双子の兄妹は難しい
自分の部屋で座って今まででのことを考える。一週間毎日張り込みをした。放課後も休み時間も見に行ったりもした。霞と同じクラスの友達に話を聞いたりもしてみた。冬香には霞が嫌がらせを受けているかもしれないと最初に言った友達にもう一度話を聞いてきたもらった。情報は曖昧なままだった。これらのことからわかるのは、霞がいじめられている可能性は極々低いということだ。まあ、いじめはないにこしたことはない。成果が表れなかったというのはある意味で良い成果だった。便りがないのはよき便り的なのりだ。
しかしながら霞のことをあらためてじっくりと見てわかったことがある。なんだか少しだけ元気がないような気がした。俺たちはいじめられていると思っていたが、もしかしたら違うことで悩んでるのかもしれない。機会があったら聞いてみよう。たまには兄らしいことをしないとそろそろ弟扱いされてしまう。
「そろそろ、めしできたかな」
考えがまとまったところで空腹を覚え、居間に行こうとふすまを開ける。
「あっ」
「おっと、霞か」
ちょうど霞もふすまをノックしようとしていたらしく、霞の手が空をきった。恥ずかしげにその手を胸に抱いて言った。
「夕食できたよ。食べよ?お兄ちゃん」
「ああ」
ほほ笑んだ霞の顔はやはりどこか疲れてるようなきがした。だから霞の後をついていきながら、なんともなしに切りだしてしまった。
「なあ、霞。なんか悩みでもあんのか?」
「え?」
霞の足がとまり、こちらを振り返ろうとするが、すぐにまた前を向いて歩き始める。
「悩みなんてべつにないよ」
「本当か?なら別にそれでもいいんだけどさ。なんだか最近疲れているようだったからさ」
「う~ん。しいていうなら愚兄が朝全然起きてこないとか、ご飯の準備を手伝ってくれないとかかな~」
「ぐっ」
少しからかい交じりに言われた言葉はなかなか胸に突き刺さる。たしかに迷惑しかかけてない。おれかよ悩みの種。
「その件については本当にすまんかったと思ってる……善処します」
「うん、ありがとう」
こいつ絶対しないと思ってるな。ふふふ、今に見てろよ。目にものを見せてやる!
そんなことはどうでもよくて
「まあさ」
「?」
「冗談じゃなくてさ、なんかあったら言えよ?」
「……え?」
「悩みが無いんだったらそれでいいし、言いたくないことだったら無理に言わなくてもいい。だけどさどんなに頼りなくても、たとえ歳が同じでも俺はお前の兄だからさ。お前が困ってるなら助けになってやりたいよ。落ち込んでいるときはとなりにいてやりたい」
「……」
「単純に親二人がいなくて寂しいとかだったら俺に甘えてもいいし。……んん?違うか。俺が霞に甘えられたいんだ。たまには。寂しいし」
何言ってんだろな俺。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「まあ、なんだ、そういう感じだけどよろしく」
最後は訳がわからんくなった。
霞は今度は完全に足が止まっていた。流石に突然すぎてどう反応していいかわからなかったか。俺も今羞恥心がうねり荒ぶってるし。
だから、その霞の言葉への反応が遅れてしまった。
「……お兄ちゃん」
それはとても掠れた声だった。
「…………私を助けて……」
振り返った霞は泣いていた。もう何年も見たことない泣き顔だった。