22ページ目「現われた武者。」
不意に消えた感覚。
何かを抱きしめていたという感覚。
小さな、小さな少女。
「あらぁ・・・」
死霊使いは呆れたようにその光景を見ていた。
「成仏しちゃったわ」
そしてクスリと笑った。
英輔の力が誤算ではあったものの、想定の範囲内ではあった。
「なぁ」
不意に英輔が声を発する。
「英輔・・・・?」
うつむいていて表情がよく見えない。
「なぁに?」
その声が自分に向けられたものだと気づいた死霊使いは余裕の態度で返答する。
「何故殺した・・・・・ッ!」
「誰を?」
誰について聞かれたかなどわかっている。
だがあえて死霊使いは英輔に問う。
「何故白を殺したッ!?」
「記憶を見たのね」
白の記憶を垣間見た時、最後に見た光景。
事故で家族を失い、1人たたずむ白を殺害する死霊使い・・・。
「死後霊化する可能性の高い人間を殺して霊化させるのは死霊使いの基本よ?」
「そうか・・・・ッ!」
英輔は右腕の拳をギュッと握りしめた。
そして顔を上げ、死霊使いを思い切り睨みつける。
「だったらテメエだけは許す訳にはいかねえッ!」
「どう許さないのか・・・見せてもらおうかしら・・・・」
英輔が窓の外にいる死霊使いに殴りかかろうとした時だった。
「待て」
不意にリンカが英輔を制止する。
「何で止めるんだよッ!?」
「負傷したお前ではあの女には勝てない」
「そういう問題じゃねえんだよ・・・ッ!」
「ならどういう問題だと言うのだ?その場の激情に身を任せて死ぬ気かッ!?」
「・・・・・クソッ!」
「下がっていろ。この女は私がやる・・・」
リンカは死霊使いを睨みつける。
「私も嫌われたものね・・・」
「これだけやって嫌わない人間なんてこの世には滅多にいないな」
「あらそう。まあ、死霊使いなんて忌み嫌われるものやってるんだから仕方ないわね」
ポンポン
死霊使いは自分の乗っている壺を軽く叩いた。
すると壺の中から何やら黒い靄が噴き出てくる。
「ま、私自身は戦えないからこの子に頼むわ。じゃ、頑張ってねリンカちゃん♪」
「待て・・・ッ!」
靄で視界を奪われている間に死霊使いは姿を消していた。
「・・・・ッッッ!?」
リンカ達は自分の眼を疑った。
あまりにもそれはこの部屋とは不釣り合いだった。
「何なんだコイツは・・・ッ!?」
英輔が驚愕の声を上げる。
当たり前の反応だった。
それはあまりにも異質だった。
「ォォ・・・!」
赤い甲冑を身にまとい、日本刀を構えた武者がそこにいた。
「武・・・者・・・・・!?」
「ォォッ!」
ブンッ!
武者はリンカに向って刀を振り下ろす。
間一髪でそれを避けたリンカは軽く跳んで武者の頭部に回し蹴りを喰らわせる。
「ォ・・・・」
「効いてない・・・!?」
リンカの回し蹴りを喰らっても、武者は何事もなかったかのように直立している。
「ォォォォォォッ!」
武者は刀を振り上げるともう一度リンカに向って振り下ろした。
リンカは刀を避け、武者の懐に入ると腹部に正拳突きを喰らわせた。
しかし予想通り武者は微動だにしない。
リンカはそのまま武者の顎に底掌を喰らわせる。
「燃えろッ!!」
ゴォッ!
そしてそのまま炎を噴射した。
「ォォォォッッッ!!!」
流石にこれは効いたのか、武者は雄叫びを上げ後退し、よろめく。
「やったか!?」
だが英輔の期待を裏切るかのように武者は体勢を立て直した。
「ォォ・・・ッ!」
そのまま武者は走り、リンカに向って刀を横に振る。
リンカはそれを跳んで避けると、空中で縦に回転し、武者の頭部にかかと落としを喰らわせた。
そのまま武者の頭の上で踏み込み、武者の背後で着地すると背後から頭部を掴んだ。
「ハァッ!」
ゴォッ!
そして再度炎を噴射する。
「ォォォッ!」
「どうだ・・・・?」
ガシャ
武者がその場に膝をつき、バタリと倒れる。
「ふぅ・・・・」
そして徐々に消えて行く。
「多少頑丈ではあったが所詮は時間稼ぎか・・・」
「アイツ、逃げやがったのか・・・・ッ!」
英輔は拳を握り締める。
「なあリンカ」
「何だ?」
「星屑って奴らはあんな連中ばかりなのか・・・?」
「さあな・・・・」
「アイツらの目的って何なんだよ・・・?」
「わからない。だがこれだけは言える。奴らのやろうとしていることがこの世界に大きな災いをもたらすことになる」
「そうか・・・」
そう言うと英輔はおもむろに開けっ放しの窓から空を見上げる。
「リンカ・・・。星屑を潰そう」
「・・・。白の仇か?」
「いや、それだけじゃない。アイツらのせいで白見たいな目にあう人達が出ないように・・・」
「そして」
英輔は振り向き、リンカを真っ直ぐに見た。
「お前の星屑壊滅以外の目的のために」
「・・・・」
リンカは一瞬言葉を失った。
英輔が自分にこんなことを言うとは思っていなかった。
「べ、別にお前に言われずともそのつもりだ・・・!それに、お前に私のもう1つの目的がわかるのか?」
「わかんねーよ。でも・・・」
「手伝うくらい良いだろ?」
そう言って英輔は屈託なく笑った。
「・・・・好きにしろ」
「そうさせてもらう」
そう言って英輔はもう一度笑った。
To Be Continued