34ページ目「暴かれたトリック。」
「……。この私の邪魔をしたんだから、それなりの覚悟はできてるわよね?」
西瓜はアクネス達に見せつけるかのように胸を揺らす。
「あら、貴女ごときと戦うのに覚悟なんて必要ですの?」
「口だけは達者ね…。じゃあ、お手並み拝見と行こうかしら……」
ビュッ!
西瓜の足元から一本のツタがアクネスに向って伸びる。
「ふん」
「ッ!?」
西瓜としては予想外の出来事であった。
ツタは直撃するか避けられるかのどちらかのハズだったのだが…
西瓜の予想に反してツタは真っ二つに切り裂かれていた。
ツタの先の部分がボトリと音を立ててアクネスの足元に落ちる。
「どうかしら?私の武器の切れ味は」
アクネスの両手にはトンファーのような形をしたものが握られていた。
だがトンファーとは違い、鋭く尖り、まるで刀のような形状をしている。
「魔術…」
ソレは水で形成されていた。
「さあ、切り刻まれる覚悟はできて?」
「良いわ…締め上げてあげる…」
西瓜の顔つきが変わった。
先程までの相手を小ばかにした表情ではなく、真剣に戦おうという表情だ。
「姫様!」
「待ちなさい」
アクネスの前に出ようとするアルビーをアクネスは右手で制止する。
「相手は1人…。一対一で戦うのが礼儀ですわ」
「……わかりました」
アルビーは渋々後ろに下がった。
何もなければ良いが…
アクネスがああ言い張る以上、アルビーは手を出すことが出来ない。
「さあ、始めましょう」
アクネスがそう言った途端に無数のツタがアクネスに襲いかかる。
「こんなツタ…」
アクネスは迫り来るツタに向って突っ込んだ。
身体にまとわりつこうとするツタを切り刻み、西瓜に向かって走る。
ダッ!
西瓜の1m手前くらいの地点でアクネスは跳んだ。
「ッッ!?」
アクネスは両腕を合せ、両肘を西瓜に向けるようにして西瓜の頭上に刃先を向ける。
「終わりですわッ!」
刹那。
ゴッ!
「ッ!?」
不意にアクネスは想定外の方向から打撃を受けた。
西瓜は自分の下にいるハズなのに、空中にいる状態で右からの打撃を受けたのだ。
感触からして恐らく拳。
アクネスは咄嗟に右を見る。
あるのは巨大な木だけである。
アクネスはドサリと地面に落下した。
衝突時の衝撃が苦痛となって全身を駆け抜ける。
「ぐ…ッ」
アクネスはすぐに立ち上がると辺りを見回す。
異常はない。
ただジャングルのような景色が広がるだけだった。
「あらあら、こけちゃって…。大丈夫?」
再び西瓜の表情に余裕が戻った。
「姫様ッ!」
後ろからアルビーの声が聞こえる。
「来ないで!これは私の戦いですわ…」
アクネスは構えると、真っ直ぐと西瓜を見据える。
何をされたかわからないが、させなければ良いだけのこと。
原因の解明より、速攻でこの戦いを終わらせるのが最適だとアクネスは考えた。
ブンッ!
アクネスは勢いよく右腕を振る。
西瓜は後ろに退いて刃を避ける。
アクネスは西瓜を追いかけるように踏み込むと今度は左腕を振った。
西瓜はアクネスの右側に回って刃を避けると、アクネスの右頬に拳を放つ。
アクネスは右手でそれを受けると左に払い、再び左の刃で西瓜に斬りかかる。
その時だった。
ゴッ!
「ッッッ!?」
まただ。
西瓜は目の前にいるのに、後頭部に打撃を受ける。
ゴッ!
追い打ちをかけるように正面から西瓜の拳がアクネスの顔面に直撃する。
そのまま後ろに吹っ飛ぶアクネスの身体を、どこからか生えてきたツタが受け止め、両手足を縛る。
刃は衝撃で消え失せている。
「良い様ね…」
アクネスは唯一動かせる首を動かし、背後を確認する。
誰もいない。
植物が生い茂るばかりである。
「終わりよ…」
西瓜は硬く、鋭く尖ったツタを右手に持ち、ゆっくりとアクネスに歩み寄る。
「ひ、姫様ッッ!!」
たまらずにアルビーは走りだした。
来るなと言われているがアクネスの命が危険に晒されているなれば話は別だ。
例え嫌われようと、罵られようと、自分が命を落としてでも彼女を救う。
それにこの戦い。
一対一などではない。
「死になさい」
西瓜が尖ったツタでアクネスを突き刺そうとした時だった。
ガッ!
突如出現した土の壁に阻まれる。
「あら、手を出しちゃダメなんじゃないの?」
「黙れ。姫様が望んだのは一対一の戦いだ。この戦いは違う」
「ふぅん。どう違うの?」
「もう1人いる」
「な、何ですって!?」
アクネスは壁の向こうで驚愕していた。
2人いるとなればこれまでの不可解な攻撃も説明がつく。
だが、姿が見えない。
「見えないだけです姫様。この空間には4人目がいます」
「何を根拠に…?」
「保護色というのを知っていますか姫様」
「保護色…?」
「カメレオンが良い例です。周りの色に自分の身体の色を合わせ、視覚しにくくする。これまでの姫様への不可解な攻撃のトリックは全てこれで説明がつきます」
ビュッ!
どこからか風を切る音が聞こえる。
アルビーは右手で見えない何かを受けた。
触った感覚からして拳。
アルビーの推理は間違っていないようだ。
「見えはしないが感じることは出来る。私の直感を嘗めないでいただきたいッッッ!!」
アルビーは右手に触れていた拳の感覚が消えたのを確認すると、土の壁を崩し、アクネスに駆け寄った。
「大丈夫ですか姫様」
「あ、ありがとう…」
アルビーは足から順番にツタを引き千切った。
「姫様、戦闘への介入の許可を」
ツタから解放されたアクネスの前に、アルビーが跪く。
「良いでしょう。相手も2人なら二対二で戦わせていただきますわ」
「ありがとうございます」
アルビーは立ち上がると、アクネスの横に付き添うように立った。
「さあ、反撃開始ですわッ!!」
To Be Continued




