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何事にも助走はいるものです

ケース4 英 花凛


「どうしたんだよ蓮水?今度は難しい顔して座って?」


「いや、俺なんか変な時空に飛ばされたんじゃないのかなと思ってさ」


「はぁ?」


だっていやこんなに1日に色んな女子と身体的接触をすることあります?普通の人だったらないでしょう?字面だけ見てみ。俺ただのクズ男だからね。字面だけ見れば。


ラブコメの神様が大盤振る舞いしてくれてんの?対価に何を捧げればいんだろ?俺が一生結婚できないとかかな?ありえる。


「んん?あれ?実篤?」


あいつ自分で話しかけておいて何処行ったんだよ?おいおい俺をこんなところに一人にしておくなよ。知らない場所に置き去りは寂しすぎるだろ。


「蓮水」


「ああ、花凛さん。実篤が何処に行ったー」


そこには花嫁がいた。


正しくは純白のワンピースをまとった花凛さんだ。体をぐるりと一周させるようにフリルがあしらっており、ぱっと見るとウエディングドレスに見えた。ここが、コスプレ屋さんということを鑑みるとそう見せるために作られているのは明らかだ。


「どう?」


「どうって言われても…」


「何かあるでしょ。かわいいとか。かわいいとか。かわいいとか」


「答えが誘導されてる!」


「じゃあ、可愛くない?」


「あ…んん……よく似合ってますね?」


「詰まってるし、言葉違うし、疑問形だしマイナスかな。ギリギリ及第点。じゃあ、はい」


花凛さんはスッと俺に手を差し出してくる。


「エスコートしてくれないの?執事さん」


いや、執事じゃないですし。いつもの俺だったらそう言っていたかもしれない。


だけど今日はやはり俺はおかしかった。執事の格好をしすぎたせいかもしれないし、この前の四人に色々やらせれて心理的なハードルが下がっていたのかもしれない。


俺は花凛さんの手を無言で取ると、スタジオへ誘った。別に腕を組むわけでもなければ、恋人繋ぎで並んで歩くわけでもない。ただ、優しく花凛さんの歩幅に合わせて歩いた。それが自然なことだと思って。


スタジオに入った後も他の人はどこか違っていた。なんだか淡々としていた。カメラさんも同じように指示は出していたけど、興奮をすることなく仕事をこなしていた。


「これは〜んん〜いつもの執事に〜花嫁か〜でもこれは…」


カメラさんは少し考え込む。


「じゃあ〜最後です〜二つ椅子を持ってきてもらって〜並んで座ってください〜もうちょい真ん中を開けて〜はいオッケー」


それは手を出せば届きそうなくらい開けられた椅子。二人は顔を合わせることなくカメラの方を向いて座った。それはツーショットと言えるのかはわからない。ただ、おさまりは良かった。


カシャ


シャッターが一回だけきられた。


「蓮水」


花凛さんに呼ばれて横を向く。花凛さんは何かを決意したような顔で言った。


「ありがと」


***


そんなこんなで割と長いこと店にいた俺らは帰路についていた。学園祭の時は俺と実篤が今日着ていた服をレンタルすることに決めたそうだ。


ちなみに女子はコスプレしない。今日着ていたのはただの遊びだったようで。


俺と実篤を先頭に後ろに女子5人仲良く歩いている。今日撮った写真を見せ合いながら。わいわいきゃっきゃっしていた。


そうしてるもんだから少し男子二人と距離が空く。


「なぁ、蓮水。今日は楽しかったか?」


「ああ?なんだよ突然?」


「いや、お前が楽しめていたのか気になってな」


「俺は楽しくない時に気をつかって愛想笑いをするほど性格は良くないぞ」


「楽しいぐらいスッと言えよな」


実篤は呆れたように笑った。


うるせぇ。俺はお前みたいに遊び慣れしてないんでね。楽しいことを楽しいっていうのも、友達を友達っていうのも苦手なんだよ。


「よし、じゃあ今日はお前の家で夕飯食おうぜ!」


「何がじゃあなんだよ」


「1日一緒に遊んだら最後の締めまでする。高校生の特権だろ」


「初めて知ったわ」


「おおーい。霞ちゃん」


「聞けよ。人の話を」


実篤は果敢にも女子の方へ飛び込んでいく。霞は実篤の提案を嫌そうにしていたが、多分あれはフリだろう。今日は賑やかな夕飯になりそうだ。


実篤と入れ替わるようにして花凛さんがこちらへ来る。


「今日はごちそうさまです」


「俺の家で夕飯を食うのは決定したんですね…」


「そりゃ意外にこのメンバーが全員揃うことってないしね。もうちょっとだけ遊びたくなったんでしょ」


「そんなもんですかね」


俺は頭をかいて歩き出す。後ろの方でなんかドッタンバッタンしているが無視無視。おおかた実篤がお仕置きされてんだろ。不用意な発言で。


夕日に照らせれた道を歩く。後ろには賑やかな声が追ってくる。


あんまりこういうことは感じないタイプだとは思っていたけど、これはなんだか良いかもしれない。


「ねぇ蓮水」


「はい」



ーーーその時俺は何かが崩れる音を聞いた気がした。それは新しいステージへ変わる音なのか。それとも俺たちの日常が壊れる音だったのか。




「私ね天とアリーちゃんが羨ましいなって思うの」


花凛さんは唐突に言った。俺は思わず立ち止まって花凛さんの方を振り向く。花凛さんは静かに微笑んでいた。


「あんだけ好意を表面に出せるのもすごいし、スキンシップが凄くてもあの子達のキャラでそれが許されてるし、一緒に住んでいてずっと一緒に居て、一人はしかも婚約者ですごい羨ましい」


「先輩にも憧れる。いつも大人の余裕みたいの出してて、かっこよくて美人さんで、運動神経もいいんだって。それに良く頼られれてる。誰からも一人からも。それで時にかわいい一面を魅せるって反則だよね」


「霞も妬ましく思う。小さい頃から蓮水の隣にずっと居て、一番近くで蓮水を見続けて、今も蓮水の世話を焼いて、一途に思っていて。すごい嫉妬する」


「い…一体…何の話を…?」


誰のことを言っているのかはわかってだけどー


「君の話だよ」




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