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17ページ目「白い少女。」

「リンカ・・・・・」

あの人はニコリと微笑んだ。

私は思う。

きっと私はこの微笑みを見るためにこの世界に生まれたのだと。

その声も、その瞳も、その髪も、全てが愛おしい。

叶うのならずっとこのまま・・・。

「僕は行かなければならない」

笑顔で悲しい現実を突きつけられる。

やはり私の願いなど叶うことはないのだろうか・・・。

溢れる涙を必死にこらえる。

少し前に泣かないと誓ったばかりだというのに・・・・・。

「泣かないでくれリンカ。僕も寂しいんだ・・・・。だけど、僕は行かなければならないんだ。父上の指示だ」

父上など嫌いだ。

この日まで父上のことなど気にもしなかった。

でも、あの人が行かなければならないのが父上のせいなのなら・・・

私は父上を恨む。

「帰って来れない訳じゃない。きっと帰って来る。だから・・・・」









ココで映像は途切れた。

目を開けると今となっては見慣れた部屋だった。

リンカはこれまでのことが夢だったことにふと気づく。

悲しい夢。

「兄上・・・・・」

リンカは夢の内容を懸命に思い出す。

もう何年も前のことなのに・・・。

今でもたまに夢に見る。

「リンカー起きろー」

カンカンカンカン!

英輔の声とともにおたまでフライパンを叩く音がする。

「今行くー」

そう言うとリンカは制服に着替え、下へ降りて行った。



「珍しいな。お前がこんな時間に起きるなんて」

いつものリンカは平日なら英輔よりは30分以上も前に起き、居間でくつろいでいるのだが・・・。

「少し、夢見が悪くてな」

「どんな夢だよ?」

英輔の無神経な質問に、リンカは顔をしかめる。

「いや、言いたくないなら別に・・・・・」

「フン、まあいい・・・・」

そう言うとリンカは席を立った。

「おい、もう食べないのか?」

リンカの皿にはまだ半分程目玉焼きが残っている。

「いい、今朝はあまり食欲がないのでな。すまない」

「・・・・・」



その後、未だに機嫌の悪そうなリンカと学校に行き、いつも通りに過ごしたのだが・・・・。

どうにもリンカの機嫌は直らなかった。

「なんだかなー・・・」

今朝のリンカはどうもおかしかった。

機嫌が悪いというよりは気分が悪いというか・・・。

俺、何かしたかな・・・。

放課後、英輔はボーっと考えていた。

夢見が悪かった・・・と聞いたが一体どんな夢を見たのだろうか・・・。

「先に帰るぞ」

そんなことを考えているうちに、荷物をまとめたリンカが教室を出る。

「ちょ、待てって!」

英輔が慌てて追いかけようとすると、背後から何かに肩を叩かれた。

「ん?」

「桧山君、今日掃除」

後ろに立っていたのは長谷見千幸はせみちゆきだった。

セミロングの髪と、くりっとした瞳。

背丈は英輔と同じくらいで、女子の中では高い方だ。

彼女は中学時代からの友人で、今までに一度もクラスが別れたことがない。

英輔は腐れ縁程度に思っていたが、千幸にとってはどうなのだろう・・・?

「今日俺だっけ?」

「忘れてたの?」

「ん・・・まあ・・・・」

「しょうがないなぁ・・・」

千幸は呆れたように溜息をついた。

「ほら、黒板とかは私がやっとくから桧山君は床お願いね」

「雑巾は?」

「省略しちゃっていいよ」

そう言うと千幸は冗談っぽく笑った。



あれから数十分。

5分ちょいですませるつもりだったのだが千幸と喋りながら掃除したため、通常の倍くらい時間がかかってしまった。

千幸とはしばらく会話をしていなかったため、話題は尽きなかった。

「リンカの奴・・・。まだ怒ってるかな・・・」

英輔は薄暗くなった空を見上げながら呟いた。

「何のことかはよくわからないけど・・・とりあえず謝っておこう・・・・・」

そう言って英輔は急いで帰った。

しかし、家の前まで来た時だった。

「・・・?」

家の前に誰かがいる。

リンカか?

だがその予想は大きく外れた。

家の前に立っていたのは小さな見知らぬ女の子だった。

腰まで伸びた白髪がこの薄暗い中やけに目立っていた。

髪と同じくらいに白くて綺麗なワンピースを着ている。

「君、どうしたの?」

気が付けば英輔は少女に話しかけていた。

「・・・・」

「名前は?」

英輔は腰をおろし、目線を少女に合わせた。

びゃく

「白ちゃん・・・?」

白と名乗った少女はコクリとうなずいた。

「ここで何してるの?」

英輔がなるべく穏やかな口調で聞くと、白は首を横に振った。

「わからない」

「わからない?」

「自分の名前しかわからないの」

「え・・・・?」

記憶喪失・・・といったやつだろうか・・・?

この少女、白は自分の名前以外何もわからないということなのだろうか・・・。

「お兄ちゃんの名前は・・・?」

「俺は英輔。桧山英輔」

「英輔お兄ちゃん・・・・」

お兄ちゃんと呼ばれたからだろうか・・・?

白が一瞬、幼い頃の麗華と重なった。

不意に、白のことを放っておけない気分になった。

「白ちゃん、良かったらお兄ちゃんの家に来ないか?」

「え・・・?」

「行くあてもないんだろ?記憶が戻るまでくらいならお兄ちゃんの所にいていいよ」

そう言って英輔は穏やかに微笑んだ。

何故だろう。

この少女を放っておけない。

それはこの娘が幼い麗華と重なるからだろうか・・・?

丁度麗華もこのくらいの歳の頃はこんな風だった気がする。

「良いの・・・?」

白は恐る恐る英輔に尋ねる。

「勿論だよ」

「・・・・・お兄ちゃんっ!」

心細かったのだろうか?

白は突然英輔に抱きついた。

「うわ、ちょっと白ちゃん!?」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

余程嬉しかったのか、白は何度も「お兄ちゃん」を連呼している。

「リンカになんて説明しようか・・・・」

勢いで言ってしまったため、後のことをあまり考えていなかった。

「リンカ、機嫌悪かったしなぁ・・・」

嫌な予感を振り払い、英輔は抱きついている白をそっと下に降ろし、家の中へ一緒に入った。


To Be Continued

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