10.見習い将校ミリア、王に即位する
ュンヘン同盟を飲み込んだダンツィヒ残党は一挙に国力を増強させた。人口は2倍近くに増え、貿易都市として栄えていたミュンヘンを支配下に置いたため資金収入も3倍近くまで増大した。もはや残党とは言えないほどの規模になったダンツィヒ残党はその後次々と都市国家を併合していき、あっという間に地域を統一した。
ここである提案がなされた。ダンツィヒ残党と名乗るのでは無く、地域の名前からバイエルン国と名乗ってはどうかと。
「エーミール、君の意見を聞きたい」
「分かりました、閣下。私の意見としては名乗るべきと思われます。現在のダンツィヒ残党では正式な国家にはなりえません。それ故他国との外交の時に下に見られたりする事が多々あるでしょう。……いえ、実は今までにも何度か起きています」
「ふむふむ、続けたまえ」
ミリアは真剣にエーミールの話を聞く。
「ですので国と十分言える規模になった今、新たに国を名乗るべきと思われます。一度名乗ってしまえば問題ないでしょう。二大国も未だ戦争中で干渉はしてこないでしょうし」
「やはり名乗るべきであろうな……しかしその場合国家体制はどのようにすべきだろうか。私は順調に拡大するためには王国制が良いと思うのだが……その場合誰を王にするべきか」
「閣下のおっしゃる通り王国制で問題ないでしょう。そして王には閣下が即位すべきと思われます。現在のトップですし」
「私がかっ!?いくら何でも不味いだろう、私は平民であるしまだ17歳だぞっ……と言っても他に適任者はいないのだが」
「血筋など適当に誤魔化せば良いのです。例えば前ダンツィヒ国王の異母兄弟の孫であるとか。どうでしょう、閣下」
「……分かった、他に人もいない、私が即位しよう。……しかしこんなに簡単に王を名乗ってもいいものなのか」
こうしてミリア=デーニッツ改めミリア1世はバイエルン王に即位した。
戴冠式にはバイエルン王国最大の都市ミュンヘンにて行われた。
ミュンヘンの民だけでなく国内から多くの人が若き女王を見ようと式典に押し掛けた。
式典は華々しく行われた。
新国王であるミリアが絹の服を纏い、ダンツィヒの国章が刻まれた指輪を指に付け、魔石が埋め込まれた宝剣と純金製の王笏を持ち式典場へ入場してくる。観衆から祝福の拍手と歓声が浴びせられる。
そして戴冠台へと上がり、バイエルン王即位を宣言する。
新たに作られた煌びやかな王冠。それを副官であるエーミールが新国王であるミリアに被せる。その瞬間民衆からさらなる歓声が発せられる。一瞬にして式典場は声の波に飲み込まれる。
冷めない興奮の中、ミリアとエーミールは戴冠台から降り、手を振りながら式典場から去った。
「物凄い歓声だったな……あそこまでとは思いもしなかった」
「それも陛下の今までの見事な行いによるものですよ」
「まったくエーミール、君はいつでも私を褒めるな」
「事実ですから」
ミリアは少し顔を赤らめる。
「……ま、まあいい。この後着替えて例の場所へ向かうぞ」
「了解いたしました」
ミリアは街外れの丘に来ていた。
そこには一つの小さな石碑があった。
刻まれている文は<偉大なる師匠の魂、ここに眠る>である。
これはミリアがミュンヘン併合後作らせたものだ。
ミリアはミュンヘンを併合した後、付近を散策していた。その時にこの美しい丘を見つけたのだ。そして彼女は思った、ここならば師匠の魂も安らぐであろう、と。
勿論ガードンの遺体が埋まっている訳では無い。ただ小さな箱が埋められているだけだ。
中には一本の古びたペン。ミリアがガードンに初めてもらった贈り物だ。
「師匠、お久しぶりです。3か月ぶりでしょうか?」
少女は石碑にそう呼びかける。
「あんなに師匠に怒られてばかりの見習いだった私も、周りの人に支えられてとうとう女王になりました。あと少し、あと少しであなたの無念を晴らすことが出来そうです」
少女は涙を流す。
「その日を必ず来させます。師匠、待っていてください。……もうそろそろ私は行かなくてはなりません、用事がたくさんありますし。短い時間しか取れず申し訳ありません。ではまた来ます」
そう言うと少女は石碑から離れ、歩き始めた。
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