42ページ目「語られた目的。」
「母さんのことは……明美のことは覚えているか?」
「母さん…」
雅の母は雅が幼い頃に病気で死んだ。
故に雅は顔さえ覚えていない。
必死に思い出そうとするが、どうしても顔が思い出せなかった。
「明美にな、明美にもう一度会いたかった」
「……」
「こんな私に最後までついて来てくれた明美に、私はまだ何も返していない…」
気が付けば栄治の目から涙がこぼれていた。
「父さん…」
「礼すら言えてないというのに…」
「だからって姉さんを……!」
「わかっている。風美を犠牲にしたことは本当に反省しているんだ…。間違ったことだとはわかっている」
「風美まで犠牲にしたんだ……。だから……」
「ッ!?」
雅が気づいた時には遅かった。
「何としても私の願いは……明美だけは……蘇らせなければならないッッ!」
雅の背後に立った栄治は、左手で雅の首を掴んだ。
「貴様……!」
「あれで死んだと思ったのか雅。まだ私は死ねぬ…。最後の力を振り絞ってでも、明美を蘇らせるッッ!」
徐々に雅の首を絞める力が強まっていく。
「終わりだ雅……ッ!」
「ぐ……ッ」
雅は両手で栄治の手を掴むが引き離すことが出来ない。
かなりの強さで絞められている。
「う、おおおおおおおおおッッ!!」
パンッ!
何かが弾ける音と同時に、栄治は後ろに吹っ飛んだ。
「ハァハァ……」
「まだそんな力が…ッ!!」
「今度こそ……今度こそ終わらせるッッッ!!」
「この糞ガキがァァァァッ!!」
ダッ!
最後の魔力を拳に込めて、雅は栄治に向かって全力で走った。
恐らくこの一撃を最後に雅は倒れるだろう。
しかしそれはまた栄治も同じである。
「おおおおおッッ!!」
ドゴォッ!!
雅と栄治の拳が直に触れあう。
しばらくバチバチと魔力の火花を散らし、互いに後ろに吹っ飛んだ。
「雅…強くなったな」
雅が残りの体力で少しだけ身体を起こすと、徐々に消えていく栄治の姿が見えた。
「消える……のか?」
「ああ。この身は既に人間ではない。普通に死に行くことなど叶わぬ夢だ」
そう言っている間にも、栄治の身体は消えていく。
「結局、明美に会うことは叶わなかったな…。ゲーデの力を持ってしても、死者を蘇らせるのは不可能だった……」
栄治が目を閉じようとした時だった。
「ッ!?」
栄治の前に誰かが立っている。
半透明ではあるが、栄治にはそれが誰だかすぐにわかった。
「そうか。お前はずっと傍にいてくれたんだな……それに気づかずに私は…」
半透明のソレは何も言わずに微笑んだ。
「畜生…もっと早くに気づいていれば、お前と同じ所に行けたのになぁ……。私がこれから行くのは、お前とは違う所だ………」
栄治の目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「だが、一目会えただけでも、救われたよ」
その言葉を最後に、霧島栄治は消えた……
何も残すことなく、この場から消えた。
「糞……このままじゃあいつらを追いかけるのは無理そうだ…」
雅は無理に立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
すぐにドサリとその場に倒れた。
「少し………休むか…」
そう言い残して、雅は目を閉じた。
悪趣味な部屋である。
この部屋に入って英輔が最初に思ったことだった。
時間の経って変色した血のような赤黒い壁や床。
壁に貼り付けにされた人間のような死体。
見ているだけで気分が悪くなる。
「どう?気に入ってくれた?私の部屋は…」
現われたのは死霊使いであった。
横にはあの時乗っていた壺が置いてある。
「テメェ……ッッ!!」
英輔は握りしめた拳をブルブルと震わせながら死霊使いを睨みつけた。
リンカを苦しめ、白を操った挙句に苦しめた女。
英輔の中でドス黒い感情が湧きあがる。
今すぐにでも殴りかかりそうな勢いである。
「あら、元気そうね」
抑えきれずに殴りかかろうとして英輔を、ヴァームが右手で制止する。
「何で止める…ッ!?」
「ココは私が行く。お前らは行け」
「ふざけんなッ!コイツだけは俺が…俺がこの手でッ!」
「落ち着け英輔」
「リンカ…!」
「コイツがお前の目的、そうだなヴァーム?」
リンカの問いに、ヴァームは黙って頷いた。
「行くぞ英輔。恐らく奥の扉で移動できる」
「……チッ」
英輔は舌打ちすると、先に行くリンカに渋々ついて行く。
「ヴァーム」
「何だ?」
「俺の分までそいつをぶちのめしてくれ」
「……良いだろう」
そう言い残して英輔達は扉の奥へ消えた。
「久し振りに二人きりね。ヴァーム」
「そうだな」
死霊使いはヴァームを懐かしそうに見た後、クスリと笑った。
「本当、久しぶりね」
「そうだな……リーナ」
「その名前、もう捨てたのに」
先程までの笑みは消え、死霊使いの表情が一変する。
「良いわ。今度こそ貴方を殺す。そして……彼の無念を晴らして見せるわッ!」
To Be Continued