装備させた。未だ3割近くは旧装備のままであるが、後1年もあれば完全に軍の近代化を完了することが出来るだろう。
魔導船については船技師養成学校を開校、ダンツィヒから逃れて来た技師を教師とし、多くの船技師を養成させた。4年の間にもそれなりの数の魔導船を建造していたものの、今年でようやく最初に育成された技師が魔導船を製造するのに必要な知識、技術を持って卒業し、大規模な魔導船建造が可能になった。
「さて、あと少しだな……目的の日まで」
日が沈んだ王都の一室、月明かりに照らされた女は呟く。
「そうですね、陛下。あと少しです」
横に立つ男が答える。
「あと少しで戦争をする兵力を揃えられる……そして奴らを血祭りに上げるのだ」
男は黙って聞く。
「ここまであの日から3年も掛かった……いや3年で済んだという方がいいのか。数多の幸運に支えられて私は今ここに立っている」
「運も必要でしょうが全ては閣下の実力によるものです。閣下が復讐を誓い、それを実行するためにいくつもの事を成し遂げたからこそ、今があるのです」
「……本当に君と言う奴は、私に甘いな。甘すぎて頭が痛くなるほどに」
「閣下はその小さい体で多くの事をしているのです、甘すぎて丁度いい位なのです」
「本当に君は……」
2つの影が1つに重なる。
王都の夜は更けてゆく。
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