第22話 UFOサークルに歴史サークル
「――というわけで昨日も、三島由紀夫の〝み〟の字もだせないまま、UFOサークルとか歴史サークルに誘われちゃったんです。すみません」
翌日。
久しぶりに深身事務所へきた私は、山川さんやカレンさんとの話を苦笑混じりに報告した。大股開きのジェファーソン・スクワットを教わったことや、胸を揉み合ったことなどはもちろん内緒にしてである。
手元ではカフェモカのカップが甘い香りを立ち昇らせている。いつぞやの約束を覚えていてくれた深身先生が、やはり私好みの美味しい一杯を淹れてくれたのだ。
我ながら図々しい話ではあるが、じつは今日からマイカップも事務所に置かせてもらうことにした。ちなみに「ますます親愛なるアシスタントらしくなってきましたねえ」「親愛はいりません」というお約束のやり取りがあったことは、言うまでもない。
「UFOサークルに、歴史サークルですか」
いつものように「いえいえ」と笑って返されるとばかり思っていたのに、先生はなぜか、自分のカップを持ったまま宙の一点を見つめている。
「でも二人とも、凄くいい人ですよ。山川さんは、フィットネスクラブはスポーツ共和国みたいな場所でなきゃいけないっていう信念みたいなものを持ってるし、カレンさんはダブルの自分でも問題なく暮らせる日本のことが本当に好きみたいですし」
「スポーツ共和国?」
「はい。珍しくって言ったら怒られますけど真面目な口調で、スポーツクラブは初心者にも等分に機会が与えられる場所でなきゃいけない、ってことを語ってくれました」
「なるほど。いい考えですね」
「はい!」
なんだか自分が褒められたような気になって、つい元気に返事をしてしまう。
「それでもえさんは、そのUFOサークルと歴史サークル、どちらかに参加されるおつもりですか?」
「え? まさか。あたしはべつにオカルト好きでも歴女でもないですし」
「そうなんですか?」
そうなんですか? って……。まさか深身先生は、どちらかに該当するとでも思っていたのだろうか。スクワットの胸が綺麗だのアキレス腱が素敵だの言いながら、一体私の何を見ているのだ、この人は。
「あ、でも調査のために参加しろっていうのなら、顔を出してみますけど」
「いや、そこまではしていただかなくて大丈夫ですよ」
「わかりました。じゃあ、あらためて『空飛ぶ円盤研究会』や『こざくら会』についても調査が必要になったら言ってくださいね」
「『空飛ぶ円盤研究会』に『こざくら会』?」
「はい。それぞれのサークル名です。あれ? 言いませんでしたっけ? ごめんなさい」
「ああ、いや。大丈夫です。何はともあれ、引き続きお気を付けて」
「ありがとうございます」
珍しく雇い主と助手らしいまともな会話が続いたが、これはこれで逆に落ち着かない。なんだかなあと思って先生の方をもう一度見ると、すでにお馴染みのにこにこ顔に戻って、美味しそうにカフェモカをすすっていた。




