19ページ目「見えない亀裂。」
「ふわぁ〜あ」
英輔は学校に到着すると大きくあくびをした。
昨日は何者かの襲撃のせいでよく眠れなかった。
ベッドの中で長いことアレが誰だったのか、何故自分が狙われたのか・・・などといったことを考えていたのだ。
睡眠時間は正味2時間程度だろう。
「だらしがないな・・・・」
隣で呆れたようにリンカが溜息をつく。
今朝もリンカは機嫌が悪い。
昨日の深夜に起こしてしまったのと・・・・
「お兄ちゃん♪」
この背中にくっついてるのが原因だろう。
白は恐ろしく軽く(霊だからか?)、まったく重さを感じない。
家に置いて行くのも忍びないので連れてくることにした。
どうせほとんどの人が見えないだろう。
見えそうな人間と言えば英輔の知ってる中ではたった2人だけである。
「おはよう桧山君」
教室に入るとほぼ同時に淳が話しかけてきた。
「おう」
「ところでその背中にくっついてる娘、どうしたの?」
無論、白のことである。
「ああ、家の前にいたんだ。行くとこなさそうだし、しばらく世話することにしたんだ」
「良いの?学校連れて来て・・・・」
「どうせお前くらいしか見えないだろ」
「そっか。そうだよね」
そう言うと淳はニコリと笑った。
どうやら霊に関しては英輔より鋭いらしく、一目で霊だとわかったらしい。
「ふん、お前よりよっぽど優秀だな」
「悪かったな」
そう言いながら英輔は白を背中から降ろすと席に座った。
「授業中とかはこの辺にいてくれ」
「わかった」
何が嬉しいのか白はニコニコしている。
「私が学校に来た時は追い出したくせに・・・」
「お前は見えるだろうが」
リンカは拗ねているように見えた。
「そういえば・・・」
英輔は教室を見回すが、雄平が見当たらない。
「高島はどうした?」
「高島君?高島君なら・・・」
淳は一瞬考えた風な顔をした後
「ぶらっでぃなんとかにかかったってメールで言ってたよ」
「それ死ぬぞおい」
雄平のことだ、どうせ仮病だろう。
キーンコーンカーンコーン
不意にチャイムが鳴り響く。
「あ、じゃあ僕席に戻るね」
「ああ」
淳は急いで自分の席に戻って行った。
「英輔・・・」
「ん?」
隣を見るとリンカは真剣な顔でこちらを見ている。
「ぶらっでぃなんとかって何だ・・・?死に至る程の病なのか・・・?」
「・・・・」
リンカの表情は至って真面目である。
「いや、架空の病気だから」
真顔のリンカに英輔はとりあえず真顔でつっこんでおいた。
その日は何事もなく終わり、英輔は背中に白をおぶって帰った。
授業中などの白は驚く程静かで、全く邪魔にならなかった。
教室の中を走り回ったりはしていたがこれといって問題はなかった。
「今日は静かにしててくれてありがとな」
「うん。これからも静かに出来るよ!」
「それなら安心だ」
英輔は白に微笑みかけた。
そんな2人の様子をリンカは不機嫌そうに見ていた。
何故あんな霊の小娘に肩入れするのだ・・・。
昨日の襲撃ももしかしたらソイツかも知れないのだぞ・・・。
「英輔」
「ん?」
「魔術の鍛練はしているか・・・?」
「あ・・・。昨日は・・・してない・・・」
「愚か者め!鍛練をサボるとは何事だ!」
本当は2、3日サボったって大した問題はない。
しかしリンカには口実が欲しかった。
「帰ったら私と鍛練だ。わかったな・・・?」
「おいおいマジかよ。もう暗いぜ?」
「つべこべ言うな。私の炎があれば暗さなど問題にならん」
「室内でとか出来ないのか?」
「黙って私の言う通りにしろッ!」
つい声を荒げてしまった。
英輔の背中で白が怯えている。
「・・・・・」
しばしの沈黙。
「わかったよ。やればいいんだろやれば」
そう言った英輔の顔はどこか不機嫌そうだ。
「だけど、もうキレんなよ。白がすっかり怯えちまっただろ」
またその小娘か。
リンカは自分でも気付かないうちに心の内側で沸々と怒りが込み上げていた。
「はぁ〜疲れた・・・」
鍛練を終えた英輔は既にくたくただった。
ここ最近のリンカは何故か機嫌が悪い。
さっきもこっぴどくしごかれた。
今リンカは先に風呂に入っている。
「お帰り!」
居間に行くと待っていたであろう白が抱きついてくる。
「ただいま。ごめんな待たせて」
「ううん、全然良いよ」
「そっか」
「うん♪」
なんてことない普通の会話だが、どこか心が癒される。
麗華もこのぐらいの時が一番可愛かったなぁ・・・。
などと英輔は娘に嫌われてしまったオッサンが幼女と触れ合った時のようなことを考えていると、リンカが風呂から上がってきた。
「随分と楽しそうだな英輔。お前も早く風呂に入ったらどうだ?」
やはり不機嫌そうである。
「はいはい今入りますよっと」
そう言うと英輔は風呂場に向かった。
英輔は風呂から上がるとテキパキと食事を用意し、リンカと食卓に着いた。
白は食べる必要はないのだが何故か食卓に来て英輔の隣に座っている。
「お兄ちゃん大好き!」
世の中のロリコンが聞けば気絶するくらい一部の人間に対して殺傷力の高い台詞とともに白は英輔に寄り添う。
「そんなくっつくと食べづらいだろ」
そうは言っているが英輔はどこか嬉しそうだ。
「・・・・」
そんな微笑ましい光景を、リンカはやはり不機嫌な顔で見ていた。
「まったくいつまでそんな怪しい小娘と仲良くする気だ・・・・!?」
「リンカ・・・?」
「昨日の襲撃もソイツかも知れないだろ。そんな得たいの知れん小娘とよくそこまで仲良く出来るな・・・」
バン!
リンカが言い終わるとほぼ同時に英輔は机を勢いよく叩いた。
「何でお前はそう白を毛嫌いするんだよ!?」
「怪しいものを怪しいと言って何が悪い。お前こそ何でその小娘に肩入れするんだ?このロリコンめ」
「何だと・・・・ッ!?」
英輔は席を立つと食卓を離れようとする。
「まだ食べかけじゃないか」
「食べる気にならねえ」
それだけ言うと英輔は自分の部屋へと向かった。
To Be Continued