35ページ目「現われた2人目。」
「反撃開始……ねえ」
アクネスの言葉を繰り返すと西瓜はクスクスと笑った。
「何がおかしいんですの?」
「だって、トリックを暴いて2人がかりになっただけじゃない。状況は依然として変わらないわ。それに、もう1人を止める方法だって思いついてないんじゃないの?」
言われてみればそうである。
確かにトリックは暴いたが、止める手立てまで思いついた訳ではない。
「ええ、確かにそうですわ。でも、先程の絶望的な状況と比べれば何倍もマシですわ」
アクネスが構えると、再び腕に水の刃が現れた。
と同時に、アルビーも構える。
「絶望した方がまだ楽なのに……」
西瓜はクスリと笑うと、右腕を広げた。
ビビビッ!
植物で出来た短い針のような物が西瓜の右腕の周りに浮いている。
ビュビュビュッ!
それから間髪入れずに針はアクネス達に向って飛ばされた。
「お任せ下さい」
すかさずアルビーが地面に手をつくと土の壁がアクネス達の前に出現する。
ガガガッ!
植物の針は土の壁に防がれる。
「ッ!?」
ゴッ!
完全な不意打ちだった。
アルビーの顔面に見えない拳が直撃する。
「アルビーッ!」
「どこを見てるの?」
不意に横から声が聞こえる。
西瓜である。
土の壁を回り込み、アクネス目がけて走って来る。
その手には硬く鋭いツタが握られていた。
ガッ!
振り下ろされたツタをアクネスは両腕の刃で受ける。
アクネスは刃でツタを弾くと、右腕の刃で西瓜に斬りかかる。
西瓜は後退し、刃を避けると右手を上に上げた。
ビュッ!
西瓜は近くの木から下に素早く延びたツタを握り、宙に浮くと身体の重心を後ろに動かし、ツタを握ったまま後ろに下がると重心を今度は前に動かし、その勢いで前に跳び、アクネスの背後に着地する。
「ッッ!?」
更にそこから右手に握ったツタでアクネスに背後から斬りかかる。
「姫様ッ!!」
アルビーが駆け寄ろうとした時だった。
ゴッ!
「ぐ……ッ!」
腹部に激痛が走る。
またあの拳だ。
アルビーはよろめきながらも拳を前に突き出す。
だが既に見えないもう1人はその場を離れており、拳が何かに触れた感触はなかった。
ブンッ!
西瓜のツタが空を斬り裂く。
アクネスは前転し、間一髪避けたのだった。
「ハァッ!」
ザンッ!
アクネスは素早く態勢を立て直し、刃でツタの尖った部分を切り裂く。
切り離されたツタはアクネスの足元にコロコロと転がった。
「チッ」
西瓜は舌打ちすると後退した。
「姫様!」
アルビーは急いでアクネスに駆け寄る。
「まずいですわ……。アルビー、あの見えないもう1人…どうにかなりませんの?」
「……。方法がないわけではないのですが…。姫様の協力が必要です」
「方法がありますの!?」
アルビーはアクネスの耳元で何かを囁く。
「……なるほど」
「何を思いついたのか……お姉さんに教えてくれるかな?」
おどけた様子で西瓜が問う。
「今にわかりますわ」
バンッ!
アクネスとアルビーが勢いよく地面に手をつく。
「……!?」
「行きますわよアルビーッ!」
「了解しましたッッ!」
ドッ!
「ッッ!?」
泥だった。
大量の泥がアクネス達の位置を中心に飛び散っているのだ。
「コレは……ッ!?」
西瓜はすぐに原因を把握した。
水の魔術師と土の魔術師。
アルビーが土を操作して堅かった土を柔らかくする。
そこにアクネスが大量の水を渦巻き状に送り込む。
その結果柔らかくなった土は水により泥となり、かなりの勢いで渦巻く水により辺りに飛び散る。
「そ、それがなんだって……」
西瓜が言いかけた時だった。
「ッ!?」
彼女に横にいたのは泥をかぶった人型の何かだった。
「計画通り……ですわ!!」
そう、アクネス達が泥をまき散らしたのはこのためだったのだ。
泥を飛び散らせて姿を隠しているもう1人に泥を被せる。
泥を被った部分が周りの景色の色に合わせられているハズがないので当然……
泥が人型に浮いているように見える。
「泥に合わせれば…!」
ザンッ!
泥を被ったもう1人の右腕を、アクネスは素早く近づいて斬った。
傷が出来、傷口から血が流れる。
「それが目印ですわ」
「……く!」
「さあ、まだ隠れますの!?」
「……その必要はないわ。どうせ無駄だもの」
ついに保護色を解いたらしい。
右腕から血を流した西瓜そっくりの女が立っていた。
違いと言えば傷と前髪の分け目くらいだろう。
「あら、そっくりですこと」
「ええ、双子ですもの」
西瓜はゆっくりと女に近寄る。
「やりましょう冬瓜姉さん」
「そうね西瓜……。この生意気な貧乳娘とその執事、私達で殺ってしまいましょう」
冬瓜と呼ばれた女は西瓜とともにニヤリと笑った。
To Be Continued