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忘れてはならないもの忘れたいと思うのはいけないことか?

一部変更しました。

俺はその声を知っている。いつもいつも俺の名前を呼んでいた声を。常に楽しげに俺に話しかけてきたその声を。俺の中学時代を彩っていたその声を。そういえば、落ちた声はほとんど聞いたことがなかったなとやけに冷静な部分がそう囁く。


俺は彼女を知っているのだ。後ろを振り返らなても誰だかわかるぐらいに。


そんな彼女を俺は…俺は…


「離れろ!」


実篤が俺の肩と彼女の腕を掴んで引き剥がす。実篤はそのまま二人の間に割って入り、俺を背中にかばうようにして立つ。


一年半ぶり見る彼女は何も変わっていなかった。何も変わっていないかのように嬉しそうに笑っていた。


「ひどいな〜どうしてそういう事するの?実篤くん。愛し合ってる二人を引き剥がすなんてひどいよ。もう〜」


「愛し合ってる?お前は何を言ってんだ?」


実篤は苛立ちながら言う。全くわけがわからないといった風に。


ああ、確かに意味がわからない。俺は確かにあの時に言ったのだ。自分の能力を使って発言した。だから、


「な、何でお前は俺のことを覚えているんだ?」


震える声が出た。今まで聞いたこともないような情けない声だった。


「蓮水?」


実篤が俺を不思議そうにみるが、そんなことを気にしている余裕はない。


「何を言ってるの蓮水?私はずっーーと蓮水の事を想い続けていたよ。忘れるわけないじゃん。今日は蓮水の写真をみて会いたくなったから来ちゃった。てへ」


「写真?」


「うん、商店街のショーウィンドウに貼ってあった写真。うふふ、私あの写真からすぐに蓮水を見つけちゃったんだよ!もう見た瞬間ビビッと来ちゃったからね。やっぱり愛のなせる技かな」


学園祭のポスター…そんなものだけで思い出すのか普通!?


「それで蓮水に会いたくなったんだけどー蓮水電話に何回かけても出ないんだもん。でも、少し探したらこうして会えたんだし、やっぱり私たちってしっかり運命の赤い糸で繋がっているよね、ね」


彼女はそう言ってにっこりと笑いかけてくる。俺と実篤は唖然としていた。こんな彼女の発言は聞いたことがなかった。俺が彼女と付き合っている事実もなければ、彼女がそんな妄想を語ることも以前はなかった。


俺たち二人は声も出せなかった。


「あなたはどちら様ですか?」


そんな中で花凛がそう問いただした。明らかに怒りを滲ませている。……当たり前か。やばい、ほったからしにしすぎた。


「ん?君こそだーれ?あ、もしかして蓮水の友達かな?」


今いたことに気づいたかのように彼女は言う。いや、たぶんそうなのだろう。彼女の目には俺しかはいていなかった。花凛の怒気にも頓着しない。


「そうですね。友達です。だけどさっき蓮水に告白したので恋人になるかもしれません」


「へぇ」


彼女は同じように微笑みながらも、冷たい声で言う。一気に気温が下がったような感覚に襲われる。


「でも〜残念でしたー。蓮水は私の彼氏なのであげませ〜ん。なんかごめんね。蓮水が思わせぶりな態度をとちゃったみたいで。蓮水はさ誰にでも優しいから期待しちゃうよね。うん、蓮水には私から後でちゃ〜んと言っておくから。蓮水はみんなのものじゃなくて私だけのものなんだってね」


さも、当然のように彼女の口からながれ出る言葉は意味がわからず。そして昔の彼女の言葉とも思えなかった。


「それに、蓮水は私のヒーローだから」


「え?」


その言葉はどこか重みがあった。簡単に言っているがその言葉だけ今まで喋っていたトーンとはかけ離れていた。彼女はそのまま続ける。


「ああ〜思い出すな〜ある冬の日」


俺の頭がズキンと痛んだ。


「放課後の教室で」


あまりの痛さに俺は膝をつく。


「いじめられていた私を」


心臓の音ががうるさいぐらいに聴こえて。


「蓮水が助けてくれたんだもんね」


俺はそこで意識を手放した。

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