新商品インタビュー~豊洲重工株式会社・本村技術本部長
――本日は、先日画期的な新製品を発表して脚光を浴びている豊洲重工株式会社の本村技術本部長にお越しいただいております。よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
――早速ですが、先日発表された、その名も『ミュー9型ロケット』、世界中で注目されていますね、ここまで注目されると思っていましたか。
まさかここまで取り上げられるとは思いませんでした。弊社の理念といたしましては、科学技術の発展というものはどちらかといえば縁の下の力持ち、むしろ脚光を浴びないほうがよろしい、というくらいの信念で作っておりますものですから。発表直後からいろいろなメディアで取り上げていただいて、いやあ、若者のファッション誌の取材まで受けたときには驚きました。
――それだけインパクトのある商品ということです。今までに無い斬新なフォルム、他を圧倒するスペック、まさに世界中が注目しています。
そう言っていただけるとありがたい限りです。ぜひとも、弊社の製品を有効にご利用いただければと思っております。
――さて、この商品の企画は、どのように思いつかれたのでしょうか。やはりこれだけ画期的な商品ですから、社内コンペや社内ベンチャーなどをご利用なのでしょうか。
特に変わったことはしていません。ただ堅実に、これまで我々が培ってきた技術を、愚直に積み上げてきただけです。我々はこれまで、様々な工業要素技術を開発してきましたし、それをインテグレーションすることにも相当な自信がありました。過去の製品は確かに国策の宇宙開発に資するという面で数多くの制約があったことは事実で、もしこれまでと違った取り組みがあったとすれば、この製品に関してだけは、我々に作れるものを作ってみようと、我々ならこう作る、と、そういうものを世界にアピールしていこうと。そういう話はありましたね。
――世界に。さすがにスケールが大きいですね。となると、販路の開拓なども平行して進めていらっしゃる。
たぶんそうじゃないかとは思いますが、なにぶん私は技術側の人間でして、営業部門がどのように売り込みをしていくのか、というのはあまりタッチしていないんです。しかし、私が聞く限りでは、ともかく相手は世界だ、と。事実上、国内にはもう競合はいないわけですから。
――国内はすでに圧勝であると。さすがの自信ですね。国内での販売台数の見込みなどはあるんでしょうか。
どうでしょう、生産できる数量にも限りがありますから、国内外の配分次第となるでしょうが、少なくとも国内シェアはトップになるでしょうね。
――シェアトップですか。この一年で。
一年はかからないんじゃないですかね。何しろ、この製品は画期的ですから。
――確かにそうかもしれません。この価格とこのスペックですと、思わぬ買い手もつくでしょうね。
そのとおりです。実のところ、ちょっと冒険的な試算ではあるんですが、少しだけ生活に余裕のある個人の方々にもお買い求めいただけるんじゃないか、なんてことも考えているんです。もちろん営業的な判断がどうなるかは分かりませんからこれは私の個人的な考えですが、もしそうなったら面白いと思いませんか。
――いえいえ、必ずそうなりますよ。とすると、今のところメインの販路は、企業や官公庁を。
やはり官公庁がメインでしょうね。何より安全性と始動成功率が重要な市場です。従来の製品をしのぐ安全性を実現しましたから、仮に人が乗ったとしても安全性にはなんら問題がありません。ローンチには当然我々技術部門も立ち会います。
――官公庁需要でのローンチをとても重要視されているということが分かりました。それでは具体的な商品の内容をお伺いしたいと思います。まず、基本的なコンセプトは何でしょう。
やはり常識を打ち破る、ということでしょうか。今までに着実に積み重ねてきたものをベースにしながらも、要らない部分は大胆に削る、ある技術者の発案ではあるんですが、やはりこの部分にはいろいろな意見がありましたね。それでも、結果としていい形になったと思います。
――そうですね。今までにこの形というのは無かったと思います。それこそ、SFの世界でこんな形が描かれることはあったと思いますが、やはり意識しましたか。
多少は意識しましたね。もともとロケットって未来的な形じゃないですか。子供が夢見る未来のイメージは、やっぱり”宇宙ロケット”からあまり変わってない。その形を大切にしながら、それでも実用性を失わないフォルムに纏め上げる。技術者だけじゃなくデザイナーの方にも感謝したいです。
――特に有名デザイナーを使ったというわけでは無いと以前に伺いましたが。
そうですね、社内の技術デザイナーがやっています。有名デザイナーを使ってもいいのかもしれませんが、やはり、本当の美しさは機能美です。機能と性能を発揮するための最小限で最高効率の形こそが一番美しい、私どもはそう考えております。
――まさに技術者集団というわけですね。ではその機能美が実現している機能についてうかがっていきたいと思います。ずばり、この商品の最大の売りとなる機能は、何でしょう。
