21ページ目「操られた白。」
「嘘だろ・・・・?」
英輔は恐る恐る振り返る。
そこにはうつむいた白が立っていた。
明確な殺意を英輔に向けながら。
流石のリンカも言葉を失っている。
今の白はあまりにも違った。
今までの白とは違い過ぎた。
「ふふふふ。ほんの少しの間でも家族と思ってたその子と、精一杯殺し合いなさいな」
死霊使いはニヤニヤと笑いながら英輔達を見ている。
「やりなさい、白。彼らはあなたの敵よ」
「テ・・・キ・・・?」
「そう、敵。よく言えたわね」
「テキ・・・・・!」
「ほら」
死霊使いはどこからかナイフを取り出し、白に向って投げた。
パシッ!
白はそれを受け取るとしげしげと眺めた。
「それを使いなさい。この前みたいに・・・・」
死霊使いはそれまでよりも一層妖しく笑った。
ビュッ!
認識出来るかとどうかギリギリの速度だった。
ナイフを裏手に構えた白は英輔に異常なスピードで斬りかかる。
「ッ!」
間一髪で英輔はそれを避けた。
白はベッドに着地すると、ベッドの上で跳ね、その反動を利用して更に素早く英輔に斬りかかる。
「痛ッ!」
致命傷は避けることが出来たが頬に軽い切り傷が出来る。
「英輔ッ!」
「待てリンカ!」
駆け寄ろうとしたリンカを英輔は制止した。
「これは・・・・これは俺の責任だ・・・。だから、俺が決着をつける!」
「馬鹿言うな!お前が・・・・お前がその小娘と戦える訳ないだろう!?」
「それでも・・・・俺の責任だから・・・!」
英輔は意を決したかのように構えた。
異常に早いとは言え、完全に認識出来ないスピードではない。
集中しろ。
英輔は自分の中で言い聞かせる。
見るんじゃない、感じるんだ。
神経を研ぎ澄ませろ。
全てを感じ、認識し、区別しろ。
リンカの魔力、英輔自身の魔力、死霊使いの魔力、そして・・・白の魔力。
既に英輔は眼を閉じていた。
未熟な俺に視覚は邪魔だ。
精神を研ぎ澄ませるのには眼を閉じるのが最適だ。
集中しろ。
英輔は再び自分に言い聞かせた。
「英輔・・・」
ゆらりと、感じていた白の魔力が動く。
ビュッ!
白の魔力が英輔に向って素早く動く。
ナイフが来る。
「英輔ッ!」
バチバチッ!
「ッ!?」
白のナイフが英輔の身体に刺さる直前で止まる。
「魔力障壁・・・。英輔の奴、いつの間に使えるようになったんだ・・・。いや、魔力障壁と言うよりは強大な魔力が漏れているだけだな」
英輔自身は全く意識していない。
ナイフが来たら素手で受け流すつもりでいた。
それが、何故か何もすることもなくナイフは止まった。
バチッ!
「あッ!」
ドン!
英輔の魔力障壁に弾かれ、白は吹っ飛んで壁にぶつかる。
「・・・・」
そんな様子を死霊使いは黙って見ていた。
「思ったよりやるわね・・・。あの少年」
死霊使いの考えでは英輔は白に戸惑い、何も出来ないまま死んで行く・・・。
そうなるハズだったのだ。
少し魔力が使えるようになっていたのが死霊使いの誤算だった。
「しょうがないわね」
パチンッ!
死霊使いは指を鳴らした。
「・・・・・ッ!?」
白に異変が起こる。
指の音に驚き、英輔は眼を開けた。
「う・・・ぐぐ・・・!」
白は再び苦しんでいた。
「白ッ!」
グキグキグキッ!
「何・・・!?」
英輔達は眼を疑った。
白の右腕が歪に変化し始める。
皮が伸び、ナイフに張り付く。
まるでナイフと腕が融合しようとしているかのように。
ナイフがほぼ全て皮に取り込まれ、グチュグチュと中で変化する。
「そんな・・・・」
ナイフの刃だった部分が長く伸びる。
鋭く、長く。
「ア、アア・・・・ッ!」
ビュッ!
白は変化した右腕で英輔に斬りかかる。
バチバチッ!
英輔の魔力障壁?が白の右腕を阻む。
が、それも長くは持たなかった。
ザンッ!
「ぐ・・・・ッ!!」
白の右腕が英輔の腹部を斬り裂いた。
「英輔ッ!」
返り血が白の顔に飛び散る。
白が後に下がり、体勢を立て直そうとした時だった。
「ッ!?」
英輔はしゃがんで白を抱きしめた。
「大丈夫」
「アア・・・・!」
「大丈夫だから」
今の白には届くかどうかもわからない優しい言葉を、英輔は繰り返した。
「何をしている英輔ッ!死ぬぞッ!」
白は再び英輔の腹部を斬り裂こうと右腕を動かした。
が、その腕はすぐに止まった。
「何をしているの白。早く殺しなさい」
余裕は消えているが、悪魔で冷静に死霊使いは指示する。
が、白は従わなかった。
「オ兄・・・ちゃン」
「白・・・・」
「ずット欲シカった・・・白のホントウノお兄チャん」
「お前・・・・・・」
英輔の脳内に様々なイメージが浮かび上がる。
恐らく生前の白のものだろう。
貧しい家に引き取られた白。
その家の家族に疎まれ、虐げられる白。
放置、罵倒、暴力。
イメージの中で最も白を傷つけていたのは長男であろう青年だった。
「白の・・・記憶・・・」
自然と英輔の眼からは涙が溢れていた。
「もう、お前を虐める奴なんていないからな。これからお前が行くところは、きっと幸せだから」
徐々に白から溢れる光。
未練のなくなった霊が天へ帰る際の光。
「ホんトに・・・?」
「ああ、嘘はつかない」
白が消える瞬間、英輔は一層強く白を抱きしめた。
To Be Continued
今日はすごく調子が良かったので久々に2話連続更新です。
最近サボりがちですいませんorz
21部分目と言えば前々作の「〜夢は現となりて〜」の話数と同じです。
話数的には前々作を越えました。
作品的には越えてるのかな・・・?
微妙なとこですので評価等で教えていただければ幸いです。
それでは今後とも「落ちていた魔導書。」をよろしくお願いします。




