祭りの終わり
文化祭が終わろうとしている。丁度今校庭では後夜祭のフォークダンスが行われていた。キャンプファイヤーの周りを生徒たちが楽しそうに踊っている。
そんな光景を俺は一人屋上から見ていた。
別に踊る人がいない悲しいやつだからこうしているわけではない。自慢ではないが1日に3回告白されるぐらいにはモテモテだ。……今すぐ爆発したい。
問題はその告白にあった。鬼無里先輩がステージ上でぶちまけたせいで、大変なことになってしまった。瞬く間に『遠江 蓮水』が誰か特定され顔写真とともに拡散。そしていつのまにかてっちゃんとアリーからも告白されていたというのもバレてしまい男子+鬼無里先輩ファンクラブの敵となった。
妬み怨みをを持った多くの奴らに襲撃を受け、文化祭の残りを逃げ回る結果となってしまったわけだ。
まあ時間も経てばだんだんと追いかけてくる人たちも減り、今はああして大半の人たちがキャンプファイヤーを楽しんでいるわけだが。まあ一部生徒は未だに目をギラつかせているためこうして屋上に隠れているわけだ。
ただ一連のゴタゴタのせいでまだ伝えたいことを伝えられてないんだよ。勇気が出せずに呼び出すのを後回しにしてたら、スマホの充電きれたし。
あーお茶がうめー。屋上から見えるキャンプファイヤーきれー。
ガチャりと屋上のドアが開いた。
先生又は狩人たちがきたのかと身構える。
「こんな所に居たんだ」
現れたのは花凛さんだった。今日一日会わなかっただけなのに、随分と久しぶりな感じがした。今日一日が濃いすぎたのかはたまた別の理由か。
屋上の柵に身体をあずけていた俺の横に花凛さんが並ぶ。
「下に行かないの?」
笑いを含んだ声音で訪ねてきた。肩をすくめてこたえる。行ったらどうなるかわかってるくせに。
「楽しかったね。文化祭」
「それはもう」
執事喫茶はきつかったし、今日みたいな激動の1日を過ごすとは思っていなかったが、楽しかった。文化祭通しての感想はそれにつきる。
高校でまさかこんなにはっちゃけってしまえるとは、中3のときには考えられなかったことだ。
文化祭を思い出し、思わず笑いが溢れる。花凛さんも笑っていた。気づけば二人で笑いあっていた。
「花凛さん……伝えたいことがあるんだ」
そんな言葉が俺の口からこぼれた。
「うん、なに?」
花凛さんは優しげな笑みを浮かべている。その表情が俺の決意をひと押しする。色々考えたことが無駄になる。そんな勢いだけの告白だ。
でも緊張はしてなかった。自分の言葉で喋れそうだった。
「俺は……」
バーン!
大きな音がした。俺の言葉を遮るようにして鳴った音。発生源は屋上のドア。
「やっほー。来ちゃった」
てへぺろ。そう言って告白を邪魔してきたのは、冬香だった。 いや、お前他校の生徒はだろ。この時間に敷地に入ってくるなよ。 冬香はニコニコしながらこちらに近づいてきた。すごい近づいてきた。
「お前何し……」
「はい、挨拶のちゅー」
「いや!ちょっと待てい!」
俺が言い終わる前に、襟を掴んで引っ張られた咄嗟に手でインターセプト。
むにぃと花凛さんの手に冬香の唇が当たる。花凛さんも神速で冬香の前に手を出していた。花凛さんの手を俺の手で支え、冬香の唇を花凛さん手で抑える形になった。
「ぺっぺっ。何するの〜」
「「こっちの台詞だ(です)!」」
「だから言ってるじゃん挨拶のキ・ス。外国じゃ普通だよ?」
ここは外国でもないし、思いっきり口にしようとしてたじゃん!
「仕方ないじゃん。身体が勝手に動いちゃったんだから」
「は?」
「だって蓮水今告白しようとしてたでしょ」
なんでそういうこと言うん?否定も肯定もしずらいのですが。何?告白の現場邪魔されて告白しようとしてた?て聞かれるこの状況。
冬香は纏う空気を一変させてうつむきながらポツリと言った。
「最初はね。私がこれを邪魔する資格なんてないと思ったよ。好きな人には幸せになってほしいし、引き返そうとしたんだけど……気づいたらドアを思いっきり開けてた」
「……」
俺が無言なのは悪くないと思います。花凛さんも困ったような表情でこちらを見ている。
何故プチ修羅場チックなのだろうか?
しばしの静寂が三人の間で流れた。なんだか校庭の音も遠くに聞こえる。
バーン!
「今度は何だ!?」
再びの騒音。発生源はやはりドア。立っていたのは……
「霞?」
俺の妹の霞だった。
何故ここに?本当に他校の人は来ちゃダメなんだよ。多分怒られるの俺なんだけど。
「間に合いましたか?」
ここまで走ってきたのか。息を切らしてる。
「間に合ったって何に?」
「兄さんの告白です」
「グフっ」
俺は膝から崩れ落ちた。何故知人たちに周知の事実になってしまっているのか。消えてしまいたいぐらい恥ずかしい。
「その様子を見るとまだのようですね」
「だったら何だよ」
胸を撫で下ろす霞。膝に喝を入れて何とか立つ。
「兄さん一つはっきりとさせておきましょう」
「……何だよ」
「私は兄さんが好きです」
…………………………………………………………………………………………は?
