49ページ目「蘇った英輔。」
「英輔……!」
リンカは横目で横たわる英輔を見る。
自分のせいだ。
自分が巻き込んだのだ。
この戦いに。
出会ったあの日から既に。
何の関係もない、魔力が膨大ではあるが一生の内一度も魔術などとは関わることはなかったハズの普通の高校生を…
リンカは巻き込んでしまったのだ。
そしてこの結果である。
死んではいない。
が、英輔は今生死の境を彷徨っていることだろう。
「私はもう行くわ。元々敵同士だし、それに私は兄さんの方が心配なの」
そう言うと死霊使いはこの部屋を去った。
クレスは死霊使いを咎めもせず、ただ傍観していた。
「リンカ、彼の治療は今度こそ済んだかい?」
「ええ、済みました。これで何の気兼ねもなく兄上と戦えます」
「そうか…。それは良かった」
一度は消えていたが、再び2人の手に炎が灯る。
対照的な赤と青の炎。
リンカは目の前の兄を強く睨みつけた。
この男が全ての元凶。
「おおおおッ!!」
リンカはクレスに向かって全力で駆け出した。
走りながらリンカは右腕を横に振った。
すると、三つ程の火球が現れ、クレスに向かって飛んだ。
それを見たクレスがまるで蝿でも払うかのように右腕を横に振ると、リンカと同じ様な火球が出現し、リンカの火球とぶつかった。
火球は相殺され、煙を上げながら消えた。
「ッ!」
煙で視界を奪われたクレスの目の前にリンカが現れる。
リンカは煙に紛れてクレスに近づいていたのだ。
「ハッ!」
リンカはかなりの密度の炎が灯った拳をクレスに向かって思い切り突き出す。
クレスは後退してそれを避けると、リンカに向かって右手の炎を放射した。
それを炎の灯った右手で振り払い、相殺するとリンカは高く跳んだ。
そしてそのままクレスの頭上目がけて右拳を突き出し、急降下した。
「甘いな」
クレスは急降下するリンカの右腕を掴むと、そのまま軽々と向こうへ放り投げた。
リンカはそのまま飛ばされ、数メートル先で落下した。
「がァ………ッ」
落下と同時に身体に激痛が走る。
リンカがよろめきながらも立ち上がり、体勢を整えようとした時だった。
「油断すんじゃねえよッッ!」
「ッ!?」
リベリアだった。
悠々と歩いて近寄って来るクレスをよそに、リベリアはかなりのスピードでリンカに向かって来る。
「く……ッ」
リベリアが目の前まで迫ってきた時だった。
ガキィンッ!
リベリアの前に何者かが立ち塞がり、その鋭い爪を剣で受けた。
「お前……」
リンカはその逞しい背中に、リンカは見覚えがあった。
今まで何度も見て来た背中。
自分を助けてくれた背中。
「英輔ッッッ!!」
英輔だった。
先程まで倒れていたハズの英輔が、今はリンカの前に立ち、リベリアの爪を防いでいた。
「テメエ……ッッ!」
リベリアがギリギリと詰め寄るが、英輔は剣で振り払った。
「チッ!」
舌打ちするとリベリアは素早く後退した。
「お前…」
「悪い、心配かけたな」
英輔は振り返るとリンカに微笑みかけた。
「ば、馬鹿者…!こ、こんなところで勝手に死にかける奴があるか!!」
「悪い。でももう大丈夫だ」
英輔はリベリアを睨みつけると、剣をリベリアの方へ向けた。
「もう負けねえ」
「減らず口を……ッ!!」
ダッ!
英輔はリベリアに向かって駆け出した。
「おおッ!!」
英輔がリベリアに向かって剣を振り下ろすと、リベリアは爪でそれを受けた。
「何故生きている……ッ!?」
「さあな、俺にもわかんねえ」
「あの女の薬…本当に効いたようだな」
「何で助かったかは俺自身にもわからないが…」
ガッ!
剣を弾かれ、後退する英輔。
「これでお前にリベンジする機会が出来たって訳だッ!」
「一度で死なねえなら……二度殺すまでだ……ッ!」
「油断している余裕はないよリンカ」
「ッ!」
リンカが気づくと、クレスは目の前まで迫って来ていた。
リンカは慌てて距離を取ると、身構えた。
「いい加減にしないかリンカ。敵わないことはわかっているだろう?」
「嫌です。絶対に引きません」
「そうか……。本当に聞きわけのない妹だ」
ダッ!
喋るクレスを無視してリンカは思い切り駆け出した。
「無意味だな」
ゴッ!
「ッッ!?」
不意に腹部に走る激痛。
「遅い」
凄まじいスピードのため、見えなかった。
リンカはクレスに腹部を殴られていた。
その上ただの突きではない。
炎の魔力のこもった一撃だ。
更にクレスはもう片方の手でリンカの顔面を殴った。
「うぐッ!!」
そのままリンカは後ろへ吹っ飛ばされる。
「そのスピード……」
「わかるかい?リンカ」
風の魔術。
クレスは恐らく風の魔術で加速している。
「僕が使える魔術は何も炎だけじゃない……」
クレスの周りで風が吹き荒れる。
「魔術属性が……2つ……ッ!?」
「諦めるんだリンカ。君の敗北は最初から決まっている」
クレスはニヤリと笑った。
To Be Continued