36ページ目「最弱の魔術。」
アクネスとアルビーは西瓜、冬瓜から少し距離を取り、構えた。
見えない攻撃はなくなったがこれから何をしてくるのかわからない。
あの2人の余裕はハッタリとは思えない。
「きれいよ西瓜、食べちゃいたいくらいに」
「姉さんも相変わらず綺麗です……」
「ッ!?」
アクネスは困惑した。
この状況下での2人の行動が理解の域を超えていた。
意味がわからない。
2人は向き合い、愛おしげに見つめあった挙句、あろうことが抱き合い始めたのだ。
「姉さん……」
「西瓜…」
「な、な、な………!?」
馬鹿にしている。
戦闘中に眼前の敵を無視するなど無礼で愚かな行為である。
アクネスは拳を握り、ワナワナと震え始める。
「……そんなに抱き合いたいならあの世で好きなだけ抱き合ってくださいませッ!!」
アクネスは右手を2人に向ける。
「いけないッ!姫様!何があるかわかりませんッ!!」
「もう……遅いですわッッ!!!」
ドッ!
アクネスの右手から大量の水が噴き出す。
だが、大量の水を喰らった2人は吹っ飛ばされるどころか、尚も抱き合っている。
「ッ!?」
「素敵なお水をありがとう。たっぷり吸わせてもらったわ」
見れば冬瓜の傷口が塞がっている。
「水を…吸った……?」
「私達は植物系の妖怪よ?植物が水から養分をもらって何が悪いの?」
「相性が悪かったわね。魔力たっぷりの水と土、本当に感謝してるわ」
そう、この2人はアクネスの水、そして辺りの泥から魔力を吸い取っているのだ。
彼女達の足元を見れば足が地面に埋まっているようにも見える。
根を張っているのだろう。
アクネスが今まで使っていたような固形化した刃で斬り裂くならともかく、先程のような水やアルビーの土は彼女達にとって魔力の供給源でしかない。
それに、この部屋もそうだ。
これまでは肉弾戦だったため、根を張る暇などなかった。
だが、今彼女達は肉弾戦を放棄し、根を張っている。
恐らく彼女達の魔力は増える一方だろう。
「だったら……」
アクネスの両腕に再び水の刃が現れる。
「これで斬り裂けば済む話ですわッッ!!」
ダッ!
アクネスは2人に向って駆け出す。
「馬鹿ね」
シュル……
「ッ!?」
地面から突如伸びたツタがアクネスの両足に絡みつく。
「動けない……」
「それだけじゃないわ」
ザクッ!
「痛……ッ!」
足に痛みを感じたアクネスが足を見ると、ツタが一本足に刺さっている。
「魔力、ちょうだい♪」
「あ、ああッ!!」
身体から何かが吸い取られるような感覚。
魔力を吸われているのだ。
「姫様ッッ!」
アルビーが叫ぶと同時に、アルビーの足元にもツタが伸びる。
「ッ!!」
アルビーはその場で跳ね、ツタを避ける。
そのまま近くの木の太い枝を掴み、ぶら下がった状態になる。
「アルビーッ!」
「考えたわね、確かにそこじゃ魔力は吸収出来ないわ。だけど、その位置からじゃ貴方の土の魔術は届かない……」
「く……ッ!」
「流石は最弱と呼ばれた土魔術だわ」
西瓜と冬瓜は「最弱」を強調し、アルビーを嘲笑った。
最弱。
過去に何度も言われた言葉だ。
最弱の土魔術。
地面がなければ使えない分、確かに他の魔術には劣る。
確かに、最弱かも知れない。
「そうだな。土の魔術は最弱……それは事実かも知れない」
「ア、アル……ビ…」
魔力を吸われ、衰弱したアクネスが苦しそうにアルビーを見る。
「だが、お前達のように地面に頼っている妖怪にとってはまずいんじゃないか?地面を操作されるのはッッ!」
「ッッ!?」
アルビーは枝にぶら下がったまま揺れると、その勢いで前へ飛んだ。
そして地面に右手から落ちる。
「む、無駄よ!私達ツタがお前の動きを封じ……」
ボゴォッ!!
「な………ッッ!?」
不意に、西瓜達がよろめく。
タンッ!
アルビーはかろやかに着地するとニヤリと笑った。
「お前達の周りの土を使わせてもらった。ある物を形成するためにな」
「ある……物……?」
西瓜達の立っている場所は今や巨大な穴である。
「まさか!?」
アルビーの横で土が粘土のように蠢いている。
「土人形だ」
アルビーの横に立っているのは巨大なゴーレムだった。
英輔と戦った時程ではないが十分な大きさである。
ドシン!
ゴーレムが西瓜達に向って歩く。
「ひっ…!」
「そんなに土が好きなら埋めておいてあげましょう」
ドンッ!
ゴーレムは勢いよく西瓜達を踏みつぶした。
と、同時に崩れ、ただの土に戻って行く。
「姫…様…。多少魔力を使い過ぎたみたいです…」
ツタが外れ、気を失って倒れているアクネスに、アルビーはよろよろと歩み寄る。
「どうやら……、ココで休憩する必要があるみたい…ですね」
そう呟き、アルビーはその場にバタリと倒れた。
To Be Continued