1ページ目「現われた悪魔。」
こんにちは、シクルです。
この作品は「小説家になろう」での通算三作品目の作品になります。
前作の「美味なる純血」のような暗い雰囲気ではなく、明るい雰囲気の作品にしたいと思います。
それでは、「落ちていた魔導書。」をお楽しみ下さい。
桧山英輔は退屈していた。
高校に入学してからというもの、受験勉強に追われることもなく、ただ日々を怠惰に暮らしていた。
彼女いない歴=年齢な彼は恋愛とも無縁だった。
無縁・・・というよりはほとんどが片想いに終わっており、告白など一度もしたことがなかった。
中肉中背、何の変哲もない彼が自分の行動無しにモテるハズもなかった。
そんな超ヘタレな彼は今日もダラダラと過ごすのであった。
「桧山」
「ん?」
机でボーっとしている英輔に話しかけたのは中学からの友人、高島雄平であった。
坊主頭にキリリとした目。
本人は気づいていないが意外とモテる。
それがちょっぴり英輔にとって煩わしかったのは言うまでもない。
「学食行こうぜ」
「めんどくさい、購買で何かパン買って来てくれ。メロンパンで良いぞ」
「ばーか。何で俺がお前にパシられなきゃなんねーんだよ。行くぞ」
「へいへい」
雄平はダルそうな英輔の腕を引っ張り、無理やり席から立ち上がらせた。
食堂に行くと、沢山の生徒が食事をしていた。
「うわ、今日人多いな・・・」
めんどくさそうに呟く英輔。
「まあ良いじゃないか」
「にしても男子が多くないか?」
「・・・。まあな」
「何かあるのか?」
「実はな・・・」
雄平が英輔の耳元で囁く。
「何!?ホントか!?」
「ああ、本当だ。それはもうデカいのなんのって」
「ど、どどどどれくらいだ・・・・?」
「メロン・・・いや、スイカくらいだな」
「な、何だってー!?」
「百聞は一見にしかず。並ぶぞ」
「お、おう」
雄平の話はこうだった。
昨日から食堂で働いている女性の胸が異常にデカいと生徒の間で評判らしい。
それ故に、大勢の男子生徒が一目見ようと食堂に足を運んでいるらしい。
雄平もその1人だったと言うわけである。
見れば去っていく生徒は皆鼻の下を伸ばしている。
「た、高島・・・」
「な、何だ桧山・・・。もうすぐ俺達だぞ・・・」
「興奮してきたぁぁぁ・・・」
「う・・・うろたえるんじゃあないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ!」
そして雄平の前の生徒が去っていく・・・。
「キター!」
英輔と雄平の目の前に現れる巨大な2つのふくらみ・・・
正にそれは凶器だった。
全ての男を誘惑し、鼻の辺りを真っ赤に染める究極兵器がそこにあった。
「・・・。リリンが生み出した文化の極みだよ・・・(?)」
ドサリと、鼻を真っ赤に染めた英輔はその場に倒れた。
「桧山ァーッ!」
「ん・・・」
気が付けば保健室のベッドだった。
あの後気絶したらしい。
「お、気がついたか鼻血ブー太郎」
「妙なあだ名付けんな」
英輔は鼻に詰められたティッシュを抜いた。
「それにしてもお前、アレだな・・・。巨乳見て鼻血ブーとは・・・」
「うるせえ。あんなの初めて見た・・・」
ダラリと鼻から垂れる血。
「うおッ!」
即座にティッシュを取り、血を拭いた。
「我ながら情けないよ・・・」
「だな」
そう言って雄平は笑った。
「まあ休憩時間内に目が覚めて良かったよ。ホラ」
雄平はそう言って英輔にメロンパンを差し出した。
「お前の昼飯。元はと言えば俺が連れてったせいだからな。おごってやるよ」
「サンキュー高島」
「良いってことよ。んじゃ、俺教室戻ってるから、それ食ったら教室戻れよ」
「おう」
英輔は雄平との友情をしみじみと感じながらメロンパンを食べた。
「じゃあな、鼻血」
「うっせー」
放課後、学校を出るまでに何度言われたことか。
いつの間にやら「鼻血」というあだ名が付いてしまっていた。
無理もない、あの時食堂にはほとんどの男子生徒がいたのだから。
噂は流れ、ついには女子生徒にまで
「じゃあね、鼻血君」
と言われる始末だった。
「ハァ・・・」
英輔は深く溜息をついた。
英輔の帰りはいつも1人だった。
雄平は野球部の練習。
どのクラブにも所属していない英輔はいつも1人で帰るのだった。
「・・・・」
見慣れた道だったが1つだけいつもと違うことがあった。
「何だこりゃ・・・」
分厚い本が落ちている。
「デ○ノートか・・・・?」
緑の表紙によくわからない文字で何か書いてある。
「ナメック語・・・じゃないよな」
英輔は不思議に思いながらその本を鞄に入れた。
「ただいまー」
とは言うものの、家には誰もいない。
英輔は1人暮らしだった。
父は海外へ仕事。
母は全然帰って来ない父に愛想をつかして実家へ。
妹は寮制の中学へ進学していたため、自宅には帰って来ない。
無駄に広い家と無駄に余った部屋と英輔だけがこの家に取り残された。
母が実家に帰ったのはもう何年も前のことで、英輔が小学6年の時だった。
幼い妹と家に残され、あの時は酷く母を恨んだものだ。
今になってはどうでも良いことだが・・・。
父は年に1度帰って来るか来ないかで、去年はとうとう帰って来なかった。
電話もたまにしかしてこない。
妹、麗華だけは週に1度は電話をかけてくる。
英輔にとってそれが唯一の家族との交流だった。
「宿題でもして夕飯の準備するかな・・・」
座っていたソファーから立ち上がった時だった。
「・・・」
不意に拾った本が気になった。
「今日鼻血呼ばわりした奴の名前でも書くかな・・・」
そう言って英輔は本を開いた。
「うわ、何だこりゃ。どこの国の文字だよ・・・」
中には表紙同様意味不明な文字の羅列だった。
「こりゃデ○ノートじゃあなさそうだな」
英輔はパラパラとページをめくる。
当然のごとく意味がわからない。
「呪文とかあるかな・・・。ザ○ル見たいな」
笑いながらパラパラと本をめくる英輔。
「読めない・・・」
とうとう最後のページをめくった時だった。
ボォ・・・
「ッ!?」
不意に本が光り始める。
「マジかよッ!」
英輔は怯えて本を投げた。
壁にぶつかる本。
しかし光は消えない。
「何だ何だ何だ何だァァァ!?」
床に魔方陣が現れる。
カッ!
激しい光で辺りが一瞬真っ白になる。
「まぶし・・・」
しばらく何も見えなかった。
まるで閃光弾である。
「何だったんだぁ・・・?」
視界は戻ったが、魔方陣は消えていない。
「おい、お前」
「はい・・・?」
魔方陣の上に1人の少女がいた。
金色の長い髪、赤い眼、少し小さな背。
「よく私を召喚してくれた!」
「ハァ・・・?」
「私はリンカ!お前に災厄をもたらしに来たっ!」
今思えば、この時点で後戻り出来なかったのかもしれない・・・。
To Be Continued