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38ページ目「失われた者。」

あれから何分……否、何時間経ったのだろうか…

雅が目を覚ますと既に窓の外は夕焼けで真っ赤に染まっていた。

嫌な予感がする。

雅は直観的にそう感じた。

妙な胸騒ぎがするのだ。

珍しく地下からでてきた父のことが気になって仕方がない。

「姉さん……」

風美のことも心配だ。

雅は急いで居間を出た。

「ッッ!?」

廊下に出ると、数人の執事やメイドが倒れていた。

その内1人の心臓部に手を当てる。

ドクンドクン…

鼓動が聞こえる。

死んではいない。

雅は1人ずつ死んでいないことを確認すると、急いで風美の部屋へ向かった。

自然と駆け足になる。

屋敷が広いため、部屋1つ探すのも一苦労だ。

いくら11年間暮らしたとは言え、この広い屋敷だ。

あまり行かない姉の部屋を見つけるのに時間がかかるのは当たり前だった。

「姉さん……!」

やっとのことで姉の部屋を見つけ出すと、雅は勢いよくドアを開けた。

「……ッッ!?」

信じられない光景。

あるハズのない光景。

雅の脳が全力でその光景を否定した。

「おはよう雅」

そこに立っていたのは霧島栄治であった。

そしてその足元で横たわるのは風美だった。

風美の手首からは鮮やかな血が流れ出ている。

「まさ……か」

雅の手足がガクガクと震える。

「準備は整ったよ。彼女が抵抗したせいで多少時間はかかったがね」

風美が横たわっている床には青白く光る魔方陣が描かれていた。

「数種の特殊な魔法薬と若い娘の死体をにえとし、ブードゥーの死神ゲーデの魂を呼び寄せる……」

雅が目を凝らすと、風美の上に白いボンヤリしたものが浮いていた。

恐らくソレが「ゲーデ」とやらの魂なのだろう。

栄治はそれを右手でガッシリと掴む。

そして何も言わず、口に入れた。

「………!」

あまりのことに雅は何も言えなかった。

何をしている?

今の雅には理解出来なかった。

「流石に…おいしくはないな。味もない。だが……」

「ゲーデの力、しかと譲り受けた……!」

栄治はニヤリと笑った。

「姉さんに…」

「姉さんに何をしたッ!?」

ここでやっと雅は言葉を発することが出来た。

「何をしたもなにも……死んでもらったよ。生きたままじゃ贄としては成り立たない」

「死ん……だ……?」

想像を絶する一言。

だがそれは現実以外の何物でもなかった。

「嘘だ…」

「確かめれば良いさ」

「嘘だッッッ!!!」

気が動転した雅は栄治に思い切り殴りかかった。

「ッ!?」

パンッ!

見えない何かに拒絶される感覚。

雅はそのまま後ろに吹っ飛ばされた。

「魔力障壁……」

「博識だな雅」

栄治はニタリと笑う。

「さて、この家にはもう用がない。ゲーデの魂と力をこの肉体に定着させるには更なる過程が必要だ。これから私のことは……そうだな」

「バロン・クロアとでも呼んでくれ」

それだけ言い残すと栄治はその場から姿を消した。

雅はしばらく呆然と栄治の立っていた場所を見つめていた。

「嘘だ…」

雅はかがむと風美の心臓部に手を当てる。

静寂。

開け放たれた窓から聞こえる風の音以外に、この空間で音を立てる物はなかった。

そっと風美の手に触れる。

「冷たい…」

嘘のようだった。

自分が気を失うほんの少し前までは暖かかった風美の手は、今はもう冷たくなってしまっていた。

雅の頭の中が真っ白になる。

もう何も考えられない。

ただただ悲しみと絶望と憎しみが渦巻くだけだった。

「あ、ああ……」

「ああ…」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

1人雅は絶叫した。



「あれから5年か」

栄治は感慨深げに呟く。

「大きくなったな」

栄治の言葉には反応せず、雅はただ睨みつけていた。

己が宿敵を。

姉の仇を。

「そうだ。もう5年も過ぎたが……いるかな?誕生日プレゼントは」

栄治は雅に向かって微笑む。

「貴様からのプレゼントなどいらない。俺が貴様に求めるのは死のみだ」

「死…か。あまりに恐ろしく、あまりに身近な言葉だ」

栄治はゆっくりと立ち上がる。

栄治が立ち上がったのを見ると、雅はすぐに構えた。

「ゲーデの魂を定着させるために今まで何度も魔力を吸ってきた…。だが、それも今日で終わりそうだ」

「……?」

「雅、お前程の密度の魔力が後1人分あれば私の望みは叶うのだよ」

「言ってろ。貴様の望みが叶うことはない」

「私の望みを叶えてくれる雅君に素敵なプレゼントだ……」

栄治はニヤリと笑う。

「……ッ!?」

背筋に寒気がするような不快な感覚。

それと同時に雅は背後に何かの気配を感じていた。

「雅」

背後から声が聞こえる。

懐かしい声。

懐かしさと同時に雅は言いようのない恐怖を感じた。

足がガタガタと震える。

まるであの時と同じだ。

「雅」

もう既に、声の主の見当はついている。

ただ信じられなくて確認することが出来ない。

「5年越しの誕生日プレゼントだ。喜んでくれると嬉しいよ」

「馬鹿な……」

雅は恐る恐る振り返る。

間違いない。

この人は……

「姉さん………ッッ」



To Be Continued

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