7ページ目「星屑の罠。」
「森田ッ!」
英輔達が教室に着いた頃には既に遅く、教室の隅にいた少女の霊は化け物と化していた。
耳まで裂けた口、大きく見開いた目、長く伸びた爪。
四つん這いの状態でソレは淳を睨んでいた。
「ひ、桧山君・・・磯野さん・・・」
「愚か者!忠告しただろう!」
「ご、ごめんなさい!!」
最初に来た時は見えなかった英輔にも今はハッキリと見える。
ギリギリ少女の原型を留めたソレが淳を睨んでいる。
「どうすんだよリンカ・・・!?」
「どうするもこうするも、私達で滅するしかない」
「出来んのかよ・・・・」
英輔は霊をまじまじと見つめた。
正直、怖い。
「森田、とりあえずお前逃げろ!」
「でも、桧山君達は!?」
「大丈夫だ!・・・多分」
「多分って・・・」
「ああもう!逃げろって!」
英輔が怒鳴りつけると淳は教室を出ようとした。
その時だった。
ビュッ!
霊の右腕が伸び、ドアに刺さる。
「ニガサナイ」
「ひぃッ!」
「森田ッ!」
霊の狙いは淳らしく、英輔達のことは気にもしていないようだ。
「行くぞ英輔」
「あ、ああ」
ボォッ!
リンカの右手に炎が灯る。
「炎で倒せるのか・・・?」
「炎は炎でも魔術だ。試したことはないが霊にも・・・・」
ゴォッ!
霊に向ってリンカの右腕から炎が噴出する。
「通用するハズだッ!」
「ッ!?」
霊は炎が少し身体に触れた瞬間、跳んで壁に張り付いた。
「アツイ・・・・」
「熱い?少し触れただけじゃないか」
リンカがクスリと笑う。
「アツイ・・・・・・」
「アツイアツイアツイ・・・・!」
まるで呪詛のように霊は「アツイ」と繰り返す。
「お、おい、何か様子がおかしくないか?」
「奴のトラウマにでも触れたのかもな」
「トラウマって・・・」
「生前に経験した恐怖が、炎と関係があるのだろう」
「アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイッ!!!!」
霊はパニック状態に陥ったように何度も「アツイ」と繰り返す。
「イヤダ・・・・イヤダ・・・・!!!!!!!」
「イヤダァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ビュビュッ!
2本の腕がリンカを襲う。
リンカはそれをいとも簡単に避けると、霊に向けて炎の弾を発射した。
「アァッ!!」
弾は霊の身体直撃し、燃え盛る。
「イヤァァァァァァッ!!!!」
霊は燃え盛る炎を消そうとゴロゴロと転がる。
「無駄だ。私の炎はそんなことでは消えん」
「アアァッ!!」
「どれ、もう少し炎を強くしてやろうか?」
リンカはクスクスと笑う。
「待って!」
更に炎を強くしようとしたリンカの前に淳が立ちはだかる。
「ん?何でだ?」
「かわいそうだよ。この霊、こんなに怯えてる・・・」
「それがどうした?コイツはお前を殺そうとしたんだぞ?」
「そういう問題じゃないよ。この霊はホントは悪くない。そうだよね?」
淳は霊に向って微笑みかける。
「ア、アアァ・・・」
「・・・」
不意に炎が消える。
「リンカ・・・」
「チッ!その霊に次はないぞ」
リンカは少々不満気にそっぽを向いた。
「大丈夫かい?」
「・・・」
霊は何も言わなかった。
しかしいつの間にか最初の、震えていた少女の姿に戻っている。
その表情は微笑んでいるようにも見えた。
「磯野さん、ありがとう」
「・・・」
淳は霊にそっと触れた。
「・・・・・・」
淳の脳内に映像が直接流れる。
この霊の記憶なのだろうか・・・?
少女の部屋・・・
燃え盛る炎・・・
次第に炎は少女の身体をも焼き尽くす・・・
「そんなことが・・・」
淳の頬が涙に濡れる。
その時だった。
ドッ!
「ッ!?」
霊の身体を何かが貫く。
槍のようにも見える。
「ア、アァ・・・・」
霊はそのまま消えてしまった。
「誰だッ!?」
教室の入り口に1人の女が立っていた。
それは屋上にいた女だった。
長く伸びた髪を後ろで1つに縛っている。
そして豊満な胸が彼女の存在を強調していた。
「ダメね、即席で捕まえてきた霊じゃ・・・」
「死霊使い・・・!」
リンカは女を睨みながら身構えた。
「死霊使い?」
「死霊、つまり霊を操って戦う質の悪い連中だ」
「質が悪いだなんて・・・。そういうアンタは悪魔でしょ」
「フン、人間上がりの死霊使いごときが私に何のようだ?」
「西瓜の友達・・・って言えばわかるかしら?」
「正確には同じ組織のメンバーだろ?『星屑』」
「わかってるんじゃない」
女はニヤリと笑った。
「『星屑』?死霊使い?一体どういう・・・」
淳が言い終わらないうちにその場に倒れる。
「森田ッ!」
英輔が淳に駆け寄る。
「アイツに何をした?」
「うるさいから黙ってもらったのよ」
「てめえ・・・・!」
「やめろ英輔、何もするな」
拳を握る英輔を、リンカは冷静に制止した。
「おい、死霊使い。目的は何だ?」
「『星屑』の邪魔をするアナタに警告しに来たのよ」
「悪いがやめる気はない。第一私がこの世界に来た本当の目的はお前らだからな」
「そう。なら・・・・」
ドッ!
「え・・・?」
リンカの身体を見えない何かが貫く。
「ここで死んでもらうわ」
「油断・・・した・・・・」
「リンカァァァァァァァッ!!」
To Be Continued