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誰もかれもが祭りの熱に当てられて

ざわざわとした廊下をてっちゃんと二人で歩く。流石、高校の文化祭。人が多いこと多いこと。そりゃざわざわするよ。うんうん決して俺の横を猫耳メイド(肉球・しっぽ付き)が歩いてるせいではないよな。どうでもいいが、尻尾よりしっぽの方が可愛いくない?


学園祭という非日常の中でもさらに異常な空間を作り出す猫耳メイド。正直着る人の気がしれないと思っていたし、そこまでいいものかとも思っていた。


ごめんなさい。舐めてました。


それもそうだ。一ジャンルとして我らの界隈で確固たる地位を築いてきたのだ。最高なのは先人たちが証明している。


チラリと横を見る。手をぶんぶんと振りながら、嬉しそうに歩いている。うん、肉球手袋よりは素肌の方が嬉しかったなぁ〜。


思考がおかしくなってきたので助けて欲しいです。


「で、何する?」


「チッチッチ」


気を取り直すように問いかけてみたら、絶対メイドがしないようなムカつく顔を返された。人差し指を立てているようだけど肉球手袋のせいで他の指がちょっとしか曲がってないからよくわからん。かわいい。


「女の子とのデートなんだよ。だったらやることは一つ」


 アリーとやったみたいに屋台巡りかな。今度は甘いものとか食べます?女の子は好きでしょ甘いもの。さっきわたあめとかあったよ七色のやつ。原宿かと思ったわ。言ったことないけど原宿。


 「そうデートといえば!」


ゴクリと息を飲む。カッと目を見開いて言った。


「チキチキどっちが強いの?アトラクション巡り対決ぅぅ〜!」


 イエーー!


絶対違う。世の中のカップルがそんなことしてると思えん。デートなのに対決って言っとる。いやデータのデートが殆ど無いから知らないんですけど。ん?デートのデータか?というかチキチキってなんだ。


「まずはあれ!」


 てっちゃんが指をさしたのはストラックアウト。ふっ!しょうがない。ついに俺の実力を見せるときがきたようだな。勝負ごとにおいて手加減をすると思ったら大間違いだからな。




 ***


 


「くちほどにもない……」


 またつまらぬものを斬ってしまったと言いたげな雰囲気をかもしだしながら立つ。全戦全勝をやってのけたその者の名は……てっちゃん。


 勝負一覧

 ・ストラックアウト ・キックターゲット ・射的 ・輪投げ ・脱出ゲーム ・型抜き ・クイズ大会 ・大食い大会 ・スタンプラリー ・くじ引き ・勝ち抜きじゃんけん大会 ・お化け屋敷(ビビったら負け) ・VS風 ・SASUGA 


 いや、よくやったよ。ものの数時間でここまで回らさせられるとは。もちろん各アトラクションで猫耳メイドが降臨したことにより騒ぎがおこったのは言うまでもない。通ったあとには草の根一本残らないレベル。一番良い景品をすべててっちゃんがかっさらって言ったのであながち間違いではない。


 「ふぅ」

 

 その大量の景品を置きに一回部室まで来ていた。近くの教室も使用していないので人もおらず文化祭だというのに静かな空間だ。


 「お兄ちゃん。ありがとう」


 「景品運ぶぐらい気にするな。デート中に荷物持ちになるのは男子の宿命だしな」


 あと負けたし。全敗したし。そりゃ荷物ぐらいもつよ。荷物も持たせてくれなかったら泣くレベル。


 「それもだけど。私をあの村から連れ出してくれてさ」


てっちゃんが唐突に言った。いや、唐突ではないのか。予想できたことか。今日の目的を考えるとこのシュチュエーションもてっちゃんが望んでいたものっぽいな。


 「……いや、連れ出してなくない」


 気づいたら家にいたよね。


 「もう細かいなぁ~」


 くるんと回りながら俺の前の机に座る。スカートのひらひらが目に毒だ。


 「前にも説明したでしょ。お兄ちゃんの想いが私を呼んだんだよ。お兄ちゃんの方があの村の人たちより私をもとめてくれたからここにいれるの…………まあ私が願ったのもたぶんあるけど。ともかく!お兄ちゃんのおかげであの村ではできないことができた。今日みたいに色んな遊びをもできた。こんなかわいい服も着れた」


 こう真っすぐに感謝されては悪い気はしない。ちょっと照れ臭くなる。


てっちゃんは優しく微笑みながらさらに言った。


 「それに好きな人と過ごすのがこんなに幸せだと知った」


 「……不意打ち過ぎるだろ」


「不意打ちの方が良いとこに当たるかと思って」


割と良いとこに当たったよ。てっちゃんの攻めはまだ続いた。


 「特別な事なんてなにもない、普通の日常を一日過ごすだけで好きな人をもっと好きになるの。何の気なしにした行動のやさしさがずっと心に残る。笑顔を向けてくれる、あなたが笑顔でいる場所に私がいる。それだけでとても満ちたりた気持ちになる。あなたが口にした言葉一つ一つにこっちは意識しちゃう。余裕なふりをしてその実他の人にあなたがデレデレしてるのに嫉妬したり、ダメなところまで愛おしく思えたりする。そんなたくさんの感情をあなたは私にプレゼントしてくれた」


 てっちゃんの両手が俺の頬を包み、熱をはらんだ瞳が真正面からのぞき込んでくる。


「もう一度言うね。ううん、何回でも言うね。好き。蓮水が好き。私といつまで一緒にいて」


てっちゃんのように心を読む能力など無いけれど、想いが伝わってくる。本気が伝わってくる。


いや、多分てっちゃんはいつだって本気だった。俺が本気で受け取ろうとしなかっただけなのだ。めんどくさいことを考えてそれで心を武装して丸まっていた。でも今はそんなものは取っ払ってしまった。だからてっちゃんの思いの熱量を感じられる。


てっちゃん本気の思いを受けて、俺はどうしたいのか。


てっちゃんのことを俺は好きなのか?


こうまでされて頭に思い浮かんだのは別の人の顔だった。


「ごめん」


てっちゃんがその可愛い顔を近づけてくる。


「どうして?」


その目をそらすことなく俺は言った。


「俺好きな人がいるんだ」


「……やっぱり」


てっちゃんは俺の顔から手を離すと、にゃーと机の上に万歳しながら寝転ぶ。




一拍




「ああああああああ、振られた。振られたー!2回目なのに前よりつらーい!悔しい!どこでどうすれば蓮水を落とせたんだろう!あいつめ上手くやりよったな!」


駄々をこねるように机の上をゴロゴロと転がり回る。


「うーん、私の方が絶対いい女なのになぁ〜蓮水は損したよ!こんな尽くしてくれる人もういないよ!」


本当にそうだ。二人をフルなんて烏滸がましいと思うほど俺にはもったいないぐらいの良い女性だ。いつからこんなに偉くなったのか。本当に爆発しろって感じだ。


「はい!」


てっちゃんが俺にメモを渡してくる。


「今度は此処へ行って!次の人が待ってるから!ほら早く行った行った!」


「わかった。行ってくる」


多分てっちゃんを一人にした方がいいだろう。俺は教室のドアを開け外に出る。


「蓮水!」


てっちゃんが俺の名を呼ぶ。そして舌をべって出した後言った。


「大好き!」





 



  


 


 



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