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薄情者が二人

張り込みをしていた教室に放課後俺はいた。西日がかすかに差し込む教室は薄暗く、少し不気味だ。今の心情的にそう見えるだけかもしれない。


ペタペタと廊下を歩く音。多分、俺が呼び出した人だ。教室のドアが開く。


「待ってたよ」


立っていたのは冬香だ。


「もう、何?こんな所に呼び出して。……はっ!まさか告白!?」


「違う」


「うわぁーばっさりだー」


そうクスクス笑う。本当に変わらないいつもの冬香だ。


「呼び出した要件は報告と質問だな」


「報告と質問?」


「まずは報告。冬香にも協力してもらった霞のこと」


「ああ、霞ちゃんの」


少し顔が曇る。そこに込められている感情はわからない。


「霞はさ嫌がらせを……いや、いじめを受けてたよ」


「え!?」


「霞から直接聞いた。どんなことをされてるかも。いつされていたのかも。聞いて、確かに俺の調べ方じゃいじめが発覚しないわけだって思った。考え方がずさんすぎた」


「やっぱり噂は本当だったんだ……それで今日はそのいじめっ子を捕まえる相談をこれからするの?」


また二人でそれができたらどんなに良かったか。


「いや、もう終わってるんだ」


「終わってるって?」


「だからもう、いじめっ子を特定して、問題は解決してるんだ。今のところはいじめも止まっている」


俺はそう言って冬香にデジタルカメラを渡した。その中には、霞の持ち物をゴミ箱に捨てたり、ノートに落書きしたりしている女子二人の写真がおさめられている。


「いじめを受けるようになってからさ。霞、持ち物は全部持ち帰ってたんだけど、あえて教室に残してったらこの通り」


「……ひどいね」


「霞も霞でさクラスメイトにバレないようにいじめの痕跡を全て隠していたんだと。恥ずかしいというか情けないというかそういう気持ちになってさ。誰かにバレたくないのは確かにわかる」


家族にさえ言えないなんて。いや家族だから言えないのか。それとももっと自分が頼りがいなくある兄だったら変わっていたのか


「それを持って、そいつらと話をつけてきた。すげぇ苦々しい顔してたけどな」


いじめていた理由は聞いていない。霞に聞いてもわからないという。霞が言うには特に関わりのなかったクラスメイトだそうだ。


なんとなくやるせない気持ちが全身を包む。


それでもこれで終わりならハッピーエンドだ。俺のやるせなさなんて関係ない。



一つだけ確認がしたかった。


「冬香。本当はもっと早くいじめのことに気づいてたんじゃないのか?」


「……どうして?」


「霞から聞いたんだ。俺たちが張り込みを初めた日も机の中に物を入れてていたずらされたって。いじめてたやつにも聞いた朝のどれくらいにそれをやってたのかを。なあ、教えてくれ。冬香はそんなことを見ていないよな?お前が来る前にそれは終わっていたそうなんだろ?」


「……おかしな質問の仕方だね」


冬香はそう言って柔らかく微笑んだ。


()()()()()


「……なんで…………!?」


なんでそんなことをしたのか。なんで認めたのか。嘘をついたってバレないのに。いじめをしてたやつらとお前なら確実にお前を信じたのに。なんでハッピーエンドで終わらせてくれないのか。


なんで俺はこんな質問をしてしまったのか。


言葉にならない疑問が次々とわきあがる。いじめをしてたやつらとはまた違う感情の揺れが引き起こされる。


「なんでって言われてもなぁ。なんで教えなかったっかってこと?それともなんで嘘をつかなかったっかてこと?嘘をつかなっかったのは、そうだなぁ〜多分ここで嘘をついててもバレてたよ蓮水には。蓮水はよく私のことを知ってるからね」


なんでもないことのように指を振りながら語る。いつも通りに。平常に。


「教えなかったのは『蓮水が好きだから。』かな」


「は?」


甘い青春の一ページのようなその言葉は、今の俺には到底受け入れられるようなものではなかった。


「すき?はぁ?好き?それが何の関係が」


「あるよ。関係あるよ。だってあそこであの問題が解決しちゃったら蓮水との二人っきりの時間が終わっちゃうじゃん。蓮水が悪いんだよ。蓮水話してるさ、楽しくて幸せでしょうがないんだもん。どれだけあってももっともっと欲しくなる。蓮水も同じ気持ちでしょ。一緒の時間は居心地がよかったでしょ?」


「そんなことのために、いじめを見逃したのか……」


「でもさ、私が言わなかったら蓮水はいじめにさえ気づかなかったかもしれないんだよ。結局は私のさじ加減。自分のための選択をするのがそんなにダメなこと?」


何も言えなかった。理解してしまったのだ。今の冬香の言い分を。感情を理性が制する。普通にとか人としてとか言えることはあるはずなのに真っ先に自分がそれを否定していた。倫理ではなく論理でことを運ぼうとする俺がいるのだ。


そうだ。俺は冬香を攻めることができない。気づかなかった俺も言わなかった冬香も霞にとっては同じことだ。





「ねぇ、蓮水」


気がつけば冬香が目の前にいた。


「あなたが好き。大好き」


甘ったるくて気持ちが悪い。


「蓮水は?」


ーーーー俺は、


「お前が大嫌いだ」


そう言って、そう言い捨てて、俺は教室から逃げ出した。















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