ホッカイロどうぞ…
深夜1時…。
「着いたよー」
私、冬季は冬也にメールした。
待ち合わせ場所の本屋さんの前は、とっくに閉まっている。
「なんでだよ」
と返信が返ってきたけど、そんなことはおかまいなしに
「待ってるから来て」
と、それだけ打って、とりあえず、
「寒いな…」
と、近くの立ちそば屋に入ることにした。
深夜なのにお客さんが多いのは12月だからなのか、まあまあにぎわっていた。
かけそばをすすっていると、冬也から着信があった。
「今そっちに向かってるから、どこか店に入って待ってて。風邪ひくなよ」
「リョーカイ!」
私たちの間ではこんなことがしょっちゅうだった。
冬也はいつも来てくれる。絶対に。かなりムリなお願いでも、
しぶしぶでも、冬也はきいてくれる。
私はそんな冬也が大好きなのだ。
”店に入って待ってて”と言われたのだが、私はそば屋を出て、
町を歩くことにした。
人もまばらな商店街は、忘年会の帰りっぽい人たちが多かった。
「あ。座るところがある」
ほどなく歩くと、街路樹のそばにベンチが見えた。
「今ねー、ここだよ!」
と、私は冬也にメールした。
探すのがたいへんかなと思ったけど、
夜の町を歩くのは好きだった。
しんとした空気。今にも雪が降ってきそうなくらい寒い夜。
「そうだ!」
と私はい思いつき、コンビニに入って、ホッカイロと飲み物を買った。
もちろん冬也の分も。
「冬也は紅茶花伝かなあ…」
などと思いながら。
ホッカイロは寒い手をほんのりあたためてくれた。
そういえば、手袋をしてくるのを忘れたのだ。
「早くこないかなあ…」
ぼんやり空を見上げながら考えていると、
「探したぞ!!」
と、頭をこづかれた。
白いマウンテンバイクに乗って、冬也は現れた。
「なはは。ごめんごめん。はい、これ」
「で、用事ってなに」
見ると冬也も手袋をしていなかった。
「あのね、いや、そんな、たいしたことではないんだけど、
ミニ買ったから見せたくて…」
私はコートをちょっとひらりとさせて今日デパートで買ったばかりの
春物のレースが可愛いミニのワンピースを見せた。
「冬也ってミニ好きじゃん」
そういうと、冬也はちょっと照れたように
「似合ってる…」
と言ってくれた。
私たちはクスッと笑いあうと、
また夜の道を歩き出した。