3ページ目「虚ろな友人。」
あの後、英輔はリンカを家へ連れて帰った。
麗華の部屋が空いてるため、リンカはその部屋に住ませることにした。
服も麗華の物を拝借している。
「それにしても悪魔とは言え、女の子と2人暮らしか・・・」
風呂で英輔はボソリと呟いた。
「これからどうなるんだろ・・・」
少し不安に感じながらも英輔は風呂を出た。
「おい、英輔」
風呂を出るとリンカは先ほど渡した麗華の服を睨んでいた。
「何だよ?」
「このブラ、サイズが大きいぞ」
そう言って英輔にブラをつきだす。
「・・・」
英輔はまずリンカの胸を見た。
そしてブラを見る。
それを何度か繰り返した後
「リンカにはまだブラいらないんじゃないか?」
ゴッ!
「ぶっ!?」
強烈な回し蹴りが英輔の顔面に直撃した。
「悪かったよ」
謝罪する英輔を無視し、リンカは黙々とご飯を口に運ぶ。
「なぁ、悪かったってば」
リンカは麻婆豆腐を口にすると動きを止めた。
「おい、これお前が作ったのか?」
「まあ一応」
幼い麗華と2人で暮らしてきた英輔にとって家事は当たり前であり、唯一得意なことでもあった。
「なんという料理だ?」
「麻婆豆腐だけど・・・。おいしくないか?」
「いや、英輔にこんなものが作れるとは思えなかった」
「褒めてもらってる・・・ってうけとって良いんだよな?」
次の日の朝、英輔が目を覚ますと何やら異臭が漂っていた。
「何だこの臭い・・・」
どう表現すればいいのだろうか・・・。
とにかく臭かった。
いつもより早く目覚めたのもその臭いのせいだろう。
「下から・・・・だな。まさか台所じゃないよな?」
英輔は急いで下の階に下りた。
英輔の嫌な予感は的中した。
その臭いは台所から来ていた。
「まさか・・・・!」
「おはよう英輔」
「ッ!?」
英輔が駆け付けた時、既にそれは食卓に運ばれる途中だった。
「あの・・・リンカさん?」
「何だ?」
「それは、何でしょうか・・・?」
英輔が恐る恐る聞くと、リンカは屈託なく笑った。
「何って、まーぼーどうふだ。昨日おいしかったから作ってみようと思ってな」
これを麻婆豆腐と呼ぶことは、世界中の麻婆豆腐に失礼だろう。
そう思えるほどそれは酷かった。
唯一麻婆豆腐らしいところと言えば豆腐だけだろう。
ケチャップの海に沈められた豆腐に、無数のネギが散りばめられている。
「さあ、遠慮せずに食べてくれ!昨日のお礼だ!」
食えるかぁぁぁぁぁッ!
と叫びたいところだが、流石にそれはかわいそうだ。
折角彼女が英輔のために作ってくれた料理(?)を無駄にするのは良い気分ではない。
「あ、ああ・・・・。いただくよ・・・」
「おかわりなら沢山あるぞ!」
「この食事続けたらいつか死ぬ気がする・・・」
英輔は麻婆豆腐(?)を食べた後、すぐに制服に着替えた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「どこへだ?」
「学校」
「私も行くぞ」
「いや、家に残っていてくれ」
「何でだ?」
「・・・。まあとにかく家にいてくれ」
「・・・・・。しょうがないな。ちゃんと帰って来いよ。帰って来なかったら殺すからな!」
「どうした桧山、死にそうな顔してるぞ?」
雄平だった。
異常なほどに顔色の悪い英輔を心配しているのだろう。
「ああ、心配事が出来たうえに殺されかけ、さらに帰って来なきゃ殺す宣言されたからな」
「意味がわかんねえな」
「俺もわかんねえ」
英輔は「はぁ」と溜息をついた。
4時限目の授業が終わると、英輔は買ってきた弁当を鞄から出した。
「おい鼻血、学食行くか?」
ニヤニヤ笑いながら雄平が英輔を誘う。
「だが断る」
「何でだよ」
「学食行くのが嫌で弁当買ってきたんだよ」
「つまんねえな」
「悪かったな」
「んじゃ、1人で行ってくるわ。スイカを見にな」
「ぶっ!」
英輔は思わず米を吹き出しそうになった。
「はははは」
それを見て楽しそうに笑いながら、雄平は食堂へ向かった。
数十分後、英輔が弁当を食べ終わり、少し経った頃だった。
「お、高島おかえり」
「ああ」
雄平は何故か虚ろな目をしていた。
「何かあったのか?」
「ああ」
「・・・・。ふざけてんのか?」
「ああ」
何を言っても上の空、といった様子だった。
その虚ろな目はどこか遠くを見ているようにも見える。
「どうしたんだアイツ・・・」
しばらくして5時限目の授業が始まった。
雄平のことを心配しつつも、ボーっとしていた。
英輔の席は廊下側の一番後ろだった。
「おい、おい・・・」
廊下の方から何か聞こえる。
「え?」
ふと見てみればそこにいたのはリンカだった。
教室の外にリンカがいる。
そしてドアを少しだけ開けて隙間から話しかけてきているのだ。
「おま、何でここに・・・!?」
「英輔、気をつけろ」
「気をつけるのはお前だ!先生に見つかったらどう説明する気だ!?」
「そうじゃない」
「じゃあ何なんだよ?」
「この学校、何かいるぞ」
「何かって・・・お前の言う悪事を働く奴らか?」
「そうだ。この学校内のどこかにいる」
「嘘吐け」
「嘘なんかじゃない!ホントにいるんだ!」
「化け物が学校にいるわけねーだろ!!!」
ガタン!
つい席を立ってしまう英輔。
クラス中の視線を一気に集めている。
「・・・」
「そうだな桧山。化け物が学校にいるわけないな。そのことについて話がしたい、後で職員室に来い」
「・・・・」
クラス中から笑い声が聞こえた。
「・・・?」
クラス全員が英輔を笑っている中、一番笑いそうな雄平だけは虚ろな目のまま座っていた。
To Be Continued




