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お祭りはこうして始まる

「いらっしゃいませ、お嬢様」


燕尾服を着こなした実篤フロアを華麗に回っていた。もちろんその場でぐるぐるしているのではなく、机から机を飲み物をや軽食を運び、注文を取り、空いた皿を下げる。八面六臂の活躍。女性客は誰もが目で追っている。


 「こちらミルクティーになります」


 こちらも見事に燕尾服を着こなすのは鬼無里先輩。優雅に嫋やかに動き回る。その動作に男女問わずとらわれている。背筋がピンと伸びたその男装は美しくも格好いい。


 「いっらさいせーいっらさいせー」


 一人だけ居酒屋のような挨拶は俺。接客がいやだからわざと適当にやっているのではない。鬼無里姉弟を目当てに来た客により鬼のような忙しさで自分の行動をかえりみる暇などないのだ。二人のような所作の美しさなどはなく、ひたすらに必死に与えられた仕事をこなしていく。致命的なミスを起こしてないだけ褒めてほしい。


 今日は文化祭二日目。生徒だけでなく一般のお客さんも来る。一日目は校内祭。出店やアトラクションなどはなく、午前中に吹奏楽部や合唱部、軽音楽部によるステージを全校生徒で鑑賞する。そして午後には体育祭。ちなみに俺は騎馬戦の騎馬役のみの出演でした。


 そして二日目。執事喫茶のスタート。学校に申請して簡易コンロ等の調理器具を借りた教室に置いて厨房組とフロア組に分かれる。


厨房組 英 花凛・遠江 天・アリーウィーク

フロア組 鬼無里 魅麗・鬼無里 実篤・遠江 蓮水


本当は各二人ずつで回し休憩を作るはずだったのだが忙しくなりすぎてできなくなった。


それもこれも「ちょっと宣伝してくる」と言って看板(お手製)を持って出ていった先輩が女子も男子も引き連れて帰ってきたからだ。ハーメルンの笛吹き男かと思った。


からのSNSの力。美男?美女で有名な鬼無里姉弟が執事の服で接客してくれるお店にお客さんが来ないはずがない。瞬く間に噂は広まり、大忙しだ。


喫茶店であるので軽食と飲み物ぐらいしか出ないせいか回転が早い早い。「もうちょっとゆっくりしていってもいいんですよ?」と試しに言ってみたら「いえ、これ以上いると私何をしでかすか分からないので」と固辞されました。


たしかに出て行くお客さんツヤツヤしてるか目が血走ってるかの二通りしかいないなとか思ったり。


そうして無理矢理とった休憩時間にも学校回る体力など残ってなく、休憩時間が文字通り休憩だけで終わってしまった。


鬼無里姉弟もそんな感じ。厨房組は疲れてなさそうだったけど一人で回るのはつまらないからと残っていた。やだ友達少なすぎ。


そうして二日分を想定していた材料を一日で使い切り、一日における過去最高の売り上げを叩き出した。


三人の執事は抜け殻となったが。



***


文化祭三日目。昨日に引き続き外部の人も参加できる。ただ終了時間が早められており、最後には生徒参加のみのフォークダンスが行われる。もちろん自由参加。校庭に大きなキャンプファイヤーが作られるらしい。キャンプじゃないけど。組み木が作られるらしい。


今日は自由行動。俺らの部の出し物も昨日で終わりにした。


ということで俺は一人で校舎を彷徨っていた。


「ハスミ」


「うお!」


突然横から現れたのはアリーだ。腕にぎゅっと抱きつかれる。


「どうした」


「……私こういうの初めてだから……案内して」


ごめんね。俺もこの文化祭は初めてなんだよ。


「じゃあ、鬼無里先輩とかに合流して教えてもらおうか」


若しくはリア充実篤。今きっとどこかで満たされた顔で楽しんでんだろうな。昨日のでファンも増やしたし。


アリーは上目遣いで言った。


「……ううん。ハスミと二人きりがいいの」


「おうふ」


変な声出た。そのレンジからの攻撃は反則でしょうに。


「じゃ、じゃあ、どうするか」


俺はポケットから学園祭のパンフレットを出す。結構しっかりと作り込まれていた見ているだけでワクワクしてくる。


「……ここ、ここ気になる」


アリーさんが指したのは屋台ゾーン。食べ物系の出し物が数多く揃っていて本物のお祭りのようになっている。


少しばかり早いが混む前に何かお腹に入れておくのも手か。


「行こう」


「……うん」


するりと俺の腕を取ったアリーと一緒に歩き出した。


ガヤガヤとした校内を二人で進む。こんなに人が来るのかと思うほど一般のお客さんが多い。入学を目指す中学生が大半かと想像していたが、小学生ぐらいの子供とその親もいるし、地域のお年寄りっぽい人もいる。OB・OGかなんかだろうか。


屋台エリアへと到着する。美味しそうな匂いが漂ってくる。普通のお祭りよりいくらか安めでお求めやすくなっております!


「うわぁ」


横へと目を向けるとアリーが目を輝かせていた。


思わず頰が緩む。


「何を食べます?」


「……ハスミは何が良い?」


「うーむ。たこ焼きとかお好み焼きとか好きかな。あと甘いもの」


砂糖の塊であるわたあめとかこの歳で普通に買っちゃう。


「……じゃあ……それ買おう。わたしはよくわからないし……それにハスミが好きなものを好きになれたらうれしい」


「…………」


俺たちはいくつか適当に見繕うと、設置された食事スペースの端っこの方へ陣取った。


「「いただきます」」


二人で手を合わせる。まずはたこ焼きから。うまい。外はカリカリ中はもちもちの典型的パターン。あの野球部員良い腕してんな。


アリーもハフハフと熱そうにお好み焼きを頬張っている。


「……おいしい!」


飲み込んでそう言った。それはもういい笑顔で。 それからも二人でお祭りグルメに舌鼓を打った。






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