24ページ目「打ち消された魔術。」
夜の校庭。
その中心部分に1人の少女と細身の男が立っていた。
漫画やアニメで見たようなドレスを身にまとい、ウェーブのかかった長い金髪という普通に暮らす上では滅多に見られない出で立ちの少女。
英輔はその少女がリンカの宿敵だと確信した。
男の方背が高いく、170cmは優に超えているいるだろう。
「あらリンカ、ギリギリ時間に間に合いましたわね」
少女は自分の腕時計を見ながら言う。
「ギリギリ?違うな、時間ピッタリに来てやったんだ」
「あらそう」
少女は腕時計から眼を放すと、リンカの方を真っ直ぐに見据えた。
「アクネス、お前も懲りないな・・・。いい加減諦めたらどうだ?いくらやっても私には勝てんぞ?」
「まさか私を今までと同じだと思ってなくて?これでも私、成長しますのよ」
「まあいい。今日で最後だ。決着を着けるぞ」
「ええ。私の勝利という結果で終わらせて見せますわ」
アクネスと呼ばれた少女の隣の男は呆れた様子で2人を見ていた。
英輔は思う。
この男、自分と似たような立場に置かれているんじゃないか?と。
「まあ、勝てなかった時はまた挑みますわ」
「人の話を聞いてなかったのか?これで最後だと言ってるだろう」
今までこんな感じで長引いてきたんだろうな・・・と英輔は思う。
「最終的には寝首をかいてでも・・・・・」
「姫様、それはどうかと思われます」
耐えかねたのか男はついに口を挟む。
「お黙りなさいアルビー。正論だけどお黙りなさい」
理不尽である。
「申し訳ございません姫様」
明らかに理不尽だが、アルビーと呼ばれた男はアクネスに頭を下げる。
「さあ、そろそろ始めますわよリンカ」
「今日は早く寝たいのでな・・・。すぐに終わらせてやる・・・!」
ボッ!
リンカの右手に炎が灯る。
嫌そうにはしているが一応リンカもやる気はあるらしい。
「行くぞ・・・・ッ!」
リンカはアクネスに向って駆け出した。
「来なさいリンカ」
ビュッ!
リンカはアクネスの顔面めがけて炎の灯った右の拳を突き出す。
アクネスはしゃがんでそれを避け、リンカの懐に潜り込むとリンカの顎めがけてアッパーを繰り出す。
リンカは瞬時にそれを空いている左手で受け、右膝でアクネスの腹部を蹴り上げる。
「うぐ・・・ッ!」
一瞬よろめいたアクネスの顔面をリンカは左の拳で思い切り殴った。
ゴッ!
痛快な音とともにアクネスは少し飛び、倒れた。
「姫様ッ!」
アルビーが駆け寄ろうとするが、アクネスはよろめきつつも立ち上がり、それを左手で制止した。
「心配には及びませんわ・・・。それにしても、やはり体術ではリンカに分があるようですね」
「諦めたか?」
「全然」
リンカの問いにアクネスはニヤリと笑いながら答えた。
「なら・・・諦めるまで叩きのめしてくれるッ!」
ゴォッ!
リンカが右腕を突き出すとバスケットボール程度の大きさの火球がアクネスへ向かって飛んで行く。
「ふふ・・・」
ジュゥゥゥゥ・・・
「ッ!?」
使ったばかりのフライパンに水をかけたような音だった。
火球はアクネスに当たる直前で消えた。
「・・・水の魔術か」
「属性的には私が圧倒的に有利ですわね」
「あれほど未熟だったというのに・・・。成長しているというのは本当のようだな」
リンカにはまだ余裕があるのか、アクネスを挑発するように笑った。
「その余裕も・・・いつまで続くかしらッ!!」
アクネスが下からすくい上げるように右腕を振ると、先程のリンカの火球よりもやや大きな水の塊がリンカに向って飛んできた。
「ッ!」
リンカは高く跳び、水を避けると空中で右腕をアクネスに向けた。
「水の魔術ごときで私に勝てると思うなッ!」
ゴォッ!
リンカの右腕から火炎放射のようにアクネスに向けて炎が噴射される。
「ふふふ・・・・」
アクネスは微笑すると炎に向って手をかざす。
「無・駄・ですわ♪」
アクネスの腕から勢いよく水が噴射される。
「ッ!?」
リンカの炎はかき消され、滝のような水がリンカに直撃する。
「リンカッ!!」
ドサリとリンカはそのまま地面にたたき落とされる。
「ぐ・・・ッ!」
「リンカ!」
ボゴォッ!
英輔がよろめくリンカに駆け寄ろうとすると英輔の進行方向に巨大な土の壁が出現する。
「ッ!?」
アルビーだ。
彼は地面に手をつき、英輔の方を見ていた。
「姫様に誰にも戦いの邪魔はさせるなと命じられています故」
「・・・・!」
目の前の土の壁は素手で破壊できる代物ではない。
かといって英輔の魔術では属性的にどうにもならない。
「貴方様がリンカ様に加勢するのなら・・・、結果的に貴方の敵は私ということになります」
「そうかよ・・・ッ!」
英輔はアルビーを睨みつける。
「じゃあ、テメエを倒してリンカを助けるまでだッ!」
「では、お相手致しましょう」
アルビーは英輔に軽く一礼した。
To Be Continued