41ページ目「超えられた限界。」
「雅、雅……」
誰の声だ?
朦朧とする意識の中、雅は声の主を思索した。
聞き覚えのある声。
いつも聞いていた声。
大切な声。
あの人の声。
「姉さん……」
ぼやけていた視界が回復する。
「ここは………」
雅は辺りを見回す。
「姉さんの部屋…?」
「雅、どうかしたの?」
「いや……」
ふと雅は身体に違和感を感じた。
視線が低くなっている。
慌てて自分の手を見ると、一回り小さくなっている。
「これは…?」
「大丈夫?」
風美は雅に歩み寄ると、かがんで視線を合わせ、雅の額に手を当てた。
「すごい汗」
風美は手で雅の額の汗を拭った。
「雅……すごくうなされてたよ?悪い夢でも見たの?」
「…夢?」
夢……
今までの出来事は全て夢?
姉さんが殺されたことも。
栄治に復讐を誓ったことも。
リンカ達と出会ったことも…
「全て…夢?」
「長い夢でも見てたのね。記憶がこんがらがっちゃってるじゃない」
風美はクスリと笑うと窓を開けて夕日を眺めた。
夕方…。
あの日と同じような空の色だった。
「あ、そう言えば父さんは…」
「お父さん?ああ、物を取りに来ただけだったみたい。珍しいよね、地下から出てくるなんて」
「そう…だよね」
笑う風美につられて、雅もクスリと笑った。
そうか。
夢だったのか。
全部。
長い長い夢だったような気がしてきた。
「あ、今から誕生日プレゼント買いに行こっか?雅が寝てて昼間は行きそびれちゃったし…」
嬉しそうにはしゃぐ風美に、雅は背を向けた。
「ダメだ。行けないよ姉さん」
「どうして?いらないの…?」
「……いらない訳じゃない。でも、ちょっと済まさなきゃいけない用事があるんだ」
「………そっか。そうだよね。雅には、やらなきゃいけないことがあるもんね」
「うん、それに…」
多分、もう一度風美の姿を見れば未練が残るだろう。
それでも
それでも…雅は今この瞬間の風美を目に焼き付けることにした。
もう一度だけ振り返る。
「みんなが待ってる」
「うん。待たせちゃダメだよ。雅」
どこか悲しげではあったが、風美は明るく微笑んだ。
「全部終わっても…ココには来ちゃダメだよ?」
「わかってる。姉さんに会いに行くのは、もうちょっと先の話になると思うから」
雅は再び風美に背を向けるとドアノブに手をかけた。
「雅」
「…?」
「なんでもない」
「……そっか」
ガチャリ
ノブを回し、ドアを開く。
「さよなら。姉さん」
「おおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
ゴッ!
雅は起き上がりざまに栄治の顔面目がけて拳を突き出す。
しかし、魔力障壁によって阻まれ、雅の拳は栄治に直撃する寸前で止まってしまった。
雅はすぐに立ち上がり、距離を取ると、体勢を立て直した。
「おはよう雅。良い夢は見れたかな?」
「ああ、随分と良い夢だった…。もう二度と見れないだろうな」
「そうか。それは良かったな雅」
「おかげで再確認することが出来た…。自分が何のためにココにいて、何のために戦ってきたのか……。明白に思い出すことが出来た」
「ふむ」
「そしてもう1つ気づいたことがある」
ビュオッ!
辺りに強風が吹き始める。
「ッ!?」
「限界とは、他人が決めるものじゃないし、自分が決めるものですらない。そもそも限界なんてないんだ。あるとすれば………」
ビビビッ!!
複数の風の刃が栄治に向って飛んで行く。
栄治は右手でそれを払うと、雅を睨みつけた。
「それは死ぬ時だッッッ!!」
「短時間で成長したな雅」
ビュッ!
雅は一気に加速し、一気に栄治との距離を詰める。
栄治が後退しながら手を横に振ると、地面から数体の骸骨が這い出て来る。
ゴッ!
骸骨のうち一匹の頭に雅の拳が直撃する。
立て続けにもう一匹。
順番に骸骨を殴り倒すと、雅は栄治を睨みつけた。
「無駄だ。今の俺に小細工は通用しない」
「…ッ!小僧がッッ!!」
ダッ!
ついには栄治が雅に向って駆け出した。
雅の目の前まで距離を詰めると、栄治は雅の頭を掴んだ。
「今度こそ完全に葬ってやろう…!!」
「同じ手は…」
ゴッ!
「あがぁ…ッッ!」
雅の左腕のアッパーが栄治の右腕に直撃する。
「二度喰らわないッ!」
「アァァァッ!!」
栄治は不自然に曲がった右腕を左手で抑えながら後退する。
「貴様ァァァァァッッ!!」
「姉さんに……死んで報いろォッ!!」
ドゴォッ!!
雅の右拳が栄治の腹部に直撃し、貫いた。
「…ッ!?」
「…かはッ」
栄治の口から大量の血が溢れ出る。
「何故残りの魔力で防がない!?魔力を帯びた俺の拳なら、身体を貫くくらいは出来るとわかっているハズだッ!」
「そうだなぁ…そろそろ……報いようかと思ってな…」
「貴様…」
「迷惑かけたな…明美、雅…そして、風美」
ズボッ!
雅は栄治の腹部から腕を抜いた。
生暖かい栄治の血液が雅の腕からポタポタと滴り落ちる。
「ぐ…ッ」
栄治はその場にドサリと倒れる。
「ジジイの言い訳にしか聞こえんと思うが…聞いてくれるか?」
雅は倒れている栄治を見下ろしながら、ただ黙って頷いた。
To Be Continued