11ページ目「現われた妹。〜後編〜」
「おいリンカ、お前も手伝え」
麗華から電話があった翌日の早朝、英輔はそこら中に散らかっている本やゴミを急いで片付けている。
その姿はまるで年末の大掃除のようだった。
「何故私が手伝わなければならない・・・」
リンカは眠そうにあくびをしながらもソファーから立ち上がった。
「家の中片付けとかないとアイツがうるさいんだよ・・・・」
麗華は昼頃に到着すると言っていたが早く到着する可能性もある。
とにかく麗華が来る前に片付けておく必要があった。
一通り片付け終わると英輔は「ふぅ」と溜息をついた。
「後は台所かな・・・」
昨夜洗わなかった食器を洗わなければならない。
そんなことよりも英輔にとって一番の問題はリンカだった。
彼女をどう麗華に隠すか・・・。
押入れに入れる?
ダメだ、リンカが納得するハズがない。
家の外に出しておく?
最善の策のようにも見えるが前みたいに外で問題を起こされても困る。(2ページ目参照)
どうしたものか・・・
英輔は食器を洗いながらひたすら考えた。
リンカの機嫌を損なわず、外で問題も起きず、麗華に彼女の存在を隠す方法・・・・。
「そうだ!」
「ッ!?」
突然英輔が大声を出したため、今でくつろいでいたリンカが驚く。
「きゅ、急に大声を出すな馬鹿者!」
「隠さなきゃ良いんだよ!」
「・・・は?」
英輔が食器を洗い終わる頃には既に午前11時過ぎ、そろそろ麗華が到着する時間だった。
「リンカ、しばらく庭で隠れててくれないか?」
「何で私がそんなことを?」
「お前が一緒に住んでることが麗華にバレるのはまずいんだよ」
「何でだ?」
「・・・・・。とにかく色々まずいんだよ!」
もし英輔がこんな幼い容姿の少女と住んでいることが麗華にバレれば、麗華はかならず英輔が何か如何わしいことをしていると勘違いし、英輔の兄としての尊厳は失われる。
おまけに向こうの学校でネタにされること間違いなし。
なるべく避けたい事態である。
「で、麗華が来たのを確認したらタイミングを見計らってインターホンを鳴らせ。俺が出るから他人のフリして中に入るんだ」
「・・・。仕方ないな・・・」
「そろそろ麗華が来ると思うから庭に隠れててくれ」
「わかった・・・」
リンカは何かボソボソと呟きながら外に出て行った。
リンカが出たのを確認すると、英輔は「ふぅ」と溜息をついた。
「コーヒーでも淹れて一息つくかな・・・」
英輔が台所に向かおうとした時だった。
ガチャリとドアが開く。
「ただいまー」
中に入ってきたのはやはり麗華だった。
肩まで伸びた栗色の髪がよく似合う少女だった。
「お、お帰り・・・」
「ほー」
麗華が家の中を見回す。
「な、何だよ・・・?」
「キレイにしてるじゃん。もしかして今日片付けた?」
「な、そんなわけ・・・ない・・・だろ」
「嘘ですって顔に書いてある」
麗華はちょんと英輔の額を指でつついた。
「・・・」
英輔は呆気に取られたように麗華を見つめていた。
「なぁーにボーっとしてんの?コーヒーでも淹れてよ」
「それが久々に会った兄に対する態度かよ」
「それもそうだね」
そう言って麗華は笑った。
ピンポーン
インターホンが鳴り響く。
リンカだ。
「だ、誰だろ・・・」
英輔はぎこちなく玄関へ向かった。
「リンカ」
「英輔・・・どうすれば良いんだ?」
「とりあえず俺のことは苗字で呼んでくれ。埋め合わせはどっかでするからさ」
「・・・・。麻婆豆腐で許してやる」
「で、この人はお兄ちゃんのお友達?」
「あ、ああ。同じクラスの磯野だ」
「へぇー」
麗華は興味深そうにリンカを眺める。
「よ、よろしく」
「えっと、私は桧山麗華。この間抜けな兄の妹です。いつも兄がお世話になってます」
「間抜けは余計だろ」
「ホントのことじゃん」
そんな冗談を言い合っている2人を見てリンカは微笑んだ。
兄上は優しすぎる!だから、私が守る!
はは、妹に守られることになろうとは・・・
懐かしい記憶。
懐かしい言葉。
「兄妹・・・か」
「り・・・じゃない、磯野?」
「いや、なんでもない」
「そうだ麗華」
「何?」
「昼は食べたか?」
「あ、そう言えばまだ食べてないなぁ・・・」
「これから何か作るか」
「そうだね」
英輔が立ち上がると、続いて麗華も立ち上がる。
「り・・・磯野も食べるだろ?」
「・・・ああ」
その後3人で料理をし、3人で食べた。
何だかんだで英輔自身が一番嬉しそうにしていた。
リンカはそれを見て微笑ましくも、妬ましくも思った。
あんなことがなければ自分にも、こんな生活が出来たのだろうか・・・・
「今日はありがとねお兄ちゃん」
「何言ってんだ自分の家だろ?」
「それもそうだね」
「泊まってかないのか?」
「友達ん家泊まるつもりだから」
「そうか・・・」
「磯野さんもありがと」
「ん、ああ・・・」
「じゃあね」
そう言うと麗華は2人に背を向けて歩き始めた。
「あ、それと」
不意に麗華は振り返る。
「磯野さんと幸せにね、お兄ちゃん♪」
「んな・・・ッ!」
「お、お前・・・何を言っている・・・・!?」
「それじゃ、また電話するからねー」
そう言うと麗華は走って行った。
「まったく・・・」
英輔はそう言うと「ふぅ」と溜息をついた。
To Be Continued