それは、今まで必要だと思っていたものを大胆に省いた、というところでしょうか。
――省いた。
そうですね。たとえば、ロケットといえば姿勢制御用のフィン……つまり小さな羽根ですが、これがついているものです。これを大胆に省きました。
――なるほど、言われて見れば、羽根がありません。それでもやはりロケットらしい外観に見えるものですね。
もちろんです。それから、ノズルも省きました。
――ノズルを……と言うと、それは、とても重要なことなのでしょうか、門外漢の私には分からないのですが。
とても大切です。ロケットエンジンのノズル、あの、お椀をひっくり返したような形のものですね、あれは、燃焼室からの噴流を超音速まで加速するのに必須のものなんです。噴流というものは、普通は流路を絞れば絞るほどその速度を上げます。しかし、それは音速まで。音速を超えると、今度は逆に、噴流を拡散してやる必要がある。流路を徐々に拡大することで、音速を超えて超音速の流れを作ることができるんです。つまり、お椀のように先の広がったノズルは、そのエンジンが超音速噴流を出力できることを示す唯一の証拠。大きなノズルは、大推力超音速ロケットエンジンの象徴とも言えるものなんですね。
――なるほど、難しいお話ですが、ノズルがあるということが、それが宇宙ロケットであることを意味する、と言うことなんですね。
そうです。宇宙へ飛ぶには、超音速ロケットエンジンは必須ですから。そして、我々としては、フィンやノズルを省略するのに大前提となる、きわめて大胆な”省く決断”がありましたね。
――それは。
もう一言で言ってしまうとですね、飛ばなくていいんじゃないかと。
――飛ばなくて……え? 飛ぶ?
ロケットは飛ぶものだ、という既成概念をぶち壊す。実は、この決断が一番大変でした。しかし、飛ばなくていい、と決めてしまうと、そこからはとんとん拍子です。ずっと地上にいるのなら姿勢制御はフィンに頼らず別の方法が取れます。じゃあ、機体の全幅を広げてしまうフィンはいらないだろう、と。もちろん、高空に飛び上がる必要も無いですから、超音速エンジンなんて要らない。ノズルも要らないし、エンジンそのものもいらない。取っ払ってしまえ、と。エンジンを取り払ってしまうと動力がありません。そのとき、比較的安い値段で手に入るレシプロエンジンに目をつけたのは、技術者のファインプレーでしたね。海外製でしたが、五百キロワットクラスの小さなエンジンであればお手ごろな価格で手に入る。サイズも小さい。じゃあ、これを積もう、と。ロケットエンジンだけでなく推進剤、酸化剤のタンクも不要になっていましたから、エンジンを載せ替えてもサイズははるかに小さくなりました。では、レシプロエンジンの出力をどのように動力に変えるか。これも、技術者がクランク機構と変速機構を見つけてきたのはお手柄です。それを長い軸で導き、その先に車輪をつけました。そこまで設計が煮詰まってきたところで、姿勢制御の問題も解決できることに気がつきました。動力のつながっていない車輪を設けて、それを別の操作機構で左右に動くようにすればいいのです。そうすることで、車輪と地面の摩擦により機体全体を自在に制御することができます。挙動を不安定にしないために、車輪と機体の間にスプリングとダンパーによる安定化装置も組み込みました。こうした制御装置はもちろんマイコンによる自動制御ですが、操作機構を人の手で直接操作してもいいかもしれない、という遊び心もありましてね、有人飛行に備えたコックピットも備えた、というわけです。まさに画期的なロケットと言えるでしょう。
――……あの、失礼ですが、この新商品は……ロケット……なのでしょうか。
はい、もちろんそうですよ。商品名に『ミュー9型ロケット』と表記してあるとおりです。
――あ、そうだったのですね。いや、面白い名前の新型車だと思っていたのですが。
新型車? どういうことでしょう、ちょっと意味が分かりませんが。
――いえいえ、お気になさらず。実にすばらしいロケットだと思います。新型車……もとい、新型ロケットの性能の試金石となるドイツのNサーキットでもすばらしいタイムを出して世界中のカーマニア……ロケットマニアをうならせました。この性能とフォルムで二千万円は、十分な低価格と言えますね。
ええ、価格については、従来の百分の一にまで圧縮ですから、弊社としても相当に自信を持っております。
――はい、はい、すばらしいくる……ロケットだと思います。最後に、読者の皆様にお伝えすることはございますか。
ぜひとも、我が社の新型ロケットを、各国の方々にはお試しいただきたいところです。出力はだいぶ見劣りするかもしれませんが、コストパフォーマンスには自信がありますし、有人飛行にも耐えうる信頼性にも自信があります。ぜひ、次世代のロケットには、弊社の『ミュー9型ロケット』を採用いただけますようお願いいたします。
――ありがとうございます。以上、『スーパースポーツカーマガジン』の服部記者がインタビューをお送りいたしました。ありがとうございました。