「異性として好きです。愛してます。兄さんと付き合ってあんなとやこんなことをしたいぐらい好きです。そんなことをいつも妄想しています。ちなみに私のファーストキスは兄さんです。兄さんが寝ている間に済ませました。最高でした。もう病みつきでした。兄さんの何もかもが好きです。目も鼻も耳も口も手も足も髪も匂いも喋り方も鼓動も全てが愛おしい。もはや私は兄さんなしでは生きていられない身体になってしまいました。私の全ては兄さんでできていると言っても過言ではありません。どうしてくれるんですか?こんな身体にした責任を取るべきじゃないんですか?私が兄さんのものであるように、兄さんは私のものなんですよ?さぁ、兄さん」
私を選んでください。そう言った霞の目に光は灯ってなかった。
おそらく俺の目も死んでいる。すでにキャパシティオーバーだった。まさか霞がこんな超絶ブラコンだとは思っていなかった。
あまりに迫力に花凛さんも冬香も飲み込まれていた。いや、冬香もこの前までこんな感じだったけどね。何で常識枠に入ろうとしてんのよ。
「すまん。霞、俺はお前のことを妹としか見たことないし、見れないよ。だからお前は選べない」
「……私を異性と見れないということですか?」
「そうだ」
「……そうですか。では、じっくりとその身体に教えてあげます。私を異性と見れるまで」
「はい?」
何処か妖艶な雰囲気を出しながらそんなことをのたまった。
その気に当てられてか、花凛さんと冬香も臨戦態勢。オーラが迸っている。
バーン!
「おおーす。蓮水こんな所にいたのか?」
実篤さん!お主は神か!
三人のオーラに気づかず、能天気にこちらへ向かってくる。
「ん?何で霞ちゃんと……冬香がいるんだ?他校生はこの時間校内侵入禁止だぞ」
「「チッ」」
「怖っ。何?ああ、そっか遂に蓮水が告白して付き合うことになったから機嫌が悪いのか」
実篤さん!お主は馬鹿か?
俺は再び膝から崩れ落ち、今度は頭までも地面へ。屋上が冷たくて気持ちいいなぁ。
「えっちょっ!どうした蓮水!そして三人とも何だその鉄パイプは!どこから出したんだ!……何で?そんな大きく振りかぶってるの?」
合掌。
もうダメだ。これ以上状況が悪化する前に、さらなるカオスに陥る前に決めてしまおう。最初からこうすればよかったんだ。誤解がないようにはっきりと俺の気持ちを伝えるだけの簡単なお仕事だ。
全身に力を入れ立ち上がる。そして花凛さんをしっかりと見つめた。
俺は……
バーン!
「お兄ちゃんそろそろ告白終わったー?」
「あああああああ!もうーーーーーーー!」
限界だった。こんな所にいつまでもいられるか。俺は帰らせてもらうぞ。
俺は花凛さんの手を取ると駆け出した。何か言ってる二人の手をすり抜け。倒れてる物体を飛び越え、ニヤニヤしてる三人の脇を通り抜け校舎の中へ。
何処へ向かうかは決めていない。ただ走り出した。
階段を駆け下りる。
誰もいない校舎の中を二人で走った。
職員室の前を通らない理性を発揮して遠回りしながら昇降口の方へ。
三年のフロアを抜け、二年のフロアを抜け一年生のフロアへ到達する。
自分の教室の横をかけ抜ける。
誰かが声をかけてきた。気のせいだ。
最後の角を曲がり階段へ。
これを降りてすぐに昇降口だ。
「あっ」
「えっ」
花凛さんが足を踏み外した。
当たり前だ引っ張られながら走ってきたのだ。むしろ今までよくついてこれたぐらいだろう。
花凛さんの身体が浮く、俺の方へ向かって
ぐいっと更に引いて抱き寄せる。
花凛さんを抱きしめながら俺は階段から転げ落ちた。
決して怪我をさせないように。これで怪我をさせたら最悪だ。
踊り場が近かったのが幸いした。
大した衝撃もなく丁度花凛さの下敷きになるように踊り場に倒れる。
花凛さんの顔が目の前にあった。ほんの数センチ。
ああ、これなら伝えられる。やっと伝えられる。
思えば花凛さんと出会ったのもここだった。
花凛さんの真っ赤な頰に触れる。熱い。
多分俺も。
謝罪。不安。感謝。好意。愛。
あふれ出る想いを一つの言葉に包み込んだ。
「大好きです」
これで完結となります。
投稿ペースが安定しなかったり、長期間空いたりして本当に申し訳ございませんでした。
この何もかもが拙い物語を見てくれた方々、またブックマークやポイント評価をしてくれた方々には感謝の念しかありません。本当に本当にありがとうございました!




