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29ページ目「開かれた境界。」

午後9時。

英輔は腕時計で時刻を確認する。

時間通りだ。

「なあリンカ、ヴァームの情報…正しいと思うか?」

「さあな……。だが、ただでさえ星屑に関する情報は少ないんだ。ガセだとしてもすがるしかないだろう」

それもそうだ。

詳しいことはリンカでさえ知らない。

ガセの可能性があったとしても、今はそれにすがるしかないのだ。

「にしても…遅いな。アイツら」

英輔がそう呟いた時だった。

ビュオッ!

不意に吹き抜ける強い風。

「こんばんは、リンカさん」

霧島雅はゆっくりとリンカの前に降り立った。

「一番会いたくねえ奴が最初に来るとはな…」

「俺も同感だ。こんな足手まといは放っておいて俺とリンカさんで行きませんか?」

「そういう訳には行かない。人手は多い程良いらしいしな……。それに」

「コイツはお前が思っているより優秀だぞ」

そう言ってリンカはニヤリと笑った。

「まあリンカさんがそう言うなら…」

雅が渋々呟いた時だった。

1台のタクシーが英輔達の前で止まる。

ガチャリとドアが開き、ドレス姿の少女と細身の男が姿を表す。

「ごきげんようリンカ、英輔様」

アクネスが挨拶すると、後ろでアルビーが一礼する。

「よく来てくれたな」

「ええ、星屑の動きは少し鼻につくものがありましたし…」

アクネスはそこまで言いかけ、顔を真っ赤にして英輔に熱い視線を送った。

「ッ!?」

「それに私、英輔様に会いに来ましたのよ」

そう言うとアクネスは両手を頬にあて、真っ赤になりながらクネクネと動く。

「もう、英輔様ったら…!そんな視線を送らないで下さいませ!」

「英輔……お前……!」

「いやいや、知らねえって。怖いから、怖いからやめて下さいそんな両親の仇を見つけた時のような顔で俺を見ないで下さい怖いですから」

リンカの睨みつけるような視線に英輔はガクガク震える。

こんなリンカは初めて見た。

「やん、もう!そこはらめええええええええええ」

「姫様、仲間割れが始まりそうなので妄想を暴走させるのはそこまでにした方がよろしいかと」

「お黙りなさいアルビー。正論だけどお黙りなさい」

「申し訳ございません姫様」

相変わらずの理不尽さだ。

「これで全員か…?」

声のする方を向くと、そこにいたのはヴァームだった。

「集めさせた張本人が遅刻かよ」

「少し準備に手間取ってな…」

「で、星屑のアジトはどこだ?」

リンカが問うと、ヴァームは右手で眼鏡の位置を直した。

「ああ、リンカ、君はどこだと思っている?」

「この町の中、もしくはその周辺だ。奴らの行動範囲は狭く、この町とその近隣に集中しているからな」

「ふむ…」

ヴァームは少し考え込むような仕草をするとポケットから何かを取り出した。

「正解であって正解でない。といった所か…」

ヴァームがポケットから取り出したのは短刀だった。

大した特徴もない短刀。

殺傷力も低そうである。

「この町は少し特殊でね…。次元の境界線が少し緩い」

ヴァームは短刀を裏手に持つと、空にそれを突き立てた。

「その境界線を、この短刀で少し切れ目を入れてやる。すると……」

ヴァームは短刀をゆっくりと下に降ろす。

「ッ!?」

異様な光景だった。

空間に切れ目が入ってるのだ。

中には紫のような黒のようなよくわからない色が渦巻いている。

「コレは……ッッ」

驚愕しているのは英輔のみで、他の面々は冷静だった。

「なるほどな…」

「この町であってこの町でない。この世界であってこの世界でない。ココに出来た切れ目はこの世界とあちら側の世界の狭間の世界だ」

「マジかよ…」

これまで様々なファンタジー現象に出会った英輔だったが、流石にこれは驚いた。

「この先に私の知り合いがいる。後は彼女がやってくれるだろう」

「彼女…?」

「とにかく…」

ヴァームは空間の切れ目の両端を両手で持つと、それをグッと広げた。

「行こうか」

「……ああ」

それぞれが一様に頷く。

「念のため言っておくがこの先に行けば、生きて帰れる保証はないぞ?それでも行くか?」

「愚問だな」

雅。

「答えるまでもありませんわ」

アクネス。

「姫様が行くと言うのなら」

アルビー。

「私が何のためにこの世界に来たと思っている?」

リンカ。

「……」

「どうする?」

ヴァームは英輔をジッと見る。

英輔が答えるのを待っているようだ。

「俺は……」

「最初はリンカと会った時、こんな奴の手伝いなんか出来るかって考えてたんだ」

英輔はリンカを真っ直ぐと見据える。

「でも今は違う。俺はリンカと、コイツらと…」

「何より自分のために戦いたいッ!!」

「よく言った」

ヴァームは微笑むと、空間の切れ目の中へと入って行く。

続けて雅、アクネス、アルビーと中へ入って行く。

「行くぞ」

「ああ」

リンカが中へ入り、英輔もそれに続いた。



妙な感覚だ。

まるで身体が一度分解されて再構築されて行くような…

身体の感覚が消えているようにも感じる。

「英輔」

声が聞こえる。

リンカ…?

「英輔、大丈夫か?」

手の感触。

足の感触。

段々と身体の感覚が戻って行く。

「……」

英輔はのそのそと身体を起こす。

どうやら倒れていたようだ。

「ココは…」

路地裏。

そう形容するのが一番だった。

「リンカ、他のみんなは?」

英輔の傍にはリンカしかいなかった。

「アイツらは先に行ったよ…」

「そうか」

「奥に行けば良いのか?」

「ああ。行くぞ」

リンカに連れられ、英輔は奇妙な路地裏を歩いて行く。

少し歩くと人影が見えた。

「こんにちは。それとも向こうの時間はおはようございます…かしら?」

1人の女だった。

地面につく程長い黒のワンピース。

腕には黒く長い手袋をはめている。

そして地面につかんばかりの長い髪。

ワンピースという軽装のせいで女性らしい艶めかしいボディラインがくっきりとわかる。

そして豊満な胸がそれを更に強調する。

英輔は目を見開いたまま硬直していた。

あり得ない。

こんな場所にいるハズがない。

英輔の脳が全力で否定する。

ココにこの人がいるハズがない。

「嘘だ…」

「……」

「母……さん…」

その瞬間、時が止まったかのように感じた。



To Be Continued

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