51ページ目「2人の炎。」
「ハァァァァァァ!!」
リンカの周囲で炎が燃え盛る。
リンカの魔力が漏れ出しているのだ。
呪文は既に完成した。
後は……
後は目の前のあの男に、クレスにぶつけるだけ…!
リンカはクレスに向かって右手をかざした。
クレスも同じようにリンカに右手をかざす。
直感でわかった。
クレスは自分と同じ魔術を使うつもりだ。
大方、自分に完全な敗北を悟らせるためだろう。
「兄上ェェェェッッッ!!!」
ゴォォォォッ!!
リンカの腕から膨大な量の炎が放射される。
一見普通に出せそうな炎だがこれ程の量となると流石に呪文が必要だった。
この魔術は呪文系魔術の基礎である。
リンカならもう少し複雑な呪文も使えるのだが…
クレス相手に小細工が通用するとも思えない。
この基礎的な魔術に、今持てる力全てをぶつける。
「リンカ………ッッ!!」
ゴォォォッ!!
クレスの右手からも膨大な量の青い炎が放射される。
そして、2人の間で激しくぶつかり合った。
かなりの密度の魔力がこの一室に充満している。
互いに一歩も譲らない。
炎は互いに中心でぶつかり合ったまま、どちらにも傾かなかった。
「おおおおおおおッッッ!!!!!」
リンカは更に力を込める。
ほんの少しだが炎がクレスの方へ傾く。
「兄上……ッ!私は……私は貴方を止めるッッ!!!」
「止めれるものなら………止めてみろォッ!!」
「ッ!?」
ゴォォォォォッ!!!
クレスの炎の勢いが急激に増す。
再び互いの炎が中心に戻ったかと思えば、凄まじい勢いでリンカに傾く。
「どうだリンカ……ッ!無駄だというのがわかったかいッ!?」
クレスの炎は更に勢いを増し始める。
「く………ッ!!」
もうクレスの炎はリンカの目の前まで迫って来ていた。
リンカが更に力を込めても、炎は尚リンカの方へ傾く。
「もう……ダメか…ッ」
リンカの腕から力が抜けかけたその瞬間だった。
ガッシリと。
リンカの腕が掴まれる。
温かな感触。
そして枯渇しつつあった魔力が再び供給される。
だがこれは自分の魔力ではない。
「しっかりしろよッッ!!!」
「英輔……!」
英輔は背後からリンカの腕を一層強く握る。
「行くぞリンカ……ッ!!アイツに…アイツに災厄をもたらせてやろうぜッ!!」
英輔の言葉が、リンカを力強く押した。
「「おおおおおおおおッッッ!!!!」」
2人の声と魔力が重なり、リンカの炎が勢いを増す。
「何……ッ!」
クレスの表情が焦りで歪む。
何だこの膨大な量の魔力は……
2人分だなんてものではない。
単純な魔力の量で言えばあの少年は……
英輔はリンカの数倍の力を持っている可能性がある。
負けるのか…?
この僕が……ッ!
「このクソガキどもがァァァァァァッッ!!!」
ゴォッ!!
クレスの炎の勢いが増す……が、今のリンカの炎には到底及ばなかった。
「ふざけるなァァァッ!!!」
ゴォォォォォォッッッ!!!!!
膨大な量の炎が、リンカと英輔の炎が……
クレスの身体を包み始める。
「冗談じゃない……ッ!!この僕がァァァ−−−−ッ!!!!」
燃える。
燃える燃える燃える。
クレスの身体に2人の炎が灯り、焼き尽くさんと燃え上がる。
クレスはその場に倒れ、身悶える。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「ふざけるな……ふざけるなァァァッッ!!」
クレスは身を焼かれながらも醜く叫び続けた。
「僕が……僕が負ける訳がないんだァァ!!アイツが、アイツが僕の中にいる限りィィィッッッッッ!!!」
「アイツ…?」
クレスの言葉を聞いてリンカは訝しげな顔をした。
「アイツを封じるために……そのために僕はァァァッッ!!」
「ッ!?」
クレスの周囲をどす黒い光が包む。
禍々しい魔力が辺りに充満し始める。
「来るな……ッ!!来るなァァァ!!」
「リンカッ!アイツ何言ってんだ…!?」
「わからない。だが、何かある……!!」
「オオオオオオオオオオオオッ!!!」
その叫びを最後に、暴れていたクレスの身体がピタリと止まる。
「ッ!?」
最初は死んだのかと思ったが、どうやら違う。
クレスの身を包んでいた炎は一瞬にして消えた。
そして、クレスが何事もなかったかのように立ち上がる。
「な……ッ!!」
あまりの出来事に、英輔達は後ずさる。
何だこれは…
これはクレスではない。
英輔もリンカも本能的に理解する。
この男は既にクレスではない。
「貴様ごときが……我を封じるなどとは笑止千万ッッ!!」
クレス?はニヤリと笑う。
「フハハハハハハハハハハッ!!礼を言うぞ小娘共ッ!!よくぞクレスを倒してくれたッ!!」
これまでのクレスからは想像も出来ないような声質である。
「何なんだコイツは……ッ」
「兄上じゃ……ない」
リンカさえも状況を把握しきれず、動揺している。
「さあ、礼をするぞ小娘共…。我の永久奴隷か?それとも我の手によって滅せられるか?好きな方を選ぶが良いッ!!」
その男は傲慢に笑った。
To Be Continued