祭りは転がるように進んでいく
「「ごちそうさまでした」」
満腹。うん、アリー少食なんだね。結構食べたよ。二人分をほぼ一人で食べたよ。
「次はどうします?」
「……ううん」
アリーは残念そうに首を横に振った。
「……わたしの時間はこれで終わり……次は違う人の番」
「はい?」
俺の意見は無視ですか?
……ん?確かあれは文化祭の出し物を決めていた時。
忘れてた。この文化祭二日間は俺の意見は無視でした。確か裁判の判決で拘束されたんだった。あの裁判に未だに納得できてないけどね!
「……ハスミが……決めちゃったみたいだから。最後にみんなで……アピールしとこうって」
色々アリーがボカして言ってくれたけれども。自分の気持ちが筒抜けなのがとんでもなく恥ずかしいです。よく見たらアリーの耳も赤い。そっちも恥ずかしいんかい。ノーガードの殴り合いがご所望とは。
「……おほん」
なにそれ可愛い。アリーがわざとらしく咳払いをして一旦気持ちを整えている。
「……ハスミは婚約者を捨てるの?」
「がはぁ!」
容赦ない攻撃。蓮水吐血(イチゴ味)。俺のせいじゃないのに、切り捨てづらいことを持ち出してくるとはやるな。
「それは……なんといいますかぁ……全部秘書がやったっと言いますかぁ」
しどろもどろになりながら、不正が発覚した髪の薄い社長さんのようなことを言い始めてしまった。
そんな俺を見てアリーはクスクスと笑う。え?笑ってるよね。嗤ってないよね?
「……いいの……ハスミのお父さんが……婚約者なんて言ったのは……わたしに繋がりをくれたんだって……形からでもいいから……わたしを家族の一員にしてくれようとしたんだってことは」
「……俺もそう思います」
両者の合意を得ずにそんな事をあの親父だってやるとは思えなかった。
「わたしは婚約者なんて縛りなくても……実力でハスミを手に入れてみせるから……」
アリーは手をそっと俺の頰に当てた。
「……好き…………大好き……わたしの本当の婚約者になって」
その柔らかな瞳で溶かされてしまいそうで。涙が思わず溢れそうになる。でもここで俺が泣くのは違うから我慢して言葉を紡ぐ。
「……ごめん。俺、好きな人がいるんだ」
「……知ってた」
「だからアリーの婚約者にはなれない」
「……知ってた」
アリーの手が力なく滑り落ちる。俯いしまったアリーに俺はどんな言葉をかければ良いのだろうか。
「ーーーー。」
「え?」
アリーがなにかを呟く。少し腰を曲げてアリーの言葉を拾おうとする。
「……覚悟してね」
ゾクッときた。
「……わたし知ってるもん…… 高校生のカップルなんてどうせ別れること」
ア、アリーさん!なんてことを言うんだ!事実ではあるけど。事実ではあるけど!
でもアリーはそんなことを言うキャラじゃないでしょうに。ゆるふわ儚げ吸血鬼は何処へ?
「……もしずっと付き合うことになっても……ハスミはわたしの誘惑に耐えられるかな?……パートナーがどんどん老けていっても……吸血鬼であるわたしはピチピチのまま……」
「そ、そんなの耐えれるに決まってる!」
「……まあ……今はそう言えるよね」
いやいや誰?怖いよ。これが吸血鬼の血筋何ですか。ハイライト消えてませんか。
豹変ぶりに思わずガクブルしてるとふっと空気が軽くなる。
「……冗談……振られたら……こうしろって」
こんなふざけた事を提案する犯人はきっとあいつ。
「……これでわたしの時間は終わり……次の人の所へ行ってあげて」
と言っても次の人なんて知らないんだが。そこへタイミングよくスマホに指示が書かれたメールが届く。
タイミングが良すぎて見張られているんじゃないかと思ったけど、アリーがきっと連絡したのだろうと自分に言い聞かせる。アリーが携帯をいじる所は見てないけど。
「じゃあ、指定の場所に向かいますか」
「……ハスミ」
「ん?」
「……いつでもわたしに靡いていいからね」
これからはアリー(小悪魔形態)とも戦っていかないといけないのか。誰だよ!誑かしたのは!
「ハスミ」
歩き出した俺に再度話しかけてくる。どんな攻撃で俺を撃ち抜いてくるかわからないので、最大限の警戒をする。
「大好き」
***
「あっ!お兄ちゃん!こっちこっち〜」
「おお!」
アハハウフフとてっちゃんの方へと笑顔で向かい、サラサラの髪ににポンと手を置く。ナデナデ。
「えっ?なになに?くすぐったい」
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデデデデデデデデデデデデデデデデデ!
「撫ですぎ!?熱いよ」
やだなぁ。撫でてるだけでそんな大袈裟な。はっはー。貴様だな。 アリーに変な事を教えたのは。
撫でる手を止める。
「次はてっちゃんか」
「うん」
アリーの件でこれがどういう目的で行われているか知っているが故に、少しばかり微妙な空気が流れる。
いや、てっちゃんからは元々告白もされていたことを考えればどうってことはないか。変わんない。変わんない。いつもの日々と変わらない。
そんな訳がない。
よーく考えてみれば告白をしてそれを断ったという関係性ではあるけれども、てっちゃんはいつもはそんな事を気にしていないように振舞っている。
だが、今日は……てっちゃんが気合十分なんですよ。
なんてたって制服じゃないもん。コスプレだもん。メイドだもん。猫耳だもん。お前も借りたんかーい。
「……一緒に回ろう?」
てっちゃんが手をぎゅっと握った。
……この格好で学校を回るのはきついんじゃなかろうか。
 
 
 
 




