28ページ目「もたらされた情報。」
「その顔なら…かまわずぶん殴れるぜッッッ!」
英輔は大きく振りかぶって雅もどきに殴りかかる。
雅もどきはそれを軽く右手で受けると左拳で英輔の顔面を思い切り殴った。
ゴッ!
英輔はそのまま後ろに吹っ飛ぶ。
「……ッッ!!」
油断していた。
先程のリンカもどきがあっさり倒せたため、隙だらけだった。
「油断したぜ…」
雅もどきは右腕をゆっくりと上げる。
ビュウッ!
英輔は風が強くなったのを感じた。
「魔術……!」
雅もどきの前に風によって作られた刃がいくつか現れる。
「ヤベ…ッ!」
ビュビュビュッ!
それらは一斉に英輔に向かって飛んでくる。
「おおおッッッ!!!」
イメージ。
巨大な円。
英輔の全身を守れるような巨大な円。
英輔は右の手の平を前に突き出す。
バチバチバチバチバチッ!
電流の弾ける音がする。
英輔の前には直径2m程の盾のような電流の円が現れる。
ガガガッ!
風の刃は円によって防がれ、消滅する。
と、同時に英輔の前の円も消滅する。
「ふぅ…」
英輔は一息つくと雅もどきに向かって走りだした。
「らァッッ!」
今度は油断しない。
雅の顔面めがけて右拳を突き出す。
ゴッ!
今度は直撃。
ふらつく雅もどき。
「ダメ押しにもう一発ッッッ!!」
ガッ!
すかさず左拳を雅もどきの顔面に叩き込む。
雅もどきはそのまま地面に倒れた。
「よしッ!」
英輔は雅もどきが倒れたのを確認すると右腕でガッツポーズを作った。
「……」
3人目ともなると流石に面倒に感じる。
雅もどきはリンカもどきと同じようにドロリと溶ける。
「今度は誰だよ…?」
今度は英輔より遥かに長身だった。
20代後半くらいだろうか…?
見覚えのある、眼鏡をかけたその姿は…
「ヴァーム…!」
過去にリンカを助ける丸薬をくれた男。
リンカに聞けば闇医者だったらしいが…
「俺の記憶が元になってるのか…?」
英輔を倒すのならもっと強い人間に変身すれば良い。
しかしそれをしないということは何かの制限があると考えるのが妥当だ。
例えば元となるデータ…。
そのデータこそ英輔の記憶…
だとすればどこで記憶を見られたのだろう…?
「あの時か…!?」
さっき感じた冷たい感触。
恐らくコイツだろう…
そうならば説明がつく。
「なるほどな…」
英輔が納得し、目の前のヴァームもどきと戦おうと構えた時だった。
ビュッ!
背後から何かが飛んでくる。
「ッ!?」
英輔がそれを避けるとそれはヴァームもどきへ突き刺さり、ヴァームもどきはそのまま後ろに倒れた。
「注射器……?」
ヴァームもどきに突き刺さっていたのは注射器だった。
「人造生物ごときがこの私に化けようとは…。姿だけならそっくりだったがな……」
背後から聞き覚えのある声。
英輔が振り返るとそこに立っていたのはヴァームだった。
ヴァームは眼鏡の位置を右手で直すとニヤリと笑った。
「やあ、久し振りだね」
「アンタ…なんでココに……!?」
「立ち話もなんだ、君の家に行こうか」
「コイツはどうするんだよ?」
英輔はその場に倒れているヴァームもどきを指差す。
「ああ、問題ない。そいつは星屑の作った人工生物だ。私の薬の作用で分解され、無害な物質になって大気に散るだろう」
「人工生物…?星屑の…?」
「やっと帰れるな…」
夕方、やっとテニスの試合から解放されたリンカは早歩きで帰っていた。
ねえ、磯野さんと桧山って付き合ってんの?
あの時言われた言葉を思い出す。
英輔と付き合う…?
私が…?
リンカは頭をブンブンと振った。
そんなことはあり得ない。
あんなだらしない英輔が、私と付き合うなど100年早い。
リンカはそんなことを思いながらも今までのことを思い出していた。
苦しむ自分を必死で助けた英輔。
雅に記憶を操作されかけた時、結界を破って助けに来た英輔。
共に星屑を潰すと誓ってくれた英輔。
「……」
だがそれとこれとは別だ。
私と英輔では釣り合わない。
リンカはその考えを肯定するように1人で頷く。
「その前に英輔は人間で……私は悪魔だ」
リンカは夕日を見ながら1人、寂しげに呟いた。
「ただいま」
リンカが家に戻ると、居間で英輔がテレビを見ていた。
いつもと変わらない。
ただ、1つのことを除いては…
「何でお前がココにいる?」
「やあ、お帰り」
「何が『やあ、お帰り』だッ!」
眼鏡をかけた長身の男が英輔と向かい合うように座っていた。
「お邪魔しているよ」
「悪いな、帰る途中にちょっと…な」
「……。まあ事情を聞こうじゃないか」
リンカが隣に座ったのを確認すると、英輔はこれまでの経緯を話した。
「ふむ…。それでコイツは何の用でココにいるんだ?」
「ああ、それについては今から話そう。君が帰るのを彼と待っていた所だよ」
ヴァームは英輔が出したであろうお茶を一口飲んだ。
「単刀直入に言おう、星屑のアジトが判明した」
「ッ!?」
ダン!
机を両手で叩き、リンカが立ち上がる。
「本当かッ!?」
「ああ、確かだ」
「どこにある……!?」
「口で説明するよりも直接行った方が早い」
「アンタが案内してくれるのか?」
英輔が問うと、ヴァームはコクリと頷いた。
「ああ。私も用があるからな」
「何故私達に教える?」
「私1人の力では星屑に挑むには無謀だ。故に力を借りたい。利害は一致している……そうだろう?」
「だな…」
「情報源は信頼出来るのか?」
英輔の問いに、ヴァームは頷いて答える。
「ああ、私の古い友人でね、情報屋をやっている。彼からの情報だ」
「本当に信頼出来るんだな…?」
「勿論だ」
そう言うと、ヴァームは立ち上がった。
「お茶をありがとう、失礼するよ」
「待て、まだ伝えてないことがあるだろう?」
リンカは帰ろうとするヴァームを睨みつける。
「今夜9時…。君達の通っている高校の校門に集合だ」
「わかった」
「それと、君達の知り合いの中に協力してくれそうな魔術師がいるなら連れて来てくれ。人手は多い程助かる」
それだけ言い残すと、ヴァームはこの家から去った。
To Be Continued