47ページ目「現われた少女。」
ドクドクと絶え間なく腹部から流れる血が、英輔に死を悟らせた。
身体が動かない。
腹部の激痛が動くことを許さない。
「あ……あァ………ッ」
もう言葉すら喋れない。
「英輔ッ!待ってろ!今行くッッ!!」
辛うじてリンカの声が耳に届く。
「おい、英輔ッ!!」
駆け寄って来るリンカの姿を最後に、英輔は目を閉じた。
「どこだ……ココ……」
白い世界。
これでもかと言う程白だけで構成された世界。
現実味のない世界だ。
英輔は辺りを見回すが、辺り一面白で埋め尽くされている。
「あれ…?この場所、見覚えがある」
一度も来たことはないハズだ。
こんな場所を見るのは生まれて初めてのハズである。
しかし、英輔にはそうは思えなかった。
前に一度。
本当に一度だけ。
この場所に来たような気がする。
「おい、そこのお前」
「ッ!?」
不意に少女の声が聞こえた。
慌てて英輔が声のする方を見ると、1人の少女が立っていた。
長く伸びたしなやかな髪、どこの制服だか知らないがブレザーを着ている。
「何でココにいる?」
「……わからない」
まだ意識があやふやである。
英輔は賢明に思い出そうとした。
星屑。
リンカの兄。
「そうか、俺…。あの変な奴に身体を貫かれて……」
貫かれて、どうなった?
腹部を見れば傷口がない。
この夢のような世界はまさか……
「変な想像してるかもだが、ココは天国でも地獄でもねえ。死後の世界なんかじゃない」
「じゃあどこなんだよココは…」
「さあな、俺もハッキリとは言えねえ」
「なあ、誰だか知らないが俺を元の場所に戻してくれ…!」
「死ぬためにか?」
少女にそう問われ、英輔は言葉に詰まる。
「リンカを……リンカを助けないと……!」
「やめとけ。今度こそ死ぬぜ?」
「それでも……それでも俺は…リンカを助けたい……!」
英輔の言葉を聞くと、少女は「ハァ…」と溜息をついた。
「なら、俺を倒してからだな」
「え……ッ!?」
いつの間にか少女の手には刀が握られていた。
「リンカって娘を助けるんだろ?だったら、俺くらい倒してから行け」
「英輔ッ!英輔ッ!」
リンカは必死に横たわる英輔の身体を揺さぶる。
しかし少しの反応もなく、英輔はただそこに横たわっていた。
「で、リンカ。君はどうする気だい?」
クレスの視線がリンカへと移る。
その目は、リンカが過去に見た優しい目などではなかった。
まるで捨て損ねたゴミでも見るかのような目だった。
悔しい。
先程までの悲しみを押しのけるかのように心の底から悔しさが込み上げてきた。
今までこんな男に騙され続けていたのか…
今までこんな男のために戦ってきたのか…
そう考えると悔しくて悔しくてやりきれない。
リンカはクレスを思い切り睨みつけた。
「何だその目は。それが兄上様に対する態度なのかい?」
様の部分を強調するクレスに、リンカは余計に腹立たしさを覚えた。
「英輔…」
リンカは、クレスから傍に横たわる英輔に視線を移す。
「絶対に死なせはしない」
ボォッ!
リンカの手に炎が灯る。
「何をする気だ?」
問いかけるクレスを無視し、リンカは炎を英輔の傷口に押しあてた。
非常に強引ではあるが止血である。
止血が終わると、今まで怖くて触れなかった心臓部に触れる。
怖かった。
こうして手を当てた時、心臓の鼓動が聞こえなかったりしたら……
そう考えるだけで怖かった。
ドクン
かすかではあるが鼓動が伝わる。
まだ助かる。
「治療は済んだかい?」
「ええ、済みました」
「それで、どうするの?」
「そうですね……。兄上、1つ良いですか?」
「構わないよ」
「私は、兄上が大好きでした。優しくて思いやりのある兄上が大好きでした……」
リンカは立ち上がると、真っ直ぐにクレスを見据えた。
「最後に確認します。違ったんですね?今まで私が見て来た兄上は、偽りだったんですね?」
「愚問だなリンカ」
「なら……」
ボォッ!
再びリンカの手に炎が灯る。
先程の炎より激しく燃え上がる炎は、まるでリンカの感情を表しているかのようだった。
「躊躇する必要はありませんッッ!!」
「それが君の答えか」
リンカはゆっくりと身構えた。
「うおわッ!」
英輔は振り下ろされる刀を紙一重で避ける。
「どうした!?避けるだけじゃ勝てないぜッ!」
英輔を追いかけ、少女は更に刀を振る。
「何で戦う必要があるんだよッ!?」
「さっきも言っただろう?俺くらい倒せないとアイツらは倒せないって」
「だからって……。それにアンタ敵じゃなさそうだし……」
「そう思うか?実はあのリベリアと言う男をそっちに送り込んだのが俺だったとしたらどうするよ?」
途端に英輔の顔つきが変わる。
「何だと…?」
「お、やる気になったな」
少女はニヤリと笑うと刀を構えた。
「来いよ」
少女は右手をくいくいと動かし、英輔を挑発した。
バチバチバチバチッ!
不意に電流の弾ける音がする。
英輔が魔力を使おうとしている証拠だ。
見れば英輔の右手には電流が集まり始めている。
「魔術…ねえ」
電流は徐々に形を成して行き、やがて剣となる。
「行くぜ…!」
英輔はやっと本気になったらしく、剣を構えた。
「そうこなくっちゃ」
少女はもう一度ニヤリと笑った。
To Be Continued




