9ページ目「英輔の魔力。」
「外、出るぞ。家の中で暴れるわけにはいかないしな」
「ふむ」
英輔はヴァームを連れて外に出た。
「では、始めようか」
そう言うとヴァームは先程の注射器で自分の身体に怪しげな液体を注入した。
「見た目は変わんないんだな」
「ああ、だが戦闘能力は・・・」
「ッ!?」
一瞬の出来事だった。
ヴァームは一瞬で英輔に近づいたのだ。
「通常の私の3倍だ」
ゴッ!
ヴァームは英輔の顔面を殴った。
英輔はよろめいたが、なんとか持ちこたえる。
「まるで界王拳だな・・・」
「その界王拳とやらが何かは知らんが、君から向って来ない限り丸薬は取れないぞ?」
「わかってる・・・・!」
英輔はヴァームに向って突っ込む。
3倍の戦闘力でも、隙は出来るハズ・・・。
その隙に・・・・!
「甘い」
ガッ!
見事な蹴りだった。
「か・・・は・・・・!」
英輔の腹部にヴァームの右足が直撃し、英輔は前かがみによろめく。
「この薬も2時間程度しか効かないのでね、殺す気で行かせてもらうよ」
ゴッ!
前かがみの状態の英輔の背中にヴァームの肘打ちが直撃する。
「がッ!」
ドサリと音を立て、英輔はその場でうつ伏せに倒れた。
「もう終わりかね?」
「まだ・・・だ・・・!」
英輔はよろめきながらも立ち上がると、少し距離を取った。
「その行動が無駄なのは君とてわかっているハズだ」
「うるせえ・・・」
確かに距離をどれだけ取っても一瞬で距離を詰められる。
下手に突っ込んでも勝ち目はない。
どうする・・・・?
「来ないのならこちらから行くが?」
「わかってる・・・・よ・・・・!」
英輔は苦痛に耐えながらも考える。
どうすればいい・・・?
あまり時間もない。
薬は2時間程度しか効かないらしいが、ハッキリ言って2時間も持つ気がしない。
それに、一刻も早くリンカを助けなければならない。
ヴァームの薬が切れるまで待つなどと悠長なことは言っていられない。
「うおおおおおッ!」
英輔は考えるのをやめ、とにかく突っ込んだ。
「ヤケになったか」
ゴッ!
「ぐ・・・ッ!」
「・・・ッ!?」
「どう・・だ・・・?」
英輔はヴァームの腕を掴んでいたのだ。
腹部に直撃する瞬間。
「おおおッ!」
英輔は左手でヴァームの腕を掴み、右手をポケットに向って伸ばした。
「届けッ!」
「無駄だ」
ゴキッ!
「があッ!」
ヴァームの蹴りが英輔の右腕に直撃する。
「ぐ・・・あ・・・ッ!」
その一撃で英輔の右腕は折れたらしい。
英輔は右腕を押さえてよろめく。
「もう勝負はついた。君のその腕では私から丸薬を奪うことは出来ない」
「ま・・・だだ・・・!」
「何故そうまでする?君が彼女にそうまでする義理があるとは思えないが・・・・」
「関係ない・・・!アンタには・・・・・・!」
「そうかい。だが、どのみちその腕では満足に戦えまい」
「左腕がある・・・!」
「諦めないのと往生際が悪いのは少し違うんだがな・・・」
英輔は諦める気がない。
しかし、この状況を打開するのはハッキリ言って不可能である。
英輔に残されたのは左腕と両足。
右腕があっても勝てない相手にどう勝つというのか・・・。
俺には、他に力はないのか・・・?
あの魔導書は多少なりと魔力がなければ使えん。お前、魔術師か何かか?
不意にリンカの言葉が蘇る。
魔力・・・・?
「それだッ!」
リンカが魔術を使うには、英輔の魔力が不可欠である。
リンカが魔術を使えるということは・・・。
「俺に魔力がないわけがないッ!」
「何を思いついたか知らんが、そろそろ諦めざるを得なくさせてあげよう」
来い・・・・!
俺の中の魔力・・・・!
あるんなら、ちょっとだけで良い・・・
「俺に力をかしてくれ・・・ッ!」
ゴッ!
英輔の腹部に食い込むヴァームの拳。
「・・・ッ!?」
バチバチバチッ!
「何だ・・・・・!?」
ヴァームの身体に電流が走る。
その瞬間だった。
「おおおおおおおおおッ!」
英輔の左手がヴァームのポケットに潜り込む。
「しまった!」
ゴッ!
英輔の顔面に蹴りが入る。
そのまま英輔は後ろに飛ばされた。
「・・・・!」
ヴァームは急いでポケットの中を確認したが、既に丸薬はなかった。
「取っ・・・たぜ・・・このやろ・・・」
英輔は左腕にしっかりと丸薬を握り、上に突き上げた。
「やられたよ・・・・・」
「ん・・・」
リンカが目を覚ますと、身体を蝕んでいた苦痛は消えていた。
窓からは朝日が射していた。
「どういうことだ・・・?」
「やぁ」
「ッ!?」
リンカの眠っていたソファーの横にヴァームが立っていた。
「闇医者のヴァーム・・・」
「ご存じでしたか・・・」
「お前が何故こんなところに・・・?まさかお前が治したのか?」
「ふふ、頑張ったのは彼だよ」
ヴァームはクスリと笑って床で寝ている英輔を指差した。
「英輔ッ!」
リンカはソファーから飛び降り、英輔に駆け寄った。
「こんなボロボロに・・・!お前がやったのかヴァーム・・・!?」
「間違いではないな。彼には私の作った秘薬を飲ませてある。目覚めた頃には完治しているよ」
英輔は気持ち良さそうに眠っている。
「私はもう行くよ。長居する気はない」
「待て」
リンカに呼び止められたヴァームは振り返る。
「何故だ?お前は金だけで動くハズだが・・・」
「私の気まぐれだよ。彼の必死さに心を動かされたとでも言っておこうか」
そう言うとヴァームはクスリと笑い、立ち去った。
「英輔・・・」
リンカは眠る英輔の顔を、愛おしげに見つめた。
To Be Continued