夜の縁側には花火と美人がよく似合う
「ここは……」
知ってるなぁ……この天井は……
「俺の部屋か」
なんで寝てんだっけか?そりゃ眠いからだろ。寝る理由なんて考えなくったってわかる。いやいや、そういうことを言ってるんじゃなくて。 ボーっとした頭で状況を把握しようとする。確か今日は部活動でコスプレを……
「……!」
意識が覚醒してバッと起き上がる。 そうだ俺倒れたのだ。冬香と再会して。あの日を思い出して。思い出すだけでぶっ倒れるとは。
「情けない」
口から弱々しい声が漏れる。
多分ここまで運んでくれたのは実篤か?それともタクシーとかを呼んだのか。どちらにせよみんなに迷惑をかけたことには変わりないから謝らないとな。
「はぁ」
口からはこんなものしか出てこないのか。ため息は幸せが逃げてくんだぞ。いいなそれ逃がせる幸せがあるとか。
ふっと力を入れて体を起こす。割とすんなり身体は起きてくれた。まあそりゃそうか。別に身体に異常はないんだから。ただ少しばかりメンタルがマイナスよりなだけ。
みんなはリビングか?てか今何時だ。俺はどのくらい寝てたんだ。枕元の目覚まし時計を引き寄せると針はちょうどどっちもてっぺんを指していた。 もう12時かよ。実篤たちは流石に帰っちゃったな。霞たちももう寝てるか。
立ち上がって部屋を出てリビングへと向かう。お腹も空いたし。一応誰か起きてるかもしれないし。廊下を歩きリビングへ。
あれ?縁側の方から物音がする気が。そっちにはトイレがあるし誰かが言ってるかも。俺は縁側の方へ向かうことにした。
薄暗い廊下を歩き、近くの街灯の明かりが塀を越え少しばかり照らす縁側へ。
廊下の曲がり角からぴょっこと顔を出して縁側を確認。
そこには縁側に座り夜空を見上げる花凛さんがいた。その横顔は何故か今にも泣きそうに見えた。
いや、ただ自分の感情を花凛さんに投影しているだけなのかもしれない。
ふらふらと花凛さんの方へ歩いていく。
花凛さんもこっちへ気づく。一瞬驚いた顔をしてそれからゆっくり微笑んだ。よかったと口がそう動いた気がした。
俺は花凛さんの横に腰を下ろした。
「目が覚めて良かった」
「心配かけました。すみません」
「みんなリビング?居間?で待ってたんだけどもう寝落ちしちゃったかな」
「……本当にすみません」
「最初は天ちゃんとかアリーちゃんは蓮水の布団の中に入ろうとしてたんだけど、実篤くんが起きた時に一人にしてやろうって」
「……」
本当に実篤にはお世話になった。真面目にお礼を言わないとな。気持ち悪がられれるだろうけど。
「霞ちゃんも実篤くんも先輩も天ちゃんもアリーちゃんも、もちろん私もすごく心配した」
「はい」
二人が黙る。昼間とは違う夜の空気が俺らを包み込む。いつもなら何故だかワクワクする夜の匂いをかいでも心は全くおどらなかった。
「ねぇ」
「はい」
「告白の返事聞いてもいい?」
「…………………………………………すみません」
「それは私が嫌いだから?それともあの子が関係あるの?」
「いいえ…………はい」
「ふふ、どっちよ」
「…………」
「ねぇ」
「はい」
「聞かせて。蓮水とあの子の話を」
「……………………はい」
俺はポツリポツリと語り始めた。あの俺にはもう遠く色あせた冬の日を。
***
「これが俺と冬香ー七瀬 冬香の話です。聞いても面白くなかったですよね」
俺は笑みを浮かべた。そのつもりだ。少しでも軽くするように。
「そんなことがあったんだ……」
花凛さんはまた夜空を見上げた。まるで俺に自分の表情を見せないように。
「ねぇ蓮水。私の告白断ったのってその話が理由?」
「そう……だと思います」
あの出来事は楔だ。俺の中にまだ鈍く深く刺さっている。俺を恐がらせる怖じ気つけさせる、一線を跨がせないようにしているのだ。 俺はそれからずっとずっと目を逸らし続けてきた。わからないふりをして、気づかないふりをして。
「そっか」
花凛さんは軽くそう言って、こちらを見てにぱっと笑った。八重歯を見せて。初めて出会った時のように。
「遠江 蓮水くん!」
「えっ?」
「遠江 蓮水くん!」
「はっはい!」
突然のフルネーム、突然のテンションに混乱する。真夜中の帳を切り裂いて花凛さんのところだけ明るくなったような気がする。
「私はあなたに振られました。だからこれは八つ当たりです!最低な行為です!」
「八つ当たり?」
最低な行為という言葉を何故そんなテンションで?
花凛さんは大きく振りかぶった。さっき夜空を見上げていた女性とは思えない豪快なフォームだ。
「いつまでもウジウジしてないでよ!」
「おぶっ!」
そう言ってグーでパーではなくグーで横っ面を殴られた